レクリエーション
「今日は待ちに待ったレクリエーションイベントです……。自分の今の実力を出し切り、全力で挑んでくださーい……」
担任教師の弱弱しい声が教室内に響く。
「おー……」と片手を上げる彼女に同調する者は一人も居ない。
しかし皆どこか張りつめた表情を浮かべている。
この学園では毎年新入生歓迎会という名目でのレクリエーションが行われる。
高等部の一年生全員が参加し、教師陣が用意した様々な
ここで結果を出した生徒は有望な上級生から声をかけられたり、卒業後の進路にも大きく有利に働くというここの学生なら決して逃すことのできない行事だ。
だからこそ、教室内の空気は重苦しいものになっている。
それこそ担任が圧倒されてしまうほどに。
「トホホ、学校始まったばかりだってのに誰も楽しそうにしていない……。私はもっと青春生活をエンジョイしたいのに……」
星導学園は完全なる実力主義だ。
当然ここでの成果が今後の生活におけるヒエラルキーを形成する。これが終われば、もう実家の権力なんてものは通じなくなってしまう。
原作における俺の最初の岐路だ。
「皆さんね、余り肩肘張りすぎないでいきましょー……。……じ、じゃあグラウンドに行きましょうか」
俺達は担任主導のもと外に止められていたバスに乗り込む。
この学園の敷地は異様に広いが故に、移動にはこういった乗り物が必要なのだ。
因みに校内には路線も通っている。
寮などの施設の膨大さと言い、まさに学園都市といったところか。
因みに今日グランキオはお休みだ。何か身体に力が入らず眠いらしい。
霊獣にも体調不良があるらしく、少し気怠そうにしていたため置いてきた。
少しダランとしていただけだし、大丈夫だろう。
「…………」
バス内では会話も一切無い。
仲良しこよしをする気はないといったところだろう。
この場に居る全員が蹴落とすべきライバルであり踏み台。
例え魔導科で無かったとしても、この事実は変わらない。
舞台が変われど向上心を持つ者達が集えば、必ずそこで序列争いというものが発生するのだ。
(いよいよか……)
俺もまた自分の心臓が鼓動を速めているのを感じている。
この先が運命の分かれ道だったということもあるが、それ以上に遂に邂逅するのだ。主人公とヒロイン達。そしてその他ネームドキャラ達に。
どいつもこいつも原作では多様な活躍をしていたキャラクター達。
そいつ等を相手にすることに対する緊張と高揚。そしてその先に勝利を掴む未来を想像するだけで、ああ胸が躍る。
吉良をぶっ飛ばした時のような快感を味わいたい。
俺はそのためだけに力を蓄えてきたのだと確信してしまう、あの衝撃を再び。
景色が流れ、その先に見えてくるのは巨大な円形ドーム。
一見古代の闘技場のようにも見えるそれがレクリエーションイベントにて使用される会場だ。
「でっけぇ……」
誰かが呟いた。
バスを降りて見上げるとその巨大さがよくわかる。
首都にある最も巨大なドームの約三倍。
星導でも特に規模の大きなイベントでしか使われないということもあってか、その広大さは筆舌に尽くしがたい。
ゲームの内容にもよるが、基本的にはこの広大さを余すことなく使用するのが通例となっていると聞く。
「そ、それでは学籍番号順に並んでください……」
どうやら俺達が最初にやってきたらしい。
言われた通りに列を作って待っていると、他の科の奴等も続々とやってくる。
魔法研究科、魔獣学科、経営科、そして魔導科。
花形クラスの魔導科は一番最後にやってきた。
文字通りの重役出勤、お高く止まってやがるぜ。
そして少し目を向けただけでも数人のネームドを見つけた。
いずれも女子、大方主人公のハーレム要因か何かだろう。
既に会っている北風のその中に居た。
『それでは全生徒、入場してください』
「…………?」
備え付けのスピーカーから声が響く。
女性の声だ。それだけなら特に珍しくも無いのだが、妙に既視感を覚える。
スピーカーを通している声のため確信を持てた訳ではないが……、知っている声な気がしてならない。
しかしそれを思考する間もなく、列は進み始めた。
歓声が聞こえる。中に設置されている観客席には多数の生徒や教師、関係者が座っている。
「「…………え?」」
皆、少なからずこの歓声に圧倒されているようだ。
人伝に聞いてはいても、実際に入ってみるとその感じ方は全く異なる。
頬に汗を流し、身体を強張らせる者が大半の中、二つの声が重なった。
一つは俺のもの、一つはまた別の誰かだ。
そして少なくとも俺はその対象が明確だった。
「新入生の皆さん、こんにちは」
柔らかな女性の声が響き、視線がそこに集中する。
その後誰もが息を飲んだ。
そこに居たのは若くして召霊術の博士号を取得し、かつて巻き起こった同時多発大厄災にて多大な功績を収めた才女。
そして、今の今まで姿を消していた元国家魔導士であり現絶級職人の称号を持つ者。
「今回
本来、ここであがるべきは歓声だ。
しかし今回に限っては勝手が違う。爆発的に広がるのは動揺の声。
一体何が起こっているのかわからないという者が大半を占めていた。
生徒の中で動揺が軽く済んだのはきっと俺だけだろう。
俺だけが唯一、ウィズが活動を再開させていたのを知っている。
だが彼女がここに居るという事実は知らず、ただただ驚くばかりだ。
「ウィズ・ソルシエール!? え、本物!?」
「何で!? 行方知れずだったんじゃ……」
「表舞台から姿を消したって聞いたぞ!?」
「僕はもう死んだって……」
「ウィズさん……!?」
四方から声が響く。ウィズはその経歴故に魔導士からも魔道具職人からも一目を置かれている存在だ。この場に居る全員から送られるのは驚愕の他には尊敬の言葉と眼差しばかりだ。
しかしそう長くは続かない。観客席含めた全ての場所から爆発しているそれらも冷たい風が吹いたことで消えていく。
今のは黄泉の風。霊獣達が住んでいる冥界に一瞬だけ繋げたことによって入ってきたのだろう。
「皆さん、よく勉強されていますね。大変結構です。仰る通り、私は暫く表舞台から身を退いていました。しかし様々な方々のご支援もあり、この度当学園の教員として活動を再開させていただくことと相成りました。今回はその記念すべき初仕事。私も通った星導最初の試練。初心に帰り、皆さんと一緒に盛り上げていこうと思っております。本日はよろしくお願いします」
言い終わるや否や猛烈な拍手がウィズに彩る。
俺も皆に合わせて拍手しながらも未だに戸惑いを隠せずにいた。
(聞いていないんだけど…………!?)
そう。この十年間ウィズとほとんど一緒に過ごしてきたというのに全く何も聞いていない。
実家や学校に居る期間以外はずっと彼女の研究棟に居たにも関わらずだ。
両親からは当然として、本人の口からも何も聞いていない。
原作に無い展開であるのもそうだが、ほぼ身内と言って問題無い俺にすら教えてくれなかったのは流石にショックすぎる。
「それでは早速、レクリエーションイベントを始めたいと思います。今年も教員の皆様が知恵を出し合い、様々なゲームが誕生しました」
だがそんなことを考えている間にも進行は進んでいく。
ウィズの言葉と同時にモニターに映し出される四種のゲーム。
戦闘力が試される『グレイブ・パニック』、素材を集めて製作を行う『クラフティング』、与えられた複数のお題に従って独自のビジネスを生み出す『企画会議』、魔法に関する様々なクイズが出題される『Mさま!』。
これらの中で自分の科用のゲーム会場に移動することになる。
(ウィズが居るのは一旦置いとくとして……俺が出るゲームはもう決めてる)
俺が視線を向けるのは製作科専用の『クラフティング』ではない。
今更一年生用のゲームに参加したところで何の面白みもない。
それよりも、俺自身の目的を果たすことのが重要だ。
即ち戦いに勝つ事。
よって参加すべきは『グレイブ・パニック』一択だ。
無論これは違反行為であり、バレれば説教じゃすまない。
だが問題無い。結果を出せば良いのだ。
結果を出し、魔道具では魔導士に勝てないという常識に亀裂をいれる。
それを果たせば学園側も完全に無視することはできないだろう。
ここは完全なる実力主義。自分の実力を示すには、何も正攻法である必要は無いのだ。
「さあ待ってろクソネームド共……」
この場に居る全ての原作キャラに心の中で宣言する。
この
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