第9話
季節はうつろえど、わたくしの心は止まったまま。雪の舞う空を見上げて、天童さまに会った日を思い出しました。
お祖父様と両親とともに「料亭か乃や」へ行くと天童さまとご両親と上司の方がすでにお待ちになっておりました。
天童さまは仏像のように固まり、祖父や上司の問い掛けには「はい」としか申されず、歓談ののち「庭を歩いてきなさい」と席を立たされた時は、わたくしだけが立ち上がる始末。しかし天童さまは立たなかったのではなく立ち上がれないのだと気付きました。足が痺れているようでした。
顔は赤くなり恥ずかしいのだろうと察します。
「あのう。お庭に行く前にお花を摘みに行ってもよろしいでしょうか?」
「これは失礼、小夜殿。どうぞどうぞ行ってきてくだされ! これは機転のきく素晴らしいお嬢様ですな〜」
お酒が入り赤い顔の上司に退室の許しを得るとわたくしはゆっくりと厠へ向かいました。
戻ったときには天童さまは立ち上がっており、わたくしを確認して「庭へ」と短く言葉を発されます。前を歩く天童さまは何かボソボソとおっしゃっているようで所々しか聞こえません。
「ぼくねんじ」「もったいない」
そのような言葉が聞こえた気がします。
そしてお庭に着くと天童さまは「この縁談はなかったことにしたほうが」と小さくこぼされました。
天童さまはわたくしから視線を逸らし、庭を歩いていた美しい婦人をご覧になっておりました。会ってみた女がこのような子どもでがっかりされたのでしょう。
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