第10話

 温かい思い出を冷やすように外に出たはずが、一層切ない気持ちになります。

 寒風に思い出が負けるわけがありません。


 当てもなく歩いていた足はどういうわけか植物園へ向いておりました。

 秋花は枯れ、紅葉も裸になり、寒寒しさが強調され、泣きそうになりました。


 その時どこからか咳込む音が。


 音をたどれば奥のベンチに座る巨躯。背中を丸め苦しそうに咳を繰り返しております。


 お医者様を呼ぶべきか思案しながらそっと近寄ると、わたくしの足音に気付いたのでしょう。背中を折っていた塊は口元を手で押さえて顔を半分上げました。


「大丈夫ですか?」


 わたくしの問い掛けにその方の目は見開きました。無造作に伸びた髪のせいで一瞬分かりませんでしたが、この方は――。


「て……」

「ゲホッゲホッ」


 あと数歩の距離を駆け寄り背中を撫でます。


「は、な、れてゲホッ」

「近付くのは辛抱ならないかもしれませんが今はお許しください」

「ちが」

「お医者様をお呼びしましょうか?」

「いえ」

「ですが一度診ていただかないと」

「大丈夫です」

「どこが? 一体これのどこが大丈夫だというのです!?」

「主治医が……、おりますので」


 咳込みながら天童さまはそうおっしゃいました。


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