第8話
数日、女学校をお休みしました。
時折抽斗を開けてはそこにある大事なものを見つめ、静かに抽斗を閉めます。
わたくしにはそれをもう手に取ることができませんでした。
食事も喉を通らず、猫屋の豆大福を前にしても手が伸びません。家族から心配の顔を向けられるたびに早く立ち直らねばと思うのですが、心が付いていきません。
それからひと月も経たぬ内に祖父は新たな縁談を持って参りました。
しかしわたくしの中には天童さまが大きく残っております。
「天童くんのことは忘れるのだ。今度の男は小夜と年も近く話しも合うのではないか?」
天童さまと年が離れていようと話しは合いましたのに、まるで天童さまとは話しが出来なかったように言うのはやめて欲しいものです。
「次の休みに一度会ってみないか?」
わたくしの首は横にしか動きません。
「小夜……」
お祖父様は困ったように眉を寄せています。ですがそのような顔を見てもわたくしの首は縦には動きません。
それから何度もお祖父様がわたくしの首を縦に振ろうと努めてきます。
「お祖父様。申し訳ございませんが、わたくしの心の中に天童さまがいらっしゃる限り応えることはできません。他の縁談を持って来るのはやめてください」
「はあ。なんと頑固なことか」
「頑固なのはお祖父様譲りです」
お祖父様は白髪頭をカリカリと掻いてため息を吐くと、観念したように微笑まれました。
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