第5話
植物園を出て次に向かった先は、なんと化粧品を扱う
化粧に興味はあれどこちらに来たのは初めてです。
まあ、と感嘆していると天童さまは硝子扉を引きました。いけません、天童さまの手を煩わせてしまいました。
「小夜さん、中にどうぞ」
わたくしが扉を押さえようと手を伸ばすより先に、促されてしまいました。これは学校で聞いた『レデイファースト』というものでしょう。まさかわたくしにそれをしてくださるなんて思ってもいませんでしたので、動きが止まってしまいました。
「小夜さん?」
「あ、いえ。ありがとうございます」
ゆっくり一歩中に入るとバラの香りがいたします。これは従姉のリエ姉さまが付けている香水の匂いに似ています。
「化粧、好きですか?」
天童さまが後ろから声を掛けられます。
「憧れはしますが……、わたくしにはまだ早いかなと……」
「小夜さんはそのままで十分可愛らしいです」
「え?」
天童さまが、わたくしを可愛らしいと?
聞き間違いではありませんよね?
「では行きましょう。2階がパーラーです」
「2階?」
天童さまの視線が店内の端にある階段を向いています。天童さまの後ろをついて階段を昇れば昇るほどに果物の爽やかな香りが強くなります。
2階フロアはとてもきらびやかで、それは天井にあるシャンデリアなのだとすぐに分かりました。
白いエプロンの女給に案内された席は二人掛けの円卓。高級そうな白いクロスの上にはお品書きがあります。
甘味の種類も豊富で、アイスクリイムもあります。
「もしかしてここが美成堂パーラーですか?」
小声で尋ねれば天童さまは是と答えます。
「実は来てみたいと思っていたので、とても嬉しいです。天童さまはよく来られるのですか?」
「いえ。同僚に聞いて。逢瀬で女性に喜ばれる場所だと」
逢瀬という言葉に頬が熱くなります。そうですよね、婚約者なのですから、お出かけは逢瀬になりますわよね。
「小夜さんは何が食べたいですか?」
「ええと、とても迷いますね。天童さまは?」
「私は……そうですね、先程小夜さんがプリンアラモードと言われた時からプリンが食べたくて……」
「ではプリンアラモードに?」
天童さまは恥ずかしそうに微笑まれます。その表情にわたくしの心臓が鞠つきを始めますので、わたくしは自分が何が食べたいのかよく分からなくなり、結局プリンアラモードを二つ注文しました。
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