第4話
天童さまが向かった先は植物園でした。美しく整備された花壇には見慣れない花が咲いております。どうやら西洋の花も植えられているようです。
わたくしでも分かるものは、バラ、コスモス。それからあれはダリアでしょうか。
優しい秋風に揺られ、芳香が運ばれてきます。
「いい香りですね」
天童さまは、はいと真面目に頷かれます。殿方は花をご覧になって楽しいでしょうか?
「小夜さんが花が好きと伺いましたので」
「わたくしが好きだから? 連れてきてくださったのですか?」
「はい」
「ありがとうございます。嬉しいです。天童さまはお花お好きですか?」
「あー」
困った声が返ってきます。
「正直、良さは分かりません。ですが小夜さんが好きなものを一緒に見て、好きになれたらいいと思います」
天童さまのお言葉に、胸がじんわり温かくなり、少しだけ泣きそうになりました。
天童さまはとてもお優しい方なのです。
「天童さまがお好きなものをわたくしにも教えていただけませんか?」
「私の?」
「はい!」
天童さまは何がお好きなのでしょうか?
「わたくしも天童さまの好きなものを一緒に好きになりたいです」
「あ、あ……。私が好きなものは……、その、……甘味が、好き、です」
恥ずかしそうに天童さまが答えます。なんて可愛いらしいのかしらと思ったのは内緒ですよ?
「わたくしも甘味好きです! 先日はお友達とプリンアラモードをいただいて、その前は猫屋の豆大福を夕方に三つも食べました!」
「猫屋の豆大福はだいぶ大きいでしょう?」
「ええ。それで夕餉を半分残してしまいお母様に怒られてしまったのですよ」
天童さまの口角が少し上がりました。
いやですわ、まるで子どもだと呆れられてしまったでしょうか?
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