第3話

 翌昼、お迎えにきてくださいました天童さまと共に外出いたします。


 休日といえど天童さまはいつも軍服をお召しです。わたくしは本日は袴ではなく洋装です。大人の女性が着る流行のモガではありませんが、フリルのブラウスに膝が隠れるスカートをはきました。可愛いと思ってくだされば嬉しいのですが、天童さまの表情は変わりません。


 今日はどちらへ行くのでしょう?

 何も聞いておりませんので、わたくしは置いていかれまいと必死に付いて行きます。天童さまの一歩はとても大きいのです。よそ見などできません。


 いえ、よそ見などいたしませんよ?

 斜め後ろから見える天童さまはとても凛々しくいらっしゃいます。顎を引き、背筋はぴしと伸び、軽く握られた拳には筋が浮き、いつかあの手に触れられたい――いけませんわ。往来ではしたないことを考えてしまいました。


 急に天童さまが振り返ります。はしたないことを考えていたと気付かれてしまったのでしょうか。


「危ない」


 声と共に伸びてきた逞しい腕がわたくしの肩に触れ、わたくしの身体が傾ぎます。


「っ」


 何が起きたのか理解する前に、わたくしの前には天童さまの胸。背中には天童さまの腕が。


「小夜さん大丈夫ですか? 危なかったですね」

「え?」


 何が危なかったのでしょう。近距離で天童さまに見下ろされれば、顔が熱くなってしまいます。

 心臓もいつもの鞠つきではなく、大暴れしております。このままでは身体の外に飛び出すのではないでしょうか。


「自転車が蛇行してました。小夜さんにぶつかるのではないかと思ったのですが……」


 急に天童さまが一歩下がります。


「し、失礼しました」

「いえ。あ、ありがとうございます」


 お礼を言うので精一杯のわたくしは顔を上げることができません。顔がとても熱く、両手で頬を押さえました。

 おかしな娘だと思われたでしょうか?

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