5
「……創世の時代より、楽園を捨てて堕天する者たちは後を絶たない。神に叛逆した、かの明けの明星を筆頭に、人間の女に魅了され、情欲のうちに地に降臨したアザゼルほか二百名のような話は、数えきれない。……ことに我々、最も下位に属する者たち、人間と人間の世を直に見守る者たちはとくに、約束された永遠の生を放棄して、死すべき人間のあいだで暮らすことを選ぶ者が増えている。……星々よりも、人間たちの窓の灯をよりいとおしく、近しく思うのだろうか。君も、そちらを選ぶのか。……」
高い、高いところにいる。東京タワーも、新宿西口の高層ビル群も、遥か眼下に小さく霞んでいるほど、高い。
歓声が聞こえている。観客の、姿は見えないが、こちらの名前を呼ぶ声だけはひっきりなしに届く。ギターも鳴っている。ライヴの最中で、気持ちよく歌っているのだった。
ステージは透明なアクリル板ででも出来ているのか、まるで空中に浮いているようだけれど、呼ばれるままに前へ出る。怖くはなかった。
いざとなったら、飛べばいい。
呼ぶ声は止まない。演奏も激しさを増す。前へ、前へ、とゆくうちに唐突にステージがなくなって、宙に放り出された。
――途端にすべてが暗転し、どこまでも落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます