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 スマートフォンの振動で守屋ユヅルは浅い眠りから覚めた。時刻は午前零時をまわったばかり、日付が変わってライヴ当日になっていた。発信元は非通知になっている。

「もしもし」

「ごめん、おれ」

 羽鳥イツキの声だが、いつもの羽鳥ではない。それはひどく懐かしい声だった。

「イツキか」

「…………」

「どうした、声が出なくなった? それとも、ひさしぶりに怖い夢でも見たのか」

 電話口の向こうは沈黙したまま、ふいにブツッ、と電話が切れた。

 悪戯だったか、と訝るまもなくインターフォンが鳴った。モニタを確認したが、人けのないマンションのエントランスが映っているだけだ。テーブルの上のグラスを取って底に残っていた赤ワインを飲み干して、守屋は待った。すぐに、オートロックは解除していないのに、部屋のドア脇のチャイムが鳴らされた。

「……律儀だなあ。もう、全部無視して勝手に入ってくればいいのに」

 ひとりごちてドアを開けると、背中まである鳶色のまっすぐな髪に同じ色の瞳をした青年が、ヒステリック・グラマーのタンクトップに白いシャツ、ダメージのデニムという季節外れの服装で立っていた。

 ああ、なるほど、とすべてを了解して守屋は薄く笑った。その細い眼が赤みを帯びて光り、口もとからちらりとやけに尖った犬歯が覗いた。

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