第2話 入城三年後、出会う(後半サク視点)
その後は非常に迅速に話が進んだ。公国解体にあたり、第二皇子ヴォックスはなるたけ犠牲がでないよう動いてくれた。ユースティーツィアも帝都に入るまでは私の側を離れずにいてくれたけど、入城した途端引き離され接触がなくなってしまう。
両親は自殺のまま。私は当初の条件通り、治癒魔法使いとして帝国に尽くすことになった。
私は侍女が控える区画に案内され生活することになったが、個室はなく毎晩厨の端っこで寝起きをする。食事はないに等しい。見かねたお世話好きの侍女が助けてくれることもあったけど、彼女の食事を減らしたくなくてのらりくらりと躱すようになった。
皇太子妃フィクタが一番厄介で、彼女は私が一人の時を狙って現れる。
彼女は聖女として第一皇太子の妻となった。私の一族が治癒を使えることが気に入らないらしく、治癒は聖女の特権なのに奪っただのあることないことでっち上げては体罰を施した。聖女専属の護衛は見て見ぬ振りで、誰にも知られることもなく暴力は続いた。
入城して一ヶ月が経った頃、暴力だけでは物足りなかったのか、皇太子妃は私にいつでも起爆できる死の呪いをかけ、加えて死にはしないが強烈な痛みを伴う呪いもかけてきた。全身切り刻まれるような鋭い痛みだ。覚えの悪い私に教育だと言って痛めつける。何を覚えることがあるのか分からないが私を気に入らないことは確実だ。
さておき、嫌なことばかりじゃない。この頃に新しい友達ができた。
誰もいない時にしか話せない大事な友達だ。
「鳥を狩ってきた」
「肉を食べろ」
私の肩に乗ってきた翼のある子と、私の膝より高い背丈の銀色の毛並みの犬の姿をしている子。
「ありがと。ドラゴン、フェンリル」
フェンリルはこっそり私が飼っている犬として、ドラゴンは周囲に見えない魔法をかけて私の側にいてくれる。
曰く、予定と異なることが起きたから、原因が存在する帝国城に来たらしい。言うことが良く分からないけど、ここで一緒に過ごしてくれて淋しさが緩和した。最初こそ本当に驚いたけど、今では話し相手になってくれて嬉しい。
「話と違う」
「嵌められたな」
入城して約二ヶ月後、第二皇子兼騎士団長ヴォックスが深手を負い治癒の為再会した。私の部屋がないことを知られすぐに用意し、加えて一ヶ月後に今度はユツィが深手を負い治癒した時に私の身体に残る痣を見られてしまう。皇太子妃フィクタがしたことだと知られ取り計らってくれた。あまり会わなくなったことで極端な暴力がなくなる。さらに一ヶ月後、第三皇子シレの病気を治し彼とも友好関係を築けた。
「本当はこっち側に連れて来たいんだけど」
「やはり兄上だな」
「そうだね」
口癖になってしまったやり取りだ。入城してから三年経った今でも、彼らは私を守ろうと、待遇や環境を改善しようとしてくれる。
この生活に慣れてしまった。入城したばかりの頃と比べて、仲良くしてくれる人ができて充分だとも思える。ドラゴンとフェンリルもいるし、ヴォックスとユツィとシレのおかげで部屋も改築され過ごしやすい。一般騎士たちもヴォックスとユツィを治癒してからは態度が軟化した。ご飯も食べれてベッドで眠れて仲間がいる暮らしなら幸せだ。
「ここからなら見える?」
「どれ、我々も」
「ドラゴン、念の為見えないようにしててね」
「ああ」
新しく入城する他国の人間がやって来た。私と同じ帝国に尽くす形のようで、随分幼い男の子が来るという。
その子が来るであろう日、私は早朝洗濯するついでにどんな子が来るのか見に行った。
「最近建国した東側の王国だろう?」
「そうそう。宰相のお子さんだって」
「クラス、いたぞ」
「へえ」
確かに幼い子供ではあるけど、随分と大人びていた。迎えたのは第三皇子のシレだ。ゆくゆくは国の筆頭宰相になるのが確約された王族であるシレが迎えにいく時点で待遇の違いは明らかね。
「あの子は大丈夫そう」
「クラス程の事はされまい」
「なにその言い方」
「君が望めば我々で帝国を潰せるぞ?」
「いいってば」
充分楽しく生きてるし、と加えると二人は黙る。本当は助けてと言ってほしいのだろうか。
「今の生活も悪くないし」
「そう言えるのは君だけだ」
「そう?」
城の中に進んだ男の子を見届けて私も戻ることにした。
「挨拶ぐらいはしたいかも」
「なに、すぐに会えるさ」
「住む世界違うぽいよ?」
「シレといる時点でそれは違うな」
シレの治癒をしてからは、シレ自身が外に出ているのをよく見る。話によると現場を見ては改善措置をしているらしい。肝臓を悪くしての治癒だったから同じことが起きないよう無理はしないって約束してるんだけどな。
* * *
可愛げのない子供だという自覚はある。生意気でひねくれているとも。
「やあ、きたね」
「おう」
ウニバーシタス帝国、帝都モエニア、ポステーロス城。
居を定めず領土拡大を続けていた帝国がついに定住地を決めた。今代の皇帝は穏健派だ。領土拡大は徐々におさまりつつある。
顔も知らない両親、というか一族は帝国に宰相という形で奉仕していた。体のいい人質だろう。それでも宰相という役職を与えられ、それなりの生活が可能だったのは人質にしては珍しい。
両親は俺が産まれてすぐ、故郷である王国イルミナルクスに俺を預けた。自分達の身に危険が迫っていることを理解していたのだろう。
俺をイルミナルクスに預けてすぐに両親は死亡したと聞いた。そこからは伯父であるイルミナルクス国王の元で暮らし学んだ。伯父と父が年が離れていたせいか、従兄弟たちと俺も年が離れていて、なんだかんだよく面倒見てくれたと思っている。
親子間と夫婦間が良好な伯父家族を見ては、自分を迎えてくれる事に感謝しつつも、自分も両親とこんな家庭の中にいたかったという思いもあった。いくら良くしてもらえても、叔父家族は他人だ。あちらがよしとしても俺は本当の家族として踏み込めなかった。
「相変わらずクールだねえ」
「何を期待してんだよ」
呆れ顔で見上げるこの男シレは、らしくはないが帝国第三皇子だ。俺の後見人でもある。てっきり伯父が後見人になると思っていたが、シレは父親の部下で自分に何かあった時は後見人になってほしいと頼まれていた。伯父に迷惑をかけたくなかったのだろうか、真意は分からない。
「父上も君を待ってたよ」
「俺がいなくたって話進められんだろ」
「まーまー」
俺は巷では神童として名を馳せている。大人と同レベルの教養知識だからだ。
妙に勉強がすんなり頭に入り、よく回るようになったのは一度高熱を出した時だったか。王国の
「どうせ立場は人質だろうが」
帝国に呼ばれた理由については予想が着いていた。
帝国領土内における国家連合の設立。
一つの帝国として治めるのではなくて、各国の形を残したまま、横に繋がる形をとる。穏健派の今代皇帝の考えと合致した事に加え、父親が同じことを言っていたのがお呼ばれの決め手だった、というのが表向きの理由だ。
まあ死んだ父の代わりとばかりに俺を求めている節はある。
「これでも破格の待遇で迎えてるよ?」
「だろうな」
衣食住はほぼ完備され歓待を受けている。
「御父上のイグニス様の公爵位、きちんと君に継承する手続きもしたし」
「頼んでない」
「イグニス様の遺言だよ」
「ここに連れてくる為の手段の一つだろうが」
「まあねえ」
「……城内の貴族どもがよく黙ってたな」
「否定派はいくらでもいるよ?」
舌打ちしかでてこないが、そもそも多少のやっかみや嫌がらせは想定内だ。
窮屈な毎日なるんだと思うと反吐が出る。
不快感が払拭されたのは、ここから少し先の話、数刻後の挨拶回りの半ばだっただろうか。
ただ一つが予想外だった。
帝国城でたった一人の公国の魔女と出会う。
彼女に興味を持った俺はこの魔女と深く関わる事になる。
存外、先のことなんて誰も分かっちゃいないもんだと思った。
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