第15話 異文化交流の成果
とりあえず、俺達は『深淵の領域』を攻略することに成功できた。その成果として、フェンリルの牙も手に入った。まあ、上出来と言って良いだろう。今のところは、順調だ。
それで、俺達はこれから先の方針について考えているところだ。
「あたしは、2層以降にも進んでいきたいわ。この調子なら、案外すぐに攻略できるかもしれないわよ」
「私としては、他のダンジョンの1層を攻略していくことをオススメしますね。2層以降は、別格ですから」
「それは否定できないわね。『試練の洞窟』も、2層からは難関だもの」
俺としては、Sランクダンジョンに詳しい訳ではないからな。あまり、積極的に話に入っていくつもりはない。素人の意見が役に立つかと言えば、そうでもないだろうし。
ただ、どちらの意見もよく分かる。順当に実力を上げていくべきか、勢いに乗っていると判断して突き進むべきか。
どちらを選ぶにしろ、楽な道ではないだろうが。いずれはSランクダンジョンを攻略するのが目標とはいえ、まだまだ先は長い。
そもそも、Sランクダンジョンが全何層なのかも分かっていないんだ。俺達の道のりが、どれほど長いものなのか、今は知ることができない。
まあ、俺達だったら必ず達成できる目標だと思う。angel_bloodも碧界も、信じられる仲間だからな。どんな難しい課題だって、乗り越えていけるはずだ。
「Sランクダンジョンを攻略するまでの道は、まだまだ遠いですね。まだ、たったの1層を攻略しただけですから」
「それでも、大きな一歩よ。あたし達は、誰も『深淵の領域』の1層すら攻略できていなかったんだから」
「確かに、そうですね。ステラブランドさんが、私達を繋いでくれたおかげです」
まあ、出会い自体は良いものとは言えなかったが。碧界の方が突っかかってきたというのが正しい。とはいえ、今では信頼できる相手だ。そう考えれば、あの出会いも良いものだったのかもしれない。
碧界の信念自体は、当時から好ましいと思っていたのだが。ただ、今は当時にはない柔らかさがあるような気がする。俺のRTAについても、認めてくれているというか、受け入れてくれている様子だし。
今の碧界は、とても好ましい人柄だと思える。真面目さと柔軟さを兼ね備えている感じで、頼りになる。
angel_bloodが俺にSランクダンジョン攻略を持ちかけてくれなかったら出会えなかったと思うと、彼女のおかげだよな。
もちろん、angel_blood自身も素晴らしい人なのだが。目標に向けて全力だし、人の意見を素直に受け入れる度量もある。単純に、実力も高いからな。
何より、行動力が素晴らしい。俺を誘ったのも、活動的である証だからな。ほとんど交流のない相手だから、勇気が必要だっただろうに。
この2人とパーティを組めているのは、とても幸運だよな。俺1人でRTAを走っていただけなら、味わえなかった感動だ。
「ところで、ステラブランドさんの意見はどうなのよ? あたしと碧界さん、どっちに賛成なの?」
「確かに、気になりますね。私達3人でパーティなんですから、ステラブランドさんの意見も大事ですよ」
俺としては、思いついている事自体はある。ただ、的確な判断なのかが分からないんだよな。これがRTAなら、自信を持って方針を提示できたのだが。
ただ、聞かれてしまったからには、言うしか無いだろう。ここで黙っているメリットは、ないと言っていいからな。
それに、2人が俺の意見を尊重してくれているのは、とても嬉しいからな。だから、できるだけ良い意見にしたいものだ。
「せっかくだから、『深淵の領域』の1層を周回しないか? そうすれば、色々と振り返ることもできるだろう。後は、動きの最適化もできるだろうな」
「なるほどね。あたし達にはない発想だわ。攻略したダンジョンは、もう通り過ぎた道って感じよね」
「同感です。新しい素材を手に入れていくことが、私の使命ですから。とはいえ、素材をたくさん集めるのも、悪くないですね」
2人の感触は悪くないな。まあ、2択から選ばないのは申し訳ないが。ただ、どちらにも長所と短所があるから、どっちに賛成ってこともないんだよな。
正直に言って、俺の専門分野外だってこともある。どちらの方が優れているかを判断するだけの知識が足りないんだよな。
「Cランクダンジョンを周回するのも悪くなかったし、試してみても良いわよね」
「そうですね。まずは実験してみるのが良いと思います。ステラブランドさんの発想は、私達には無いものですから」
「なら、『深淵の領域』1層を周回するってことだな。効果の程は、どんなものだろうな」
ということで、俺達は『深淵の領域』へと向かっていった。相変わらず、暗い場所だ。ただ、一度攻略しているからな。前よりは気楽に挑める。
3回ほど死んで、ボスであるフェンリルの討伐に成功した。道中も含めて3回なので、悪くはないと思う。
「ふむ。成果を確認できるのも、悪くないですね。自分たちの実力が向上していることが、よく分かります」
「そうね。1日空けても、忘れるのは細かい配置くらいだものね。つまり、連携の精度は上がっているわ」
「とはいえ、俺の目標はそこじゃない。まだ、1回攻略しただけだからな。動きが効率的になるかどうかが、大事なところだ」
「そうね。じゃあ、早速繰り返していきましょうか」
1層ボスを倒したら出現する、ダンジョン入り口への転移門。それを利用して、またダンジョンを始めから攻略していく。
糸の罠の場所は覚えているので、一歩一歩慎重に進む必要はない。そのことで、前回よりもスムーズに進むことができていた。
同時に、モンスターへの対処もうまくなっている。ボスであるフェンリルと戦っていた頃から、何度も倒していたからな。
槍を持ったモグラみたいな敵には、先制攻撃を仕掛けてから、連続でダメージを与えていける。コウモリの集団みたいな敵には、それぞれがそれぞれの敵を素早く減らしていける。
すでに、道中では特に苦戦することは無くなっていた。ただ、ボスであるフェンリルには時間がかかっている。
敵の爪や牙にカウンターを合わせるのが、3回に1回くらい。だから、お互いのカウンターが成功したかの確認で、一手遅れてしまうという問題があった。
とはいえ、ある程度は安定して倒すことができていたのだが。
「うん、なかなかね。この調子なら、死なずに攻略することは難しくなさそうね」
「良いですね。同じダンジョンを周回すれば、こんな効果があるんですね」
angel_bloodも碧界も、そこそこ満足している様子だ。だが、RTA走者としては、もっと先がありそうに思える。明確にパターン化してしまえば、あまり考えなくても攻略できるだろう。
ということで、もっと繰り返していった。その効果として、道中ではある程度走っていくことができるようになった。罠の位置が特定できて、道も覚えている。そうなれば、歩く理由は少ないからな。
そのおかげで、フェンリルにも何度も挑むことができる。繰り返していくと、ほとんどの状況でカウンターを当てられるようになった。というか、狙いさえすればいける。
なので、フェンリルも素早く倒せるようになっていた。もはや、声をかけなくても、相手が何をするのか分かるレベルになっていた。流石に、他のダンジョンでは声かけは必要だろうが。
「あたし達は、今日だけで、ずいぶん強くなったわ。ステラブランドさんの提案のおかげね」
「そうですね。私はステラブランドさんに、ずいぶんと失礼を働いてしまいました。それでも、受け入れてくださったおかげです」
「俺の意見を聞いてくれる、あなた達のおかげだ。だから、お互い様だよ」
いい仲間に出会えたと、改めて実感できた。そこで、このメンバーともっとSランクダンジョンを攻略したいと考えていた頃。
RTAイベント、ダンジョン内でレースをする企画である<ダンジョンレーストライアル>に、『静寂の森』世界記録保持者であるNoFutureが参加すると表明していた。
俺は、NoFutureとのレースを選ぶべきなのだろうか。仲間たちとのダンジョン攻略を選ぶべきなのだろうか。
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