第14話 深淵の領域

 今日はSランクダンジョン、『深淵の領域』へと挑む。攻略を目標としているので、配信も行うのだそうだ。まあ、いつも通りだよな。俺達は全員配信者なので、それで調子を乱したりはしない。


「あたしとステラブランドさん、碧界さんで、Sランクダンジョン、『深淵の領域』を攻略する配信、始まるわよ」

「碧界です。よろしくお願いします」

「ステラブランドだ。普段は、RTAを走っているな」


 リンゴ:待ってました!

 止まり木:このメンバーでの三角関係かな?

 ノブナガ:ステラブランドの攻略配信、楽しみにしているぞ。


「じゃあ、さっそくダンジョンに入っていこうか。長い前置きなんて、面倒なだけだからな。それに、解説できることも少ない」

「そうですね。私たちとしても、攻略できるほど進んでいる訳ではありませんから」

「あたし達の目標は、まずは1層を攻略することよ」


 リンゴ:Sランクダンジョンの攻略が見れるのは、嬉しいですね。

 ノブナガ:さて、どれくらいかかることやら。

 ぼっちわんこ:『深淵の領域』は、かなり難しい感じ。


 ということで、門に入っていく。景色が移り変わり、以前にも見た暗い雰囲気の光景になる。ここからは、とても難しいダンジョンになる。気をつけて進んでいかないとな。


「じゃあ、行くぞ」

「分かりました」

「さ、今日中に1層を攻略してしまいましょう」


 ぼっちわんこ:かなり強気だね。

 mist:お手並み拝見だな。


 進んでいくと、糸の罠がある領域に着く。やるべきことは簡単だ。俺が剣で糸の場所を探り、そこに合わせてangel_blood達が着いてくる。前回と同じだが、何も言わなくても行動できる。目を合わせれば、ある程度は相手のやりたいことが分かるからな。


 止まり木:完全に熟年の夫婦。

 リンゴ:とても素晴らしいコンビネーションですね!

 ノブナガ:ステラブランドはSランクダンジョンでも止まらないか。


 そのまま、地面から出てくる、槍を持ったモグラに対処していく。パリィをしつつ、angel_bloodの大剣を振り下ろす動きや、碧界が槍を突き刺すのに合わせて、俺も剣を叩きつけていく。


 糸の場所は俺が声をかけていく。特にangel_bloodが近寄ってしまうので、方向を指示することで避けてもらう。


「右に動け!」

「あたしね! じゃあ、もう一発!」

「追撃します!」


 糸を避けつつ、攻撃を叩き込む。その流れを繰り返し、まずは1体目の雑魚を倒した。そこに槍が降ってくるので、盾で防ぐ。angel_blood達は、即座に俺の後ろに隠れていった。


 一応、槍は斜めに降ってきているので、隠れるのは有効なんだよな。それにしても、いやらしい罠だことだ。地面に警戒させた後に、上から攻撃を仕掛けてくるのだから。


「雑魚1体でもここまで警戒しなくちゃいけないのは、Sランクダンジョンって感じだな。心が折れる人間が多いのも、納得だ」

「そうですね。ダンジョン慣れしていない人がSランクダンジョンに挑むのは、全くオススメできません」

「あたし達、みんな実力者だものね。それでも、何度も死んでようやく攻略できるかできないか。初心者が挑むのは、無謀を通り越して愚かなだけよ」


 mist:そもそもダンジョンに挑むこと自体がオススメできないんだが。

 リンゴ:流石はangel_bloodさんのパーティです!

 ノブナガ:自分で実力者だと言うの、事実とはいえ凄まじいな。


 最初の雑魚を倒したとはいえ、まだまだ先は長いはずだ。前回の挑戦では、1層ボスにすらたどり着けなかったんだからな。


 だからこそ、気を抜く訳にはいかない。1歩1歩、慎重に進めていかなくてはな。


「さて、次に進んでいくぞ」

「そうね。たかだか雑魚1匹倒しただけだもの」

「私達の目標は、1層ボスを倒すことですからね」


 続いては、コウモリの集団のような敵が襲いかかってくる。そこにも糸が張られていて、うかつな動きをすると死んでしまうんだよな。


 ただ、慎重に動きすぎても物量に押し潰されてしまう。だからこそ、ある程度大胆に動きつつ、それでも糸に気をつけないといけない。


 一度、angel_bloodが糸に引っかかってしまう。なので、ダンジョンの初めからもう一度進めていった。


「ごめんなさい、あたしの不注意のせいで」

「まあ、糸の場所をぜんぶ覚えるのは難しいからな。ある程度は仕方ない」

「そうですね。流石に、死にながら慣れていくしか無いでしょう」


 ノブナガ:頭のおかしい罠が多いな。絶対に挑戦したくない。

 リンゴ:Sランクダンジョンは大変ですね。

 mist:控えめに言って地獄。


 まあ、難しくはあるよな。だからこそ、2人ともが挑んでいるのだろう。いま挑んでいる感じだと、相当な難題だ。だからこそ、2人に共感できるのだが。とても厳しい目標に向かって全力だから。


 俺だって、世界記録という難題に挑んでいる。そこは、Sランクダンジョンの攻略にも匹敵するくらい難しい気がする。


 まあ、どちらの方が難しいかはどうでもいい。俺たち3人が、全員で目標を達成する。それが一番だよな。


 ということで、先程の場所まで戻ってきた。コウモリの大群に襲われて、全力で討伐していく。


「ああもう、糸に気をつけるのも面倒だわ!」

「同感です。それでも、頑張って避けていくしかありません」

「もう少し左だ、angel_bloodさん」


 今回は、突き進んでくるコウモリに俺が剣を合わせて、angel_bloodが大剣を叩きつけ、碧界が槍を突き立てていく。


 防御しても防げる数ではないので、攻撃に専念した方が効果的なんだよな。


 しばらく戦い続けて、コウモリは全て倒れていった。ただ、気を抜くと糸に引っかかりかねない。だから、しっかりと気を引き締めていかないと。


 その後も、何度か死にながら順調に進めていく。そして、ようやくボスへとたどり着いた。


 大きな狼で、銀色の髪が特徴的だ。とても強い威圧感があり、間違いなく強敵だと感じる。さて、どうやって挑んだものか。


 まず進んでいくと、目にも止まらぬ速さで俺の方へと爪を振り下ろしてきた。なんとか盾を合わせる。俺が受けてすぐ、angel_bloodの方に爪で攻撃を仕掛けていき、それによって彼女は倒れていった。


 リンゴ:やはりSランクダンジョンのボスは厄介ですね。

 ノブナガ:あれに初見で対応できるステラブランドは化け物。


「とりあえず、フェンリルと名付けましょうか。フェンリルは素早いですから、後手に回っては難しそうですね。パターンの解明は急務です」

「そうね。見てから対処は、なかなか難しそうよね。でも、見えないほどじゃないわ」

「タンク役として動くのは、難しそうだな。個人個人で避けていく必要がありそうだ」


 ということで、方針を決めたので、もう一度挑んでいく。今度は初撃を受けた後、碧界の方へと向かっていった。前回のことがあったから、警戒していた様子の彼女は攻撃を避ける。その次は、angel_bloodに攻撃が向かう。噛みつこうとされていたが、大剣で防御していた。


 ただ、あまりにも速くて攻撃に移るのが難しい。そこで、こちらに向かってきたタイミングで剣を薙ぎ、カウンターを合わせてみる。そうすると、フェンリルは怯んでいた。


 そこに追撃を仕掛けると、ダメージが入っている様子。ただ、しばらくしたらフェンリルは体勢を立て直した。


 今回の攻略の大きな課題は、カウンターを合わせることになるだろうな。そう判断して、3人共がカウンターを仕掛けようとする。時々失敗して、そのたびに誰かが死んでダンジョンから追い出されていった。


 何度も挑んで、10回目。手応えを得ていた俺達は、今度こそ勝つと気合を入れる。


「フェンリルのパターンは十分に理解できた。後は、倒すだけだ」

「そうね。ここまで来たなら、十分に勝ちは見えているでしょ」

「私達なら、絶対に勝てます。今回で、それを証明しましょう」


 リンゴ:応援しています!

 mist:天才を通り越して化け物。納得できた。

 ぼっちわんこ:異様な速度で上達しているのが分かるね。


 フェンリルの前にやってくると、さっそく相手は爪を振り下ろしてくる。それを避けつつ、剣を当てていく。相手が体勢を崩す前に、angel_bloodと碧界は動き出す。大剣が振り下ろされ、槍が突き出される。


「行くわ、『大山鳴動』!」

「合わせますね。『画竜点睛』!」


 スタン状態になっているフェンリルに、スキルを当てていく2人。すぐにフェンリルは動き出して、今度はangel_bloodを狙う。彼女がカウンターを当てて、今度は俺と碧界が攻撃する。


 同様の作業を10分ほど繰り返して、ようやくフェンリルは倒れていった。


「勝てたな。『深淵の領域』1層、攻略完了だ」

「あたし1人じゃ、きっと無理だったわ。2人のおかげね」

「私も同感です。このパーティで挑めて、本当に良かった」


 ぼっちわんこ:ボスに挑んだその日で倒すの、すごすぎるよ。

 ノブナガ:ダンジョン攻略でも、ステラブランドは化け物。


「ということで、配信は終わりだ。お疲れ様」

「また、次回があったらよろしくお願いします」

「今日は楽しかったわ」


 配信を終えて、フェンリルのドロップアイテムを確認する。牙がインベントリに入っており、それが戦利品だと分かった。


 結果として、フェンリルの牙は劣化しない刃物の原料になることが判明した。それに対して、碧界はとても満足そうだった。


「これで、人類の文明がまた一歩進みますね」


 そう笑う碧界の姿は、見とれてしまいそうなほど。とはいえ、俺達の目標にはまだまだ遠い。これから先も、それぞれに進んでいくだけだ。

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