第12話 本物のSランクダンジョン

 とりあえず、angel_bloodと碧界とのAランクダンジョンの攻略は順調に進んだ。とはいえ、本番はSランクダンジョンだ。人類が、まだ誰も攻略していない場所。全何層あるのかも分からないが、1層攻略がせいぜいであることが多い。


 まあ、攻略に失敗したところで失うものはない。俺達の誰もが、金銭的には余裕があるし、配信の視聴者数にも執着していない。


 だから、素直に難題に挑む心持ちで居ることができた。どれほど難しかろうが、心が折れることはないだろうな。俺にしろ、angel_bloodにしろ、碧界にしろ。


 ということで、迷うことなくSランクダンジョンに挑むことに決めた。失敗したら失敗したで、いい経験で終わるだろうからな。


 今更、ダンジョンで死んだ時の苦痛でどうにかなるメンバーなんて居ない。そこら辺は、とにかく安心できる材料だよな。Sランクダンジョンは、心が折れる人間が続出する場所と聞いているから。


「さて、どこのダンジョンに挑むと良いだろうな。『試練の洞窟』以外になるだろうが」

「そうですね。どこであろうとも、Aランクダンジョンとは格が違いますよ」

「同感だわ。Aランクの時は、あたしだって何度も死ぬだけで攻略できた。Sランクは、1人じゃ無理って理解させられたわ」


 この2人が、どちらもとても厳しい場所だという。なら、俺にも覚悟が必要だろうな。とはいえ、無理難題に思える世界記録に挑んでいるんだ。多少難易度が高かったところで、腰が引けたりはしない。


 だが、わざわざ難しい場所を選ぶ理由はないだろうな。俺達は、まだ連携だって十分じゃない。あくまで、できたばかりのパーティだ。


 そうなると、碧界に選択を任せたいところだな。このメンバーで一番詳しいのは、彼女だろうから。


「碧界さんは、Sランクダンジョンには詳しいよな。俺達が挑む上で、一番良いのはどこだと思う?」

「まだ、十分に判断は付きません。ただ、オーソドックスなダンジョンはあります。『深淵の領域』ですね」

「なら、そこにしましょうか。あたし達には、まずは経験が必要でしょ」

「同感だな。兎にも角にも、どの程度通じるのかを知る必要がある」

「そうですね。私達ならば、いずれは攻略できると信じています。ですが、まだ道は遠いですから。一歩一歩、ですね」


 とりあえず、俺達の意志はまとまっている。まずは重要な一歩を乗り越えているな。ここで意見が分かれて対立するようなら、実力以前の問題だろう。パーティは連携と信頼関係が重要なことなんて、俺でも分かる。これまでソロだった俺でも。


「だったら、さっそく挑んでみようか。うまくいくにしろ、いかないにしろ、まずは知ることからだ」

「そうですね。ステラブランドさんがSランクダンジョンについて理解できるのなら、それだけで十分な成果です」

「まあ、同感ね。あたし達の目標が、ようやくハッキリと固まるのよ。それは重要だわ」

「なるほどな。俺はSランクダンジョンに挑んだことはないから、大事なことだよな。知識よりも、経錦が」

「では、向かいましょう。何度も何度も死ぬでしょう。覚悟は良いですか?」

「当たり前だ」

「決まってるでしょ!」


 ということで、『深淵の領域』へと入っていった。暗闇に包まれていて、視界は良くない。ただ、見えない訳でもない。なんというか、不思議な感覚だ。


「碧界さん、どんな場所かは知っているのか?」

「ええ。侵入したことはあります。1層すらも、攻略できなかったのですが」

「それでも、ここを選んだのね」

「はい。Sランクダンジョンの基本的な要素は、全てここに詰まっています」


 なるほどな。ここが基準になるのか。攻略を続けるにしろ、他のダンジョンに挑むにしろ。


「俺が先行する。盾がある都合上、一番死ににくいだろう」

「否定はしません。とはいえ、死んで覚えるのがSランクダンジョンです」

「そうね。他のダンジョンと明確に違うわ。Aランクダンジョンまでなら、初見攻略した人間も居る。だけど、そもそも完全攻略はされていないのがSランクだもの」


 俺は右手に剣を、左手に盾を構えている。その後ろで、angel_bloodが大剣を両手で持っている。最後尾で、碧界が槍を携えている。とりあえずの陣形と言ったところだな。


 そのまましばらく進んでいると、首がはねられた感覚がして、ダンジョンから追い出された。


「碧界さん、今のは、見えたか?」

「敵ではありませんでした。おそらくは、罠でしょう。確か、糸のようなものがあったはずです」

「対処法は覚えてるの?」

「場所を覚える以外には、私には思いつきませんでした」


 なるほどな。碧界が注意できなかったわけだ。糸の場所なんて、何度も連続で攻略しなければ、覚えられないだろう。しばらく期間を空ければ、忘れるのも当然のこと。なら、手探りで覚えるしか無いか。


 とはいえ、対処方法として、あるアイデアが浮かんだ。まあ、死んだ場所に当たりをつけるのが前提ではあるが。


「試してみたいことがある。もう一度、同じところまで向かおう」

「何か思いついたんですか? 流石は、ステラブランドさんですね」

「まだ気が早いわよ。でも、アイデアが出るのは良いことね」


 ということで、先ほど死んだ場所へと近づいてきた。そこで、剣を適当に振り回してみる。すると、引っかかった感触があった。


 その場所を覚えておいて、迂回していく。単純な回答ではあるが、ずっと剣を振る訳にはいかないからな。敵への警戒も必要だし、手足が切れるリスクも有る。


 結局のところ、死んだ場所から当たりをつけるのが精々だろうな。とはいえ、何度も連続で死ぬ事態は避けられそうだ。


 そう考えていると、またダンジョンから追い出された。痛みは無かったので、俺以外の誰かが死んだのだろう。


「ごめんなさい。敵に不意打ちを食らっちゃったわ」

「俺が先頭に居たのに、気づかなかったんだ。俺が悪いよ」

「いえ。見ましたが、地面から飛び出してきていました。あの視界の悪さでは、仕方のないことです」


 ゲームだったら、とんでもないクソゲーと言われていただろうな。平気で初見殺しの罠を仕掛けてくる上に、即死なのだから。


 ただ、それでも俺達には達成したい目標がある。だから、立ち止まるつもりはない。


 今度は同じ場所までたどり着いた時に、地面を注視していた。すると、少しだけ盛り上がっている部分を見つける。そこに剣を突き立てると、敵が出現した。


 槍を持ったモグラといった感じで、地中に居ることには納得できる。とはいえ、とりあえずはこの敵を倒さなければ。


 俺は先頭に立ち、敵の攻撃を盾で受けていく。そのスキに、angel_bloodと碧界が大剣と槍を叩き込んでいく。


 何度か攻撃を当てて、勝てるかもしれないと感じた頃に、ダンジョンから追い出された。


「すみません。糸のようなものに首をはねられてしまいました」

「雑魚がいるところにも、罠があるのか。厄介だな」

「そうね。あたしも苦戦したところよ。Sランクダンジョンの特徴ね」


 次の戦いでは気をつけていたので、問題なく倒せた。とはいえ、直後に上から槍が降ってきてangel_bloodが死んでしまったのだが。


 その後、1日かけてダンジョンの攻略を進めていくものの、1層ボスにすらたどり着けないまま終わった。

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