第11話 パーティとして

 ホットおにぎりに対しては、もう手取り足取り教える段階は過ぎた。ということで、あとは自分で進んでいけるだろう。もちろん、相談があったら受けるつもりではあるが。


 状況が落ち着いて、angel_bloodのスケジュールも空いたらしい。だから、Sランクダンジョンの攻略に向けて進んでいきたい。


 そこで、まずは連絡していく。予定を合わせるところからだからな。


 ステラブランド:次の攻略はいつにしますか?

 angel_blood:ステラブランドさんが空いているのなら、すぐにでも行きたいです。

 ステラブランド:なら、明日でどうですか?

 angel_blood:もちろん、ありがたいです。そういえば、碧界さんは誘いますか?

 ステラブランド:俺は構わないですけど。

 angel_blood:じゃあ、誘っておきますね。


 なるほど。angel_bloodは碧界と仲良くしているのかな。仲が良いとまで行かなくても、交流は続けているのだろう。俺としても、彼女が協力してくれるのなら心強い。今の碧界なら、俺のRTAを邪魔したりしないだろうし。


 さあ、久しぶりの共同攻略だ。angel_bloodや碧界と一緒なら、得るものは多いだろうな。俺の世界記録にも、いい影響を与えると思う。


 前回の攻略でも、ホットおにぎりにRTAを教えた時でも、俺は成長できた。やはり、人と交流していくものだよな。これまでずっと1人で活動していたのが、もったいなく思える。


 ということで、次の日にはangel_bloodたちと集まっていた。ダンジョンの入口で、どこに行くかの相談から始める。


「おはよう、2人とも。Sランクダンジョンと言っても、色々あるだろう。どこからにする?」

「まずはAランクダンジョンからが良いでしょう。良くも悪くも、『試練の洞窟』は他のSランクダンジョンと違いますから」

「そうね。あたしも、いきなりSランクダンジョンに挑んでうまくいくとは思えないわ」

「なるほどな。まあ、手頃なところから慣れていくのが無難か。それでも、Aランクダンジョンなんだな」

「私達の実力なら、十分に攻略できるでしょう。まあ、死にはするでしょうが」


 死にながらでも、攻略できそうだという見立てか。まあ、俺もAランクダンジョンを攻略したことはある。angel_bloodと碧界は言うまでもない。


 そうなると、後は連携が問題になってくるだけだからな。まあ、ちゃんと連携できない段階で、いきなりSランクダンジョンに挑むものではないか。


 だったら、次の問題はどこに挑むかだよな。それと、配信をするかどうか。


「じゃあ、どこを選ぶ?」

「私としては、『暁の孤島』がオススメですね。バランスの良いダンジョンです」

「バランスってのは、罠とかモンスターとかってこと?」

「そうですね。様々な技術を学ぶ上で、ちょうどいいかと」

「なるほどな。俺は詳しくないから、碧界さんに任せるよ」

「ありがとうございます。以前にはあなたに色々と言ったのに、信用してくれて」


 まあ、碧界の熱意は本物だし、相手側から寄り添おうとしてくれているのも感じる。今の言葉が、その証拠だ。だから、信用するには十分だと思う。実際、この中で一番Sランクダンジョンの攻略に詳しいだろうしな。


「気にしなくて良い。碧界さんが俺と仲良くというか、関係をちゃんとしようとしてくれているのは分かる」

「そう言われると、恥ずかしいですね……」

「仲良くできるのは良いことじゃない。あたしも、2人と仲良くしたいわ」

「なら、お互い様だな。俺も、2人とは仲良くしたい」

「本当に、ありがとうございます。あなた達と出会えて、良かったです」


 俺としても、2人と出会えて良かったと思っているからな。それも、お互い様と言ったところだ。


「話は変わるが、今回の練習は配信するか?」

「やめておきましょう。単なる練習を見る視聴者は、少ないはずです」

「同感ね。表で努力するのは、配信者としてはうまくないわ」

「なら、今回は配信しないんだな。そっちの方が楽ではあるが」


 連携を考えながらコメントを読んでいくのは難しいだろうからな。そうなると、練習に専念した方が良いだろう。配信者として伸びたいという欲求はないが、どうせなら、ちゃんとやるに越したことはないからな。


 ということで、『暁の孤島』に入っていった。その名の通り、朝日がちょっと出ているくらいの感じだ。そして、周りが海に囲まれている。


 視界は良いんだが、碧界が勧めるくらいだから、罠も豊富なのだろう。Sランクダンジョンは、そのあたりでもよく死ぬからな。


「さて、どう進んでいく?」

「まずは、普通に進んでいきましょう。私は知っていますが、口出ししすぎれば訓練になりません」

「そうね。Sランクダンジョンは、情報が少ないものね」

「ええ、そういうことです。初見の状況に対処する訓練は、大切でしょう」

「なるほどな。じゃあ、素直に攻略するか。何度も死にながら」


 Sランクダンジョンは、1層すら攻略されていない物も多い。そうなると、事前に情報を集められるとは限らないよな。


 やはり、碧界は頼りになる。パーティを組めて良かった相手だと、自信を持って言えるな。最初の関係は良かったとは言えないが、出会えて幸運だった。


 さっそくangel_bloodが駆け抜けていって、そのまま罠にかかってしまう。落とし穴だ。ダンジョンから脱出させられたので、死んだのだろう。


「angel_bloodさん、どういう罠だった?」

「見た通り、落とし穴よ。中に槍が入っていて、突き刺さったわね」

「Aランクダンジョンだけあって、罠も即死なものが多いんですよね」


 なるほどな。厄介かもしれないが、Sランクダンジョンはもっと危険だろう。そうなると、訓練に来た甲斐があったな。まっすぐSランクに挑んでも、難しかっただろうから。


 もう一度ダンジョンに入って、今度は床に注意してみる。すると、色が違う部分があった。つまり、落とし穴だろう。


「ふむ、罠と言っても、見分けがつくものなのか」

「どこが違うの? あたしには分からないわ」

「色の違いなんだが、分かるか?」

「うーん? ……ああ! ちょっと濃いところがあるわね!」

「そこですね。分かっていれば見分けがつくんですよね」


 なるほどな。angel_bloodは本気で罠の類が苦手みたいだ。本人が言っていたことだが、なかなかだな。とはいえ、支え合うのがパーティだ。俺が発見していけばいいだろう。


 ということで、俺が警戒していったのだが、それでもangel_bloodは罠に引っかかっていく。ガンガン進んでいこうとするタイプみたいだ。


 ただ、一度引っかかった罠は覚えてくれている様子だし、俺が注意すれば素直に従ってくれる。そのあたりを合わせていけば、だんだん罠には引っかからなくなっていった。


「モンスターは、罠に引っかからなければ問題ないわね」

「そうですね。『試練の洞窟』に比べれば、弱いです」

「俺達は、『試練の洞窟』のモンスターも倒しているからな」

「ですが……いえ、言ってしまっては意味がないですね」


 何かあるのだと察してはいたが、俺達は引っかかってしまった。物陰に隠れたモンスターに不意打ちされ、angel_bloodが死んでしまう。『試練の洞窟』では、常に真正面から戦うだけだったからな。そのあたりも苦手なようだ。


「ごめんなさい、迷惑をかけて」

「気にするな。その分、モンスターとの戦いでは役に立ってくれているじゃないか」

「そうですよ。お互いの足りないところを補い合うのがパーティです。私だって、本番ではミスをするでしょうから」

「分かったわ。でも、もうちょっと注意深くなりたいわね」

「なら、俺が前に出よう。その方が、今は安定するだろう」


 ということで、俺が罠の類に警戒するようになってからは、死ぬ回数が大幅に減った。ボスも順調に倒すことができ、『暁の孤島』は無事に攻略できた。


「やっぱり、ステラブランドさんに頼んで良かったわ。あなたがいれば、Sランクダンジョンの攻略も夢じゃない。そう思えるの」

「同感ですね。ステラブランドさんは、とても優秀です。頼りにしていますよ」

「ありがとう。俺達の力で、Sランクダンジョンを攻略できると良いな」


 とりあえず練習は終わったので、次は本番だ。厳しい戦いになるだろうが、攻略していきたいところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る