陽光の姫
買い物
道場を運営している祖父と祖母に給料だけは良いブラック企業に従事し、いつ辞めても道場の収益で問題ないのに頑なにやめない己の両親。
そんな家族の中で家事を行うのは自然と僕になっていったのは当然と言えるだろう。道場ではなく両親が建てた一軒家を管理しているのは僕であり、両親の飯を用意しているのもそうである。
「思ったよりも買いものがかさんでしまった……」
今日の夕食を買いにスーパーへと訪れていた僕は自分の手にある大きなバック一杯に詰められている買った商品の重さを感じながら道を歩く。
「やっほー!蓮夜!」
「わっ!?」
買い物を終えて帰路についていた僕はいきなり後ろから話しかけられて思わず大きな声をあげてしまう。
「……おぉう。千夏か。びっくりさせないでよ」
いきなり話しかけられた僕は動揺の声をあげながら彼女へと視線を向ける。
「ビビりすぎだよ、私ってばそんなに怖がらせるようなこといないよぉー、ただ声をかけただけじゃん。まったく蓮夜はビビりなんだからー」
「は、ははは……」
僕は千夏の言葉に対して苦笑で返す。
これが、話しかけてきたのが千夏ではなく春香や冬華であればここまで驚いていない。千夏であるからこそ驚いているのだ。
千夏ってば、三人の中でも底なしに愛が重いからちょっとだけ怖いんだよなぁ。底抜けに明るいギャル然としたその内側は湿度たっぷりだ。
その湿度に気づいたのは今よりかなり前。恋愛感情を始めて意識した時にまで戻ることになってしまう。
僕が常に一緒にいた幼馴染三人の中で明確に恋愛感情として好かれているというのが一番最初にわかったのが千夏だ。彼女の家に遊びに行った際、考えなしに開けてしまったクローゼットは未だに僕の深いトラウマである。
祭壇のようにしてクローゼットの中央に鎮座していたそこは実際の髪までをも利用されて作られた僕の人形に、盗撮したと思われる多くの写真が一杯に飾られていたのだ。蓮夜日記なる特級呪物なる
自分の知らなかった幼馴染の一面。
それに恋愛感情的に好かれていたという事実よりも前に恐怖すると共に困惑してしまっていた僕はその間に他の二人の感情にも気づいてしまい───三人を選ぶことが出来ずに高校生にまで来てしまった。
クローゼットを空けたのは小学五年生なのにねな。
「それにしても奇遇だね!……蓮夜も買い物の帰りなのは見ての通りだね」
千夏の言葉はどうせ嘘である。
今日も僕もストーキングしていたのだろう。
彼女の奇遇だね!は基本的に全部必然である。
「そうだね。そちらは?お使いでも頼まれた?」
「そうそう。親にちょっとだけ調味料を買ってくるよう頼まれてね。切らしちゃったみたい」
千夏はそう言うと自分の手にある可愛らしいカバンの中に入っている醤油を見せてくる。
「良いじゃん……醤油ねぇ。確か家にはあったよな」
醤油は日本人にとってなくてはならない万能調味料だ。
個人的にはとりあえず醤油を材料にかけて焼けばそれっぽくなると思っている。
「……それでさ、蓮夜」
「ん?何?」
「……福引、回した?」
僕の方へと口元を近づかせてきた千夏は小さな言葉を呟きながらまるで見せちゃいけない裏取引の物でも見せるような仕草で福引のくじを見せてくる。
「まだだね。いっぱい持っているよ、くじなら」
僕は千夏の言葉に頷いて自分の財布から大量の福引のくじを見せる。
「おぉー!大量だね!」
僕のを見た千夏が歓声を上げる。
「それじゃあさ!福引引きに行こ!もう期限切れちゃうよ!」
「あー、そうだね。行こうか」
「うん!レッツラゴーー!!!」
僕は腕を組み、全力で体を寄せてきた状態でくじ引き会場へと向かうのだった。
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