図書室

 テストが始まる前日。

 そんな日に僕と冬華は二人で図書室へとやってきていた。

 

 ちなみに貸して欲しいなぁ、という旨を冬華が先生に伝えたところ、これまた学校側で特例で貸し切りを認めてくれた。

 本校舎にある大きな図書室ではなく本校舎の外れにある旧校舎の狭い図書室ではあるけど。


 それでも図書室は図書室。本校舎のよりは小さいと言え、それでも旧校舎のも十分すぎるほどに大きい。

 静かに勉強出来る空間で僕は冬華とただ二人だけで並び立って座っていた。


「ふわぁ……」


 基本的に僕はテスト前日で詰め込んだりすることはない。

 簡単に問題を解いて自分の状態を確かめるだけで、後はのんびりと過ごして緊張をほぐしていることが多い。

 

「……んっ」


 そんな中で、冬華の勉強を見るために図書室へとやってきていた僕は手持ち無沙汰になっていた。

 

「……」

 

 昨日も遅くまで勉強していたせいで眠い。

 図書室の窓から入ってくる暖かな光は殺人級だった。寝不足、暇、日光。三種の神器だった。

 

「……すぅ」


 それらを前にして、いつの間にか僕の意識は闇の底へと落ちてしまっていた。


 ■■■■■


 どれほどの時間が経っただろうか?


「……トイレ」


 ゴソゴソという小さな物音と声に僕は意識を徐々に拡大させる。


「……あっ、寝ている」


 未だ微睡む僕の耳へと冬華の言葉が入ってくる……これまで気づいていなかったのか。体感割と寝ていたような気がするが、実はあまり寝ていなかったのだろうか?

 それとも冬華がとんでもないレベルで集中していたか、そのいずれかだろう。


「……ん」


 未だ頭はあまり動いていないけど、それでも起きたが故に一度、僕は頭をあげようとする。


「……っ」


 だが、それよりも前に冬華の小さな手が僕の頭へと優しく触れ、そのまま撫で始めたことで僕は体を硬直させ、頭を上げるタイミングを失ってしまう。


「今でも、覚えている。中学生の時の、あの出来事を」


 そんな間に冬華はゆっくりと自分の言葉を話し始める……中学生の頃の出来事?なんだろうか?冬華が中学生にもなって漏らしたことだろうか?ナンパを十連チャンでされた時だろうか?それとも冬華を攫った不良たちを僕がボコした時だろうか?

 頭を撫でられ、困惑しながらも冬華の話に出来たあの出来事について考えていた時だった。



「好きだよ、蓮夜」



 耳元にまで近づいて来た冬華の口からあまりにも直接的すぎる愛の告白をされたのは。


「……まだ、起きているときには言えないけど……それでも、必ずお嫁さんにしてもらおうから……んっ、といれぇ」

 

 僕が呆然としている間にも勝手に言葉を終わらせた冬華の気配が遠のき、図書室の扉を開閉する音が静かな部屋の中で響く。


「……」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!?

 冬華の気配が完全に消えたタイミング僕は表面はゆっくりと顔を上げながら……それでも内心では荒ぶり、大きな声を上げる。


「……ズルだろ、あんなん」


 不意打ちにもほどがある。

 いきなり耳元で好きだよ、なんて言われて動揺しないわけがない!わけがない!たたえ、その気持ちの昔に気づいていたとしても、だ!

 

「……ん」

  

 先程まで座っていたであろう自分の隣の席から逃げるようにして僕は視線を窓の方へと映す。

 そんな窓に映っている僕は少しばかり頬が赤く染まっているのだった。

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