冬華





「……今でも、覚えている。中学生の時の、あの出来事を」






 私たちは生まれながらに目立っていたと思う。

 幼馴染である春香も千夏も、私もみんが美人で、ずっと周りから可愛い可愛い言われ続けて、そんな中で嫌なことも多くあった───でも、だからって何か問題はなかった。


『……うん』

 

 ただ、心地いい。

 みんなと一緒にいれる……ただ、それだけで。


『はは!どうだ!あの三女神の一人を拉致ってきたぜ!?』


『ぎゃはははは!飯野さんマジパネェっす!』


『だろ!?あはは!!!こんなこと出来るのは俺くらいだろ!?』


 勇気と蛮勇をはき違えている阿保。

 危ないことをしている自分を、犯罪行為に身を堕とす己をカッコよいと感じているそんな、ダサさ全開の勘違い甚だしい犯罪者に。

 これから自分がどうなろうとも関係ないだろう。


『おぉ、改めてみると……本当、肌きれいなんだなぁ、触り心地が良い。ヒヒヒ。こりゃ、楽しみだ』


 自分がどんな人間に触られても、みんなと一緒なら。

 たとえ、自分を攫って、捕えて、縛って……私を囲む多くの人に何をされても別に、何ともない。


『それじゃあ……ごかいちょー』


『……嫌、だよぉ』


 私の胸元に伸びる手と思わず漏れてしまった、何か。


『馬鹿ッじゃねぇの?自分よりも小さい奴攫ってカッコイイもクソもないだろ』


 それらを吹き飛ばすかのような声と私が閉じ込められた倉庫の扉が開かれたのは。


『んだ!?テメェ!』


『こっちのセリフだ、三下』


 いつもとは違う様子の、私の幼馴染である蓮夜。


『……誰が、三下だ?テメェ。あまり舐めていると殺しちまうぞ?』


『ハッ、殴れもしねぇ餓鬼がちょーしこくなよ?』


『んだ、この中坊が!?』


 いつものと違いに私が呆けている間に蓮夜が殴られて。


『れ、蓮夜!!!』


『んだ?それだけか?』


『……ッ!テメェら!やるぞ!!!!』


 自分よりも年上の高校生たちに殴られて、蹴らえて、それでも笑っていた。


『クソが、死ねよォ!!!』

 

 最終的に鉄パイプのフルスイングを頭に受けて……血を流しながらもそれでも笑って告げるのだ。


『言ったな。殺すって。そして、鉄パイプまで出したな?……相手に殺意があるのなら、自分だってある程度無茶やらなきゃ、最低限の防衛も出来ないよなぁ?』

 

 ただ、知っていた。

 私と春香と千夏とずっと一緒にいて、彼女たちと同じようにずっと一緒で、ずっと心地よかった少年が道場の


『はっはっは!ただの半グレ風情が……僕に勝てると思うなよォ!!!』


 でも、知らなかった。

 その少年がこんなに強いなんて……武器を持った自分よりも年上の男たち三人を相手に無双できるほど強いだなんて。


『ふぃー』


 すべてを地に倒して返り血を浴びた蓮夜は。


『ほら、大丈夫か?』


 いつも通りの優しい笑顔と雰囲気で倒れている私へと手を伸ばしる。


『……』

 

 それに対して私はただ唖然としていた。

 返り血を浴びていた蓮夜に引いていたわけでも、恐れていたわけでもない。

 でも、私の体はほうけていた。


『ん?どうした?大丈夫、か?』


『う、うん!』


 最初は気づかなかった。

 あの日、差し伸べられた腕を私がすぐに取れなかった理由───それでも、今の私には明確に理解出来る。


 ずっと、傍にいてくれた。

 私を自分を強く見せるためのアクセサリーではなく、自分の欲を満たす愛玩ではなく、自分の嫉妬をぶつけるものでもない。

 ただの友だちとしてただ隣に、居続けてくれていた。

 

 そもそもとして、助けてくれる必要もなかった。

 ただ、隣にいてくれるだけ……それだけで十分で、それだけで




「好きだよ、蓮夜」




 私は胸を張って堂々と彼への気持ちを告げられるのだ。


 

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