結局

 回転寿司の方で夕食を食べた後に冬華の部屋へと戻ってきた僕たち二人は当然、勉強を再開するべく教材を広げたのだが……予想外のものが二つ混ざっていた。


「ふふふ、やっぱりある程度の息抜きは必要だと思うのよね。勉強に関しても。特に私なんかショートスリーパーで人より自然と時間が出来るから休憩の時間をどうするのかとかもしっかりと考えないとね」


「あー、そこわかるぅー?そこってば私がわからなくて今日、友達から詳しい話を聞いたところなんだけど」


「……問題ない」


「えー、うっそー……もしかして、この一日の間に成績を超されているとかはないよね?」


「流石にそこまでではないだろう。冬華の地頭はかなり良いが、だからといって努力を完全に飛ばせるわけじゃないわ」


「……そう。まだ、むりぃ」


「まだ!?超すの前提!?」


「……ふっ。私には世界で最強の家庭教師もちぃー」


「むむっ……私があのチャランポランタンに負けているとでも???あんなやつ私の敵じゃないんだけど」

 

 予想外のものが二つ。

 いつもたまり場になっている僕の部屋でなければ大丈夫だろうと思っていたのだが、僕の予想外のことに春香と千夏の二人はさも当然のように冬華の部屋へとやってきていた。

 そして、確実に勉強にならないだろうという僕の想像通りに勉強ムードはなくなって雑談するパートへと入っていた。


「雑談している暇があったら勉強したらどうですかねぇ?」


 なんかこっちに飛び火してきたタイミングで僕が口を挟む。


「……けちぃ」


「そうだよ!ケチだよ、ケチ!良いじゃん。少しくらい話していたって!」


「少しの息抜きは大事なんだよ?知らないの?」


「もう少しの段階は越している思うけどね」


 既に冬華の手が止まってから優に三十分は過ぎている。

 もう少しの域ではないだろう。


「仕方ない。仕方ない。勉強なんかしているよりも雑談しているときの方が時を感じるのが早いんだもん。もう、私の性じゃないよね?」


「……そのとーおり」


「……勉強していると一日が一週間に感じることだってあるわ……泣きたい」


「それはそうだけどね?」


 僕は三人の言葉に頷く。

 どうして勉強していたりする時の時間はあれだけ短いのに自分が好きなことをしている時の時間だけあんなにも早いのだろうか?

 甚だ疑問である。


「それでも勉強はするよー。ということで部屋を僕の方へと移すか。ここじゃ狭いでしょ」


「……それが良い」

 

 冬香には部屋が一つしかないが、僕には何故か部屋が二つある。

 そのうちの一つはみんなでワイワイするために、僕が普段寝たりする部屋とは別に設けられたところだ。

 全員で勉強するなら僕の部屋の方が良いだろう。


「さぁ、いざ行かん!私たちの楽園へ!」


「……ごー」


「えぇ、行きましょう」

 

 テンションの高い千夏の言葉に春香と冬華が頷く。


「何故、僕の部屋がみんなの楽園になっているのだろうか?というツッコミはぐっと心のうちに仕舞っておくべきかな?」


「……置くべき」


「置いておいてほしいかなぁー?」


「置いておきなさい」


「泣いたわ」

 

 ということで僕の部屋から冬香へ移動すること大した時間もなし。

 ご近所なので爆速である。


「やっぱここよね、実家って感じがする!」


「……うん」


「勝手に人の部屋を実家扱いしないで欲しいのだけど」


 僕は勝手に人の部屋を楽園にする二人に苦笑しながら口を開く。


「でも、ここはやっぱ安心感が違うのよねぇ」


「いったいどこにあん」


 そして、二人の言葉に頷いた春香に言葉を返そうとする。


「って、私は何も別に貴方に対してそんな安らぎを感じているわけじゃないからね?勘違いしないでね?」


 だが、僕が何かを言うよりも前に春香はツンデレを発動して彼女にだけ見えている何かを誤魔化しにかかる。


「はいはーい」


 ツンデレを発揮するのは良いけど、未だに僕が小学生の頃に貸してあげた体操服をそのまま保存して毎日くんかくんかするのは辞めて欲しい。

 春香の部屋の薄いカーテンじゃ隣から光の当たり方と窓の開閉次第で中の様子もそのまま見えちゃうんだよねぇ……。


「ちょっ!?なに、その空返事は……」


「ほら、早くみんな座って勉強をするよ!ハリー、ハリー」


 不満そうにしている春香を無視して僕はこの場を取り仕切る。


「ちょっと!」


「そこはお静かに……勉強の時間だよー」


「……もー」


「……いざとなるの勉強嫌だなぁ」


「……私の勝ち間近」

 

 僕の言葉を受けて全員がせっせと


「負けないからね?私」


「……あっしょー」


「何をー?」


「何故か二人が争いを始めたけど、私の争いはどうなるかねぇ?」


「良い感じだよ、僕は」


「ほほう?自分に目一杯時間を使っている私が負けることなどありえないが……随分と勇ましいことを」


「勝つから安心して?」


「……ほう?」


「ねぇ、ねぇ!?二人、私と冬華!どっちが頭いいと思う?」


「……どっち?」


「「知らん」」


「なんでよぉ!?」


「……ショック」


 結局、いつも三人でいる僕たちはみんなでワイワイしながら勉強を進めていくのだった。

 ちなみにこの中で面倒見が一番いいのは春香であり、彼女は僕に自分の時間とれているマウントをしている割に二人の勉強の面倒を見て自分の時間をガンガン削っているのだった。

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