仕事終わりの一杯
おじさんに淹れてもらったコーヒーの前で僕は秋宮とくだらない雑談に花を咲かせる。
「それでさ、それでさ。やっぱり興味があるのはあの学園三女神だよ。未だに告白自体はされているんだよ?」
「まぁね。別に僕は付き合っていないと散々言っているしね。今でも告白は絶えないよ」
「それで?その三人の返事は?」
「当然否に決まっているじゃん。全員が僕のこと好きなんだから」
「ゴミだわぁ」
僕の言葉に対して秋宮がストレートな罵倒の言葉を口にする。
「いやぁ、それはそうだけどね」
「なんか仕事始める前にも言った気がするけどあの三人の誰かと付き合ったりはしないの?」
「童貞くせぇなぁ、って思われるかもしれないけどさ。恋ってのがわからん。本当に、ずっと四人でここまで来ているんだ。みんな仲の良い友達で、全員にそれぞれ違った良いところがあるんだよ、そんな中で選べねぇよ……今更誰か一人なんか」
優劣をどうつけろというのだ。
全員が全員可愛くて天使のような幼馴染なのだ……今更、友情関係を潰してしまうかもしれない究極の三択を僕は選べれるような気がしない。
「そうかもしれないけどさぁ。そんなこと言っていたら普通にあの子を誰かに取られちゃうよ?」
実に耳が痛い言葉……それに対して一度僕はコーヒーを口に含む。
「それならその時だよ……僕が選んだ道だ。三人全員に恋人が出来たら僕も諦めて新しく恋人を探すよ」
そして、ぽつりと言葉を返す。
想像したくもない未来だ……だけど、その方が僕にとっては良いのかもしれない。いつかは終わる関係性。それでも、少しの維持のために僕は手を出すのを躊躇ってします。
それに、だ。あいつら三人が選ぶ男なんだ。変な奴ではないだろう。
むしろ、平凡寄りな僕よりもいい男を捕まえてくるだろう。
「……そう」
僕の言葉を聞いた秋宮が頷いてコーヒーを一口含む。
「まぁ、僕の話は良いんだよ。秋宮の話を聞かせてよ。学校はどんな感じ?」
僕は強引に話の内容を瑠偉リリ変えて
「特に話すことなんてないわ……中学の頃、私に友達がいなかったことは知っているでしょ?高校でも同じなのよ、私は。特に話せることなんてないわ」
「……なんかごめん」
「良いわ、別に」
僕と秋宮は互いにコーヒーを口に含んで……少しばかりの沈黙が降りる。
「……ねぇ」
「ん?」
急に体を僕の方へと倒してきた秋宮の言葉に僕は首をかしげる。
「……もし、もしもだよ」
「うん」
「……もし、あのさ」
躊躇いがちに告げられた秋宮の言葉。
プルルルルルルル。
それを遮るようにしてスマホの着信音が鳴り響く。
「あっ、ちょっとごめん」
「うん」
僕は鳴り響くスマホを手に取って電話を取る。
『はい、もしもし?』
『あー、蓮夜か?ちょっと……』
電話の相手は僕は一緒に暮らしているおじいちゃんであった。
しばらくおじいちゃんと電話した後に電話を切って秋宮の元へと戻っていく。
「ごめん。僕は帰らなきゃいけなくなっちゃった」
そして、コーヒーのカップを手に持って彼女へと告げる。
「えっ……?」
「あっ、そういえばさっき何か言いかけていたよね?何かある?」
「……いや、何でもないよ」
僕の言葉を秋宮は視線を逸らしながら否定する。
「そう?なら、僕はちょっと帰らせてもらおうね。お先に失礼」
「うん。お疲れ様」
「そちらこそお疲れ様」
僕はコーヒーカップを手に持ってキッチンへと持ってくる。
「おじさん!今日のところは帰るよ。コーヒーご馳走様!」
「おう。気を付けて帰れよ」
「はーい」
僕はおじさんの言葉に頷き、スタッフ室の方へと戻るのだった。
■■■■■
蓮夜が帰った喫茶店の中で。
「惜しかったねぇ」
一人、項垂れている秋宮へと蓮夜のおじさんが声をかける。
「……うっさい」
一番いいタイミングで邪魔されてしまい、やさぐれている秋宮が素っ気ない言葉を口にする。
「……最悪。地味な、私が行けるタイミングなんて少ないのに」
「ははは……こう言っちゃ酷いけどライバルは強力揃いだからね」
「……なんで、私はあいつなんかを」
蓮夜は決して鈍感ではない。
むしろ、察しが良い方がだと言える……しかし、あまりにも三人の好き好きアピールが露骨すぎて控えめなアピールは好き判定がもらえない状況に彼はなってしまっていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
ライバルが超絶美人の三人で、自分の控えめな性格ゆえに秋宮に自分の行為が伝わらない。
秋宮だけが一人、ルナティックモードで恋愛を戦っていた。
「いくらでも奢ってあげるからなんでも頼んで、夕食も作ってあげるよ」
そんな秋宮を元気づけるように蓮夜のおじさんは優しくそう話しかけるのだった。
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