お弁当

 断固として自分の定位置であると言わんばかりに僕の膝の上から動かない冬華が大きな三段弁当パンパンに詰められた大量のお弁当を広げてもぐもぐと食べている。

 冬華だけで僕たち三人を超えるだけの量を食べている。


「……本当にこの子は食べているエネルギーをどこに持っているのかしら?」

 

 心底美味しそうに食べている冬華を見て春香が首をかしげる。

 いつものことと言えばいつものことだが、それでも特に運動するわけでもない小さな子がもりもりと食べて全然太らないのは人類の神秘を感じさせた。


「……うんこもあんま出ない。謎」


 そんな春香の疑問に関する冬華よりもたらされた補足情報は食中に出していい単語ではなかった。


「ちょっ!?」

 

 うんこなどという下ネタとは言えないような単語であっても動揺しながら頬をちょっとだけ赤く染める春香が動揺の言葉を漏らす。


「い、い、い、今は食事中よ!?いきなり何を考えているの!?」


「……んなぁ」

 

 春香の叱責に対して冬華の口から出てくるのは何とも言えない謎の鳴き声のようなものであった。

 それにしても……そうか。勝手に消化されずにいつももりもりとうんちの方が出ているのかと思っていたのだけど違うのか。

 勝手に冬華はいつもトイレが長くて体に見合わないこんもりのうんちを出しているんだと思っていた。


「もう!貴方にはデリカシーも教養も足らないわ!もっとおしとやかに……!」

 

 例によって例の如く冬華へと春香が懇々と説教して、それを冬華が受け入れ続ける。


「ねぇねぇ」


 そんな中で僕の隣に座っている千夏が話しかけてくる。


「今日もまた手作り?」

 

 僕の手に握られているサンドイッチを見ながら首をかしげる。


「うん。そうだね」

 

 基本的に自分のお弁当は僕が自作している。

 今日はサンドイッチである。ハムとレタスのサンドイッチに卵のサンドイッチなどと言った王道のものからコールスローのサンドイッチというちょっとだけ個性あるもの。今日もちゃんとうまく作れている。


「今日も五時起きとか?いつもお疲れ様」


 別にサンドイッチを作るのに30分もかからないが、色々と家の方の家事の手伝いとかもあるので基本的に僕はそのくらいには起きている。

 千夏の言葉は実にジャストと言える。


「……うん、ありがとう」 

 

 僕は千夏の言葉へと素直に頷く。

 

「それで、それでさ!一口頂戴」

 

 千夏は僕の方へと視線を送りながらゆっくりと口を開ける。


「良いよ」

 

 僕は自分の隣にいる千夏の方へとサンドイッチを差し出す。


「いただきます!」


 千夏は大きく口を開けてそれにむしゃぶり付く。


「ん~、美味しー!」


 そうであろう、そうであろう。

 料理の腕には自信がある。


「いやー、これってば本当に美味しい。やっぱり料理の腕良いね!私とは大違い。家事とかも得意だし、いいお嫁さんになれるね!」


「残念ながら未だに専業主夫はメジャーじゃないからね」


 そんな千夏の言葉に肩をすくめながら答える。


「そ、そうだね……」

 

「んっ」


 何かを言いたげにしている千夏の方から視線を外して僕はサンドイッチへと口をつける。一応は間接キスだ。

 ちなみにではあるが、間接キスで動揺するやつは素人である。

 普通に考えて間接キス如きで相手の味を感じることなんて出来ない、食物の味でかき消されて何も残らないのだ。


「……待って、欲しい」


「わ、私ももらってやらんことはないぞ?」


 そんな僕と千夏のやり取りを見ていた冬華と春香も僕のサンドイッチを所望する。


「良いけどさ、その代わりそっちの方も頂戴ね?そんなに食べられたら僕が足らなくなっちゃうよ」


「……わかった」


「それくらいなら良いだろう。私の弁当を分けてあげるんだから感謝してほしいものだな」

 

 僕の言葉に頷いた冬華は立ち上がって場所を移して春香も同様に場所を移して四人で輪になるような形となる。


「それでさ───」


 そして、その状態で僕たち四人は仲良く弁当の中身をシェアしながら楽しく食べ進めていくのであった。

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