昼休み

 学園三女神と仲の良い幼馴染という実にうらやまけしからん立場にいる僕ではあるが、案外クラスメートからはそこまで嫌われているというわけではない。

 普通に友達もいて色んな人と会話する。

 だからこそ、特にいじめられたりもすることなく学校生活を送り、今日も問題なく昼休みを迎えることが出来た。


「……行く」

 

 さも当たり前のように席替えで決まった席の位置をねじ変えて僕の隣を常に陣取っている冬華がこちらの方に視線を送ってきながら口を開く。


「はいはい」


「なんだ、なんだ?またお前は特等席での飲食か。あァ?」

 

 席から立ち上がった僕を見て周りのクラスメートたちがヤジを飛ばしてくる。


「はっはっは!すまないね。こればかりは誰も譲るつもりないんだ。じゃあね」

 

 それに対してその一切を取り合わない僕はおてていっぱいに広げて大きな弁当箱を抱えている冬華を持ち上げて廊下へと出る。


「むふー」

 

 冬華を抱きかかえ、周りから怨念の視線に晒されながら屋上へと向かう。


「よっと」

 

 普段は鍵のかけられている屋上の扉を開いた僕は解放感溢れる屋上へと足を踏み入れる。


「ごめん、遅くなった」

 

 僕が冬華を抱えてやってきた屋上には既に二人の女子が待っていた。

 まず一人が腰に伸びたきれいな黒髪にツリ目な黒い眼を持ち、芸術品のように美しく、何ものにも汚せないスレンダーな身体をきっちりと着こなされた制服に身を包む少女だ。

 そんな彼女は大宮春香。

 学園三女神にして僕の幼馴染の一人である。

 ちなみに春香にも冬華同様の二つ名があり、薔薇の姫と呼ばれている。由来は常に冷静沈着な生徒会長であり、告白もバッサリと斬り捨てるところから来ている。


 そして、もう一人は春香とは対照的だ。

 腰にまで伸びた少しウェーブのかかった金髪にカラコンの入った赤い瞳を持ち、耳に幾つものピアスを開け、出る所は出て引っ込むところは引っ込んでいるグラマラスな体型を着崩された制服で惜しみなく晒す少女だ。

 そんな彼女は榎宮千夏。

 学園三女神にして僕の幼馴染の一人である。

 千夏にも例によって例の如く二つ名があり、太陽の姫と呼ばれている。由来はいつも明るく元気で、すべてを照らす太陽のように誰にでも優しいところから来ている。


「遅いわよ」


「もー!遅いよ?私ってば待ちくたびれちゃったよぉ」

 

 遅れてきた僕に二人は非難の声を上げる。


「これでも結構最速なんだよ?僕たちは教室が一番遠いんだよ」

 

 僕と冬華の教室からは屋上が遠いのだ。


「我慢して早く来なさい」


「いやぁー、ねぇ?でもここ以外ないんだよ。ごめんね?」


 基本的には立ち入り禁止となっている屋上。

 だが、あまりにも三人が周りから囲まれるほどの美少女であるからと学校側が特例中の特例を配慮をしてくれて普段立ち入ることの出来ない屋上へ行くための鍵を渡してくれているのだ。

 そんなこんなでやってこれる屋上は彼女たち三人が落ち着いて過ごせる場所なのだ。

 

 ちなみに屋上の他にも空き教室だったり、学校から少し離れたところにある小屋だったり、いくつか三人ついでに僕の為の場所が存在する。


「別に僕は文句を言っていないよ」


「……僕も構わない。動かない。むふー」


「むふーじゃないわよ。何を当たり前みたいな顔して動かない宣言しているのよ。太るわよ?」


「……僕、どれだけ食べても太らない」


「世の女性に殺されるわよ?まぁ、私も太らないけど」


「あはは……私はちょっと体重が気になるかもだけど」


 何を言うか、千夏よ!

 君の抜群のプロモーション、ムチムチ具合は至高!体重なんて気にするものでもない……!僕としてはもっと太もも辺りに肉がついて欲しいです!


「ほら、さっさと食べちゃおうか」


 僕は内心で考えている下衆なことを一切悟らせないようにしながら口を開く。

 ちなみに僕の視線は女の子にもバレない特別仕様。

 一切眼球を動かさずに僕の瞳はおっぱいだけを確認する……常に三人と一緒にいたからこそ得た特殊能力である!これぞおっぱいアイ!


「……持っていく」


「これくらいの動きくらい自分でしてほしいねぇ?」


 僕は当然の如く持ち運ぶのを要求してくる冬華に苦笑しながら口を開く。

 役得ではあるけどねぇ……冬華ってばいい匂いするし。


「だから少しは歩きなさいよ。それにそれだけべたべたくっつくことを要求していると冬華が蓮夜のこと好きみたいよ?」


「あらら?え?そうなの……えっ?そうだったの!?」


「……別に違う」

 

 春香と千夏の言葉に対して冬華はそっと視線を逸らしながら答える。

 冬華さんや、これだけの接触を許し、ぐいぐい来る中で恋愛感情がないは嘘だと思うのじゃよ。

 まぁ、それは他の二人にも言えることではあるけど。


「なら、歩きなさいや」


「……嫌」


「まぁ、別にこれくらいなら良いよ。大したことじゃないしね。僕たちであればこれくらい今更何でもないだろう?幼馴染なんだしさ」


「……まぁ、そうね」


「……そぉーだよね!」

 

 僕の言葉に他の二人が頷く。

 ついでに言うとこいつら、他の二人が僕のことが好きなのも理解していないんだよな。どれだけ鈍感なのだろうか?こいつらは。

 ラブコメ主人公かな?


「ほら、食べるよ」

 

 鈍感過ぎる三人をちょっとだけ心配しながら僕は冬華を持ち上げるのだった。

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