眠りの姫
学園三女神
学園三女神。
いつからか、誰かが呼び出したうちの学校に通うとある三人の通称だ。
その三人とは学校どころか、街、県、国、世界の中で比べてもトップ層に位置するであろう見た目だけならアイドルでさえも霞むような美貌を持った者たちのことだ。
「おぉ、今日も三女神が登校してきたぞ!」
「……美しい」
「あぁ……尊い」
ただ美貌だけで有名になり続ける三人は学校に通ってくるだけで学校中の人間が窓側に立ってその様を見るほどである。
「あの三人は幼馴染らしいよ?いやぁー、いつも仲良さげで良いよなぁ。見ているだけで人生が潤う」
「そしてもう一人……なんか幼馴染を名乗る不届き者がいるらしいなぁ!?」
「許すマジ!!!」
さてはて、そんな三女神の登校に沸き立つ多くのクラスの中で。
唯一、我がクラス。三女神の一人が所属する我がクラスはとんでもない殺意が渦巻いていた。
「我がマイベストフレンド。そして、マイクラスメート諸君。僕を睨むのは辞めようか」
その殺意の中心。
クラスメートたちから殺意の視線を浴びる僕は苦笑しながら口を開く。
学園三女神は何と奇跡的なことに全員同い年の幼馴染であると言うではないじゃないですか。
だがしかし。
「黙れボケェ!貴様に人権などないわ!」
「死ねぇ!」
「……なんであいつなんかが」
そんな奇跡的な幼馴染三人の百合空間の間に入るかのように一人、幼馴染として仲良くしている男の子がいるらしい。
な~に~!やっちまったな!男は黙って切腹!
まぁ、それが僕なんですけどね!切腹をするつもりはない。
学園三女神の仲良い幼馴染というとてつもなく豪華な立場にある僕、赤城蓮夜が殺意を向けられるのも仕方ないと思う。
僕だって立場が違えば罵っていた。うん。
「俺はお前が死ぬべきだと思う」
殺意の中心にいる僕一番の友だちとして、しっかりとまるで親の仇でも見るかのように殺意を向けてくる男が一人。
「たかが男女関係で親でも殺されたのかのような視線向けてくるのは辞めてよ」
中肉中背。
別に落第というわけではない凡の顔を持つ彼女いない歴=年齢の我が親友、巻貝大屋へと僕は言葉を向ける。
「俺の姉がホストで借金を数千万こさえて最終的に大学も辞めることになった。それが理由で家族が不仲になり、ギスギスの果てにどちらの教育が悪かったかで揉めて今にも両親が離婚するような勢い。俺は男女関係が理由で家族が崩壊した。男女関係は俺にとって親の仇も当然だ。許せるはずがない……男女関係を舐めるなよ?」
「それはすまん」
とんでもない話を真顔で語る大屋に僕は謝罪の言葉を口にする。
「……ってか、それマジ?」
「マジ」
僕の言葉に大屋は真顔で頷く。
「いや……あの、何か助けて欲しいことがあったら言ってな?数千万なら……」
大屋の態度に僕が何とも言えない感情を抱いていると、クラスの喧騒が一気に消しとんで全員の視線がクラスの扉へと向けられる。
「おっ、眠りの姫が顕現なさった」
先ほどまでの雰囲気を一変させた大屋がドアの方に向けて一言告げる。
その視線はただ一点にのみ向けられている。
「……そうだね」
学園三女神の一人、五十嵐冬華。
彼女は肩の高さで揃えられた白髪と宝石のようにきれいな赤目のアルビノな背丈の低い少女であり、常に無表情を浮かべているその相貌は芸術品の美しい。チャームポイントは幼い見た目でありながらも色気を醸し出させる泣きぼくろである。
体の方は抜群のプロモーションとは言えないが、それでも貧相とまではいかず、むしろ完成された美を持っているとも言えるだろう。
そんな常に小動物のように可愛く、常に眠たげな彼女のことを人は眠りの姫と呼ぶのだ。
これが僕の幼馴染なんだぜ?最高だろ?ちなみに僕の知るだけで冬華が芸能界からスカウトされた数は二十五である。
「……おはよう」
クラスの中へと入ってきた冬華はぼそりときれいな透明感のある声で呟くと共にゆっくりと歩き出す。
「退いて」
迷わず僕の元へと歩みを進め、そのまま僕の隣に立っていた大屋へと一言。
「仰せのままに」
それに対して大屋が深々と頭を下げてそのままいそいそと自分の席へと帰っていく。それで良いのか、お前は……良いんだろうなぁ。
「むふー」
僕までの一本道が切り開かれた冬華は満面の笑みを浮かべて席へと座る。
「当たり前のように僕の上に座るの辞めようか?」
すべての者からの視線によって針の筵になる僕は苦笑しながら無言のまま撫で撫でを要求する冬華へと言葉を投げかける。
「……撫でろ」
「はいはい」
其れに対して一言告げられる冬華の言葉に頷いて僕は彼女のきれいな頭を撫でる。
「……先に行った」
「それはごめんねで?でも僕も僕で用事があったんだよ」
「……今日はまだ蓮夜成分足りない」
そんな成分は存在しない。
「……故に撫でろ」
「はいはい」
「うなぁー」
殺意が渦巻く教室の中で、ホームルームの時間が来るまで気持ちよさそうにしている冬華の頭を撫でながら雑談に花を咲かせるのだった。
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