013
僕達が獣人の国に来てから一週間が経過した。
この一週間は働きまくったからもう疲れ切ってます。
というわけで今日は冒険者の活動を休止。
のんびりと休むことにした。
ポチとタマにはお小遣いを上げて放置。
きっと今頃美味しいものでも食べてることでしょう。
で、僕は公園でベンチに座ってぼーっとしてます。
こういう何も考えない時間って大事。
「ああ、今日もいい天気」
まあ、いい天気ってことは太陽も眩しいってこと。
このフード付きロングコートを着ていなければ全身真っ黒こげになってますね。
あー忌々しい太陽め。
やはり僕には月の光くらいがちょうどいい。
だってヴァンパイアだもん。
「むっ! 美味そうな匂い!」
漂ってくる微かな匂い。
これは……僕の好きな血の匂いだ。
きっと近くで流血沙汰でも起きてるんだな。
まあ、ここは野蛮な獣人の国。
そんなこともあるよねきっと。
「むっ! 焦げ臭い!」
漂ってくる何かが燃えた臭い。
近所で盛大に焚火でもしてんのかな?
そういうの迷惑だからやめようね。
「むっ! 誰かの悲鳴!」
聞こえてくるたくさんの悲鳴。
デスメタルでも演奏してたりするんだろうか?
デスボイスで発狂してる人々の阿鼻叫喚の叫び声が聞こえます。
「……そろそろ現実逃避を止めようかな」
どう考えても今の状況はおかしい。
町中で一体何が起きているんだろうか?
僕は調査のために重い腰を上げた。
「うーん……これは騒動の予感」
予感って口にしてるけど実際にはもう騒動起きてる。
あちこちで煙上がってるし、あちこちから悲鳴も上がってる。
「事件は町の中央付近で起きている……気がする。行ってみるか」
僕は直感に従い行動してみた。
こういう時は考えたって無駄だから。
行動あるのみ。
「むっ、ポチの気配だ」
僕の【気配感知】がポチの気配を捉えた。
一人で行動するのは心細いからポチも連れていくか。
そんなわけで僕はポチを探して三千里。
ポチの気配も強くなってきたし、そろそろ合流できそう。
「ポチ発見!」
曲がり角を曲がると僕はポチを発見。
ちゃんと指差し確認するのは怠らない。
ポチは倒れている見覚えのない母娘を庇いながら戦っている。
ポチが戦っている相手はフード付きの黒いローブを着た男。
それが四人でポチを追い込んでいる。
このままじゃポチは負けてしまうと思った。
しかし、そうはいかない。
仲間のピンチに颯爽と現れるヒーロー気取っていきます。
「腐れ外道共が! 成敗!」
「なんだ貴様――ぐあーっ!」
僕はもう慣れっこの手首リストカットで素早く血の刃物を形成。
背後から忍び寄るのは諦めて黒ローブ野郎の一人を斬り伏せた。
「ディス様!?」
「可憐なペットを救う正義の味方、見参」
スタイリッシュに決めポーズも決めてテンションが上がる。
これで背後に爆発エフェクトあったらパーフェクトだった。
「ポチはぶっちゃけまだ戦える?」
「まだまだいけます!」
「じゃ、ファイト百発で」
ポチはまだ戦意があるみたい。
体のダメージもそこまで酷くはなさそうだしもう少し頑張ってもらう。
「ちっ、ここは一旦退くぞ」
残りの黒ローブ野郎達はすぐ逃げた。
なんでだよ……これじゃ僕の見せ場が無いじゃない。
「あ、あの……助けてくれてありがとうございます」
ポチに庇われていた獣人の母娘がお礼を言った。
ボランティア精神で助けただけだから礼はいらん。
だが、誠意は見せてね。
例えば……みんな大好き金貨とかをくれてもいいのよ?
「うむ、無事で何より。帰り道には気を付けてな」
「あなた達も無理しないようにね」
獣人の母娘はお礼だけで済ませて走り去っていった。
誠意を見せないなんて、育ちが知れるな。
「あ、そういえばタマはどこ?」
ポチと一緒にいるはずのタマがいない。
これはどういうことかとポチに質問した。
「タマならついさっき向こうへ走っていきました」
「なんで?」
「さあ? ドラゴンの直感がどうこう言ってましたけど……」
「そっか。じゃ、タマを追いかけよう。単独行動は危険だからね」
「では、お供します」
なんかタマは町の中央に向かって走っていったようだ。
直感を信じて動くとかちょっと軽率だと言わざるを得ない。
早くタマを見つけて僕達も避難しよう。
こういう事件は衛兵とかに任せておけば勝手に解決する。
そんなわけで僕とポチは町の中央へ向かって走るのだった。
「ディス様。【気配感知】に反応があります。この先に何人かいますよ」
「そうだね」
「どうします?」
「正面から行く。ポチはそれしか能が無いでしょ」
「その通りです!」
「この脳筋がよぉ……いいから全員ぶっ殺そうぜ!」
「分かりました!」
しばらく小走りで移動してると【気配感知】に反応有り。
この先に誰かがいるね。
気配の動きから察するに戦ってそうだ。
黒ローブの集団だったら乱入して殺そう。
どうせ火事の犯人は黒ローブの集団だし、放火の現行犯で殺害してしまおう。
「いました! さっきの黒い奴らです!」
曲がり角を曲がるとそこでは獣人と黒ローブ野郎達が戦っていた。
獣人側はなんか統一感のない装備だしきっと冒険者だな。
戦闘は黒ローブ野郎達の方が優勢。
獣人達はなんかトリッキーな動きに翻弄されてる感じ。
ポチが黒ローブの集団に突っ込むのを見ながら僕は【鑑定】を使う。
まあ、さっきの手応え的に大した事ないとは思うけど念のため。
名 前:ジョン
種 族:人間
レベル:30/100
状 態:通常
筋 力:187
体 力:120
俊 敏:243
魔 力:31
運命力:8
スキル
【隠密】
称 号
無し
とりあえず一人見てみたけど弱いですね。
ちなみにこれが僕とポチの現在のステータスだ。
クソザコモブとの差にビビれ。
名 前:ディス
種 族:シャドウヴァンパイア
レベル:36/40
状 態:通常
筋 力:438
体 力:432
俊 敏:472
魔 力:904
運命力:7801
スキル
【創造】【鑑定】【隠密】【気配感知】【血液操作】
【闇魔法】【偽装】【コピー&ペースト】【解読】
称 号
【運命に翻弄される者】
名 前:ポチ
種 族:シャドウムーン・ウルフ
レベル:14/50
状 態:通常
筋 力:417
体 力:389
俊 敏:557
魔 力:387
運命力:622
スキル
【気配感知】【月魔法】【人化】【偽装】【隠密】
【闇魔法】
称 号
無し
安全、よし!
これで心置きなく殺せるぜ!
「あ、そうだ。いい機会だし、魔法でも使ってみようかな」
ずっと僕のスキル欄で腐ってた【闇魔法】の出番ってわけ。
今の僕の魔力なら百回くらい使っても大丈夫だろう。
「ダークネスランス」
僕が使ったのは【闇魔法】の攻撃魔法。
これでポチを援護しよう。
「ゴボッ」
僕の漆黒の槍はビギナーズラックで黒ローブ集団の一人に当たった。
胸を貫かれた状態では長くないな。
血がドバっと出てました。
「増援か……魔法使いは先に叩く」
ほう、なかなか戦闘を俯瞰出来てる奴がいる。
僕を脅威だと思ったか。
その目は節穴じゃないみたい。
いいだろう相手をしてやろうじゃないか。
僕の指名料は高いぞ。
「ダークネスランス」
「ふん、何度も同じ手が通じるとでも――」
「ダークネスランス、ダークネスランス、ダークネスランス」
「え、ちょっと多い――」
「ダークネスランス、ダークネスランス、ダークネスランス、ダークネスランス、ダークネスランス」
「ぐあああ!」
黒ローブの男は漆黒の槍で串刺しになって鮮血ブシャー。
やっぱり数撃てば当たるもんだな。
「くっ、あの魔法使いが厄介だな」
「私もいますけど?」
「なっ!?」
僕に意識を向けた黒ローブの男をポチが回し蹴りで吹き飛ばす。
黒ローブの男は家の壁にぶつかって動かなくなった。
「よっしゃ! 敵の陣形が崩れた! 今の内にやっちまえ!」
「おう! ガキにいいところ持っていかれちゃ堪んねえからな!」
僕とポチが参戦したことで獣人の皆さんも反撃を始めたな。
黒ローブ野郎達はイケイケムードが一転。
防戦一方になった。
これならもう僕達が手を出す必要ないね。
早くタマを探そう。
「これならもう大丈夫でしょ。先に進むぞ」
「はい!」
僕達はこっそり戦闘から抜け出してタマの探索を再開。
途中でまた黒ローブ野郎達が邪魔してきたが難なく撃退したよ。
魔法の強さを知ってしまった僕を止めることはできない。
「ん? なんか変な感じ」
「ポチどうした?」
「【気配感知】で感じる気配が変なんですよ」
「そうかな?」
「気配のすごく小さい奴と気配のすごく大きい奴が戦ってます」
「そうなの?」
言われてみれば確かに【気配感知】に微弱な反応がある。
こんなによわよわ反応……僕じゃなきゃ見逃してるね。
「きっと大きい気配はタマですよ。気配のする方へ行ってみましょう」
「そうだね」
気配のする方角はちょうど町の中心部向きだ。
これはもしかしたらボス戦かもしれない。
まあ、僕のラノベ知識に照らし合わせるとこういう時の展開は決まってる。
きっと町の中心部にいるのは黒ローブ野郎達の親玉でしょ。
「この騒動に終止符を打つために……僕は戦う!」
というわけでやっと辿り着いた町の中心地。
そこは中央に噴水のある広場となっている。
戦っていたのは……ポチの言う通りタマでした。
タマの相手は黒ローブの男。
でもタマと互角に戦ってるし絶対雑魚じゃない。
見た目はすごく弱そうなのにね。
「とりあえず先手必勝。ポチ、合わせて」
「はい!」
僕とポチは揃って【闇魔法】で攻撃する。
どうでもいいけどポチも【闇魔法】持ってたんだな。
どうでもいいから忘れてた。
ポチは【月魔法】ってイメージだったからね。
で、肝心の攻撃はというと全部躱された。
タマと戦いながら避けるなんて流石ボスじゃん。
どうやら不意打ちは通用しないようです。
「……誰だ?」
一旦、距離をとった黒ローブの男から質問。
まあ答えてあげるのが世の情けだから答えてあげましょう。
「知る必要はない。死ね」
ちょっとポチ?
僕の気持ちを無視しないで?
「……まあいい。お前達はここで始末する」
黒ローブの男がふらりと動くと急に僕の目の前に現れた。
そのまま剣で刺そうとしてきたから咄嗟に手に持ってた血の刃物で防御。
火花を散らしながら刃を交えた。
なんて速い移動。
僕じゃなきゃ反応できなかったね。
これが自画自賛ですか?
「……冒険者にしてはやるようだ」
「そうだろ? なんと言っても僕はFランクだからな」
「……低ランクだと?」
首を傾げる黒ローブの男を見据えながら【鑑定】を発動。
少しでもボスの情報は欲しいんで。
悪いけど個人情報……見ちゃうね。
名 前:カリス
種 族:人間
レベル:47/100
状 態:通常
筋 力:520
体 力:456
俊 敏:602
魔 力:118
運命力:90
スキル
【隠密】【気配感知】【俊足】
称 号
【暗殺者】
ふーん、思ったよりも強い奴ですね。
人間でここまで強い人初めて見たかも。
ステータスはそこまで大差がない。
いや、総合的に見れば僕の方が多少上回っているかな?
でも、技術は向こうの方が上かも。
だって相手は明らかに対人戦をやり慣れてるでしょ。
僕はラノベでこういうことに詳しいんだ。
「無視してんじゃねえッス!」
タマが勢いよく殴りかかってきた。
しかし、黒ローブの男はタマの攻撃を回避。
【気配感知】を上手く使ってらっしゃる。
「三人で戦うぞ。あいつをボコボコにしろ」
「はい!」
「ウッス!」
僕達三人にかかれば余裕だろ。
そう思って戦闘を開始。
まず飛び出したのはタマ。
タマの場合、魔法が使えないから前に出るのは当然だと思う。
まあ、ドラゴンの姿に戻ればブレス攻撃出来るんだろうけど。
そんなタマの攻撃を黒ローブの男は避けてタマのお腹に膝蹴り。
単純な攻撃だったのが良くなかったか。
「ぐっ! ま、まだまだッスよ!」
タマは反撃のパンチを繰り出す。
それを黒ローブの男が受け止めた。
そしてそのまま流れるように投げ飛ばす。
「ムーンカッター!」
ポチが援護の魔法攻撃。
これを黒ローブの男は手に持ってる剣で弾いた。
「おぅふ、強いじゃん。やりますね」
ポチの魔法に続いて僕も血の刃物で斬るが、黒ローブの男は剣で受け流した。
うーん、こいつ強いから困る。
防御してそれから反撃するっていうのに慣れてやがります。
ならばここは正攻法ではなく姑息な戦法でいくぞ。
なぜならば、この世は焼肉定食……じゃなくて弱肉強食。
勝てば正義なのですよ。
「オラッ! これでも食らえ!」
「……武器を投げるとは、窮したか」
僕は渾身の投擲で血の刃物を投げた。
黒ローブの男はその攻撃を半身になって避ける。
しかし、それこそ僕の狙い。
血の刃物にはこういう使い方もあるから。
「爆散!」
黒ローブの男の横を素通りしようとした血の刃物を【血液操作】で爆発させる。
ドラゴンだって吹き飛ばす必殺の攻撃。
人間風情に耐えられるはずも無し。
哀れ、黒ローブの男は消し飛んだ。
「やったか!?」
「いや、どう見ても死んでるッスよ」
「そうかな……そうかも……」
「なんで不安になるんッス?」
とりあえずボスはやっつけた。
これで黒ローブ野郎達の指揮系統も乱れるはず。
後は残党狩りをすれば町は平和になるって寸法よ。
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