012
さて、やってきました訓練場。
ここが今回のバトルフィールドってわけ。
見た感じ訓練場の設備に金がかかってる感じはしないね。
そんな訓練場の中央でタマと虎の獣人が向かい合ってる。
獣人の方は槍で武装してるけどタマは素手。
観客の目線で言わせてもらう。
素手の女の子相手に武器持ち出してる大人ってどうなの?
倫理観終わってない?
もしかして獣人の国じゃ喧嘩に刃物持ち出してもOKなんだろうか?
「あなた恥ずかしくないんですか? タマちゃんを戦わせるなんて」
横から声がしたので振り向くとそこには猫耳のお姉さんの姿。
その表情は僕に対して不満ありますよって感じ。
ちょっとタマの保護者面してんじゃないよ。
「別に恥ずかしくないし。タマは立派に戦えるし」
タマは殺る気だ。
それに勝ち目の無い戦いってわけでもない。
僕としては安心して見ていられるもん。
「ここは年長者のあなたが戦うべきでは?」
「いやー、タマの活躍する機会を奪うのはね?」
「タマちゃんが怪我したらどうするんですか!」
「大丈夫。タマが勝つから。全財産賭けてもいいよ」
「あなたは知らないでしょうから言っておきます。レオさんはDランクなんです。Fランクのあなた達では……」
ふーん、そういうこと。
どうやら猫耳のお姉さんは実力差あるよねって言いたいらしい。
確かに実力には差がある。
ただどっちが実力者なのか猫耳のお姉さんは分かってない。
そもそもDランクだからなんだってんだよ。
FもDもそんなに変わらんでしょ。
「悪く思うなよ。気絶くらいで済ませてやるからな」
虎の獣人がニヤニヤしながら言った。
そんな表情に出すようじゃダメダメですよ。
嘘ならきっちり嘘をつくべき。
「こっちはイラついているッス。ボコボコにするから覚悟するッス」
タマはシュッシュッシュッと拳を突き出して威嚇。
それを見た虎の獣人からは笑みが消えて激おこ。
どっちも温まってきましたね。
「ディス様はどっちが勝つと思いますか?」
「どう考えてもタマ」
「ですよね。私もそう思います」
ポチとひそひそ話していると戦いが始まった。
まず、最初に動いたのは虎の獣人からでした。
槍をクルクル回しながら走ってるけど器用な奴だな。
しかし、ステータス的に劣っている虎の獣人が先手を取る。
それはつまりタマが先手を譲ったってこと。
虎の獣人さん舐められてますね。
「一撃で終わらせてやる!」
虎の獣人は槍を大きく振り上げ、タマの頭に振り下ろす。
これが当たったらほんとに気絶で済むんですかね?
スイカが割れるシーンが目に浮かびますよ。
「ッス!」
タマは横に飛び、槍を回避する。
でもすぐに槍は跳ね上がり、タマを捉えて吹き飛ばす。
おっと今の動きはなかなかだな。
虎の獣人……Dランクなのは伊達じゃないの?
「あぁ! タマちゃん!」
観客の中には悲鳴を上げる者も。
猫耳のお姉さんもその内の一人。
「呆気なかったなぁ! ガハハ……な、なんだと!?」
勝ったと思ってた虎の獣人の表情がコロリと変わる。
まあ、タマが何事も無かったように立ち上がったからね。
そりゃあんな攻撃されて普通の子供なら立つことなんて出来ないですよ。
「今度はこっちの番ッスよ!」
タマが虎の獣人に向かって走り出す。
虎の獣人はタマを懐に入れたくはないだろう。
だから槍のリーチを最大限活かすと思う。
僕ならそうする。
「おらぁ!」
虎の獣人はタマに向かって槍を突き出した。
でも、タマは体を捻ってこれを回避。
虎の獣人は慌てて槍を引き戻すがもう遅い。
タマのクソプリチーなパンチが虎の獣人の顎にヒットした。
虎の獣人は斜め上に吹っ飛んで放物線を描きながら地面に落ちる。
動かないし気絶しちゃってるな。
観客は口をあんぐりと開けている。
タマはドヤ顔だ。
ドヤってるタマも可愛いと思います。
「よし、やることは終わった。撤収する」
「はい!」
「ウッス!」
僕達は堂々と胸を張りながら訓練場を去ろうとした。
しかし、僕の腕をがっしりと猫耳のお姉さんが掴んだことでそれは中断。
振り払おうにも猫耳のお姉さん握力強いの。
これじゃ僕の細腕潰されちゃう。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何か用かな?」
「これはどういうことなのか説明してください!」
猫耳のお姉さんが僕に詰め寄る。
あっ、香水のいい匂いが。
やっぱり女の子ならこういうところに気を使いたいな。
まあ、僕からはフローラルな香りがしてるから問題ないけど。
「タマが勝っただけですね」
「子供が大男を吹き飛ばすなんておかしいじゃないですか!」
「おかしくない。毎日腕立て伏せやってれば誰でも出来るようになるから」
「そんなわけないですよ!」
うーん、どうしようかな。
対応が面倒になってきたよ。
こういう時は口からでまかせ言って難を逃れよう。
大丈夫、僕はお喋りが得意なんだ。
「タマの正体は……竜人だったんだよ!」
「マ、マジッスかー!」
何でタマが驚くんだよ!
お前ホワイトドラゴンだろ!
何日か人間形態だっただけで自分を見失うなよ!
「ほ、本当に竜人なの……?」
え、猫耳のお姉さんどうしたの?
なんだか目が怖い。
もしかして竜人はNGワードだった可能性がある?
「ちょっとこっちで詳しい話を聞きましょうか」
僕は猫耳のお姉さんに連行されて応接室的な部屋に連れ込まれた。
そこには屈強な男共がいて僕に薄い本みたいなことをしようと……いや、それは無いか。
「さて、説明してもらいましょう」
猫耳のお姉さんが怖い。
目がギラギラしてやがる。
あなたってこんなキャラだったの?
だったらもう少し真面目に接するべきだった。
「こんなところに竜人がいるはずない。あなたは何を隠しているんですか?」
「何も隠してないです」
しらばっくれると猫耳のお姉さんが机を叩いた。
静かな部屋に響く木を叩く音。
これには思わずビクっとなる。
心臓に悪いからやめようね。
僕はガラスのハートなんだよ。
「正直に話すんで許してください」
「よろしい。では、聞きましょうか」
「ある日、山の中、ドラゴンに、出会った」
「何で歌みたいに言うんです?」
「で、タマのママンと共闘してドラゴンを撃破」
「竜人と共闘して? Fランクのあなたが?」
「嘘じゃないから」
「……まあ、信じましょう。続きをどうぞ」
「死闘の結果、タマのママンは死んじゃったの。タマは形見代わりにもらってきました」
「……本当に?」
「そうだよ」
説明を終えると猫耳のお姉さんが訝し気な視線を僕に向けてくる。
何でだよ詳しく説明したじゃん。
「じゃ、説明義務は果たしたんで僕はこれで失礼します」
「なんだか腑に落ちないわ……竜人が他種族に子を任せるなんてありえるの?」
「信じる者が救われるんです。信じなさい」
「そうかしら……?」
「信じろって言ってんの!」
僕は猫耳のお姉さんを納得させて部屋を出た。
猫耳のお姉さんはずっと唸りながら考え込んでたよ。
あんまり悩むと禿げるから気を付けてね。
で、部屋の外に出た僕は素早くポチとタマを回収。
そそくさと冒険者ギルドを後にしました。
「これからどうするんッスか?」
「とりあえず宿探し。あと美味しい食い物」
「美味しい食べ物……いいッスね!」
「だろぉ? というわけでポチ。美味しそうな匂いのする方角教えて」
「くんくん……こっちです!」
ポチに導かれて僕達は食探し。
そこで出会ったのは美味しい焼き魚だったよ。
ついつい三人で食べ過ぎて財布が軽くなったのは内緒。
ちなみに一番食べたのはタマでした。
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