011
僕達は優雅に豪華客船に乗って洒落乙な船旅……わけないじゃん。
悲しいことに金が足りないんです。
Fランク冒険者の財布がパンパンに膨らんでいるわけがないんだ。
そんなわけで僕達は輸送船に乗って海を渡った。
三日間の間、狭苦しい部屋に僕とポチとタマでぎゅうぎゅう詰めだった。
絶対いい匂いが部屋に充満してたと思う。
で、辿り着いたのは獣人の国。
ロンバーよりも大きな港町のハーベスに到着した。
船から降りた僕達はまず獣人達の検査を受けることに。
まあ、これは入国審査ってやつですかね?
この検査が結構厳しいみたいで、何人かは拘束されて近くの建物へ連行されてる。
獣人の目ってなかなか怖い。
まるで人間を親の仇を見るような目で見てるよ。
「次」
僕達の番がきたようだ。
後ろめたいことは一切無い。
たぶん大丈夫でしょ。
「あにょ! そ、そのですね……デュフフ」
これは不味い。
僕ってば緊張のあまり挙動不審になってるじゃん。
これじゃ怪しまれて連行されちゃう。
ほら、獣人の皆さんもなんだか妙な視線を送ってくるし。
「助けてポチ!」
「あ、えっと……そ、その、えへへ」
ちょっとポチィ!
僕と同じリアクションしてんじゃないよ!
これがペットは飼い主に似るってことなの!?
「はあ……」
ほら、獣人も溜息ついてるし。
明らかに呆れられてる……いや、もう馬鹿のふりをしてこの場を切り抜けるか?
「全く、子供がここに来ちゃ駄目だろ。ここには怖い人間がたくさんいるんだぞ」
「……ん?」
「ほら、友達も一緒にこっちに来い」
あれれーおかしいぞー?
なんだか獣人のおっさんが妙に優しいんですけど?
これは一体どういうことなんだろう?
まさかこのおっさんロリコンか?
「む? その子達は?」
「どうやら悪戯っ子らしい。こんなところに入り込むなんてな」
「それは悪い子だな。ここには来ちゃ駄目なんだぞ」
注意してはいるが獣人の皆さんが優しい。
なんか怖いんですけど?
後で豹変したりしないよね?
「ほら、この道をまっすぐ行けば帰れるからな。寄り道はするなよ」
「あ、はい。ありがとうございます?」
「ちょっと返事が頼りないが、まあいい。もうここには来るんじゃないぞ」
手を振りながら持ち場に戻る獣人を手を振って見送る僕達。
……何なのこれ?
「ディス様? これってどういうことなんでしょうか?」
「僕、ヴァンパイアだから分かんない」
いや、ほんとにね?
これってどういうことなんだろうか。
子供だから見逃したっていう感じとも微妙に違うような気もする。
「……あっ、あたい分かったッスよ」
なんとタマの皺無し脳細胞が答えを導き出したらしい。
まさかぼくの灰色の脳細胞が後れを取るとは。
「では、タマの見解を聞こうか」
「ウッス。たぶんあたいとポチを同族と勘違いしたんじゃないッスか?」
「え? 獣人って同族には優しいの?」
「さあ? あたいもそこまでは知らないッスね」
なんということか。
ポチとタマのおかげで助かったらしい。
言われてみれば腑に落ちる話である。
獣人は身内に甘いのか。
「ま、いいか。結果オーライってことで、先へ進もう」
細かい事気にしてたら禿げる。
これ世界の真理。
「これからどうしますか?」
「とりあえず冒険者ギルドへ行くぞ。タマも冒険者にしないといけないし」
「あたいも冒険者になるんッスか? 別になる必要無いと思うんッスけど?」
「働け。馬車馬の如く」
「酷いッスよご主人」
というわけで僕達は港町にあった冒険者ギルドを訪ねた。
ここもフリードの冒険者ギルドと同じように扉の蝶番に油を注していないらしい。
扉を開くと盛大に軋む音を立てた。
建物の中に入ると一斉に睨まれた。
え、僕なんかやっちゃいました?
「むむッス? 感じ悪いッスね」
「まあ、ここじゃ余所者は歓迎しないんでしょきっと」
建物内の冒険者達はみんな獣人みたい。
睨んではくるけど襲ってはこないから一応安心。
でも怖いからさっさとタマの登録済ませてしまおう。
「あ、あにょ!」
「はい、なんでしょうか?」
受付には猫耳のお姉さんがいた。
フリードの受付のお姉さんと違って愛想がいい。
笑顔が眩しいぜ。
「えっとですね……この子を冒険者にしたいんですけど」
「え? その子を?」
僕がグイっとタマを前に出すと猫耳のお姉さんは眉間に皺を寄せた。
見るからに冒険者登録を渋ってる感じ。
「本当に登録するんですか? 冒険者は危険な仕事なんですよ?」
「まあ、はい。こう見えてこの子は結構強いんで」
「……失礼ですが、あなたとその子の間柄は?」
「え? 間柄ですか?」
……うーん、困ったぞ。
まさか正直にご主人様とペットですとは言えないし。
ここは姉妹ですって言っちゃうかな。
「あたいはご主人のペットってことになるッス。愛玩動物ッスよ」
「……え?」
ちょっとタマァ!
馬鹿正直に言う奴があるか!
こんなの絶対話が拗れるやつじゃん!
ほら、猫耳のお姉さんの僕を見る目が冷たくなっていくよー!
「あ、あはは……まあ、今のは冗談ってことで」
「ん? あたいペットじゃないんッスか?」
「ちょっとタマは黙っててね?」
くそ、状況は悪い。
こんなに居心地が悪いと感じたことはないぜ。
早くこの場から立ち去りたい。
「早く冒険者登録してください。ほんと頼みます」
「……では、こちらの紙に記入をお願いします」
「あ、代筆で」
さっさと済ませたいの一心で僕はタマの情報をペラペラ喋る。
猫耳のお姉さんのさっきまでの笑顔はどこへやら。
もう僕に笑顔を向けてくれること無さそう。
「これで登録は完了です。冒険者についての説明は必要ですか?」
「これでも僕はFランク冒険者なんで必要ないです」
「……そうですか」
猫耳のお姉さんは仕事が済むと僕から視線を逸らしてポチとタマを見た。
その顔にはすっごく心配してますって書いてあった。
「じゃ、僕達はこれで……」
僕が足早に冒険者ギルドを去ろうとするとそれを遮る影。
そこには見上げるほどでかい獣人が立ってた。
見た目は虎っぽい。
「臭せえな」
「は?」
いきなり臭うよって言われた。
年頃の乙女として断固として抗議したい。
そんなこと言われたら僕のハートが傷付くだろ!
「てめえからは血の臭いがプンプンしやがる」
「嘘つけ。絶対フローラルな匂いしかしないぞ」
「ついでに嘘つきの臭いもしやがるぜ」
こいつ適当なことしか言ってないな?
こういう奴はラノベでも度々登場するんだ。
所謂、かませ野郎です。
「人聞きの悪いこと言うな」
「はっ! ガキが、生意気なんだよ」
虎の獣人が牙を見せて威嚇してくる。
ちょっと大人が子供にオラつくんじゃないよ。
むぅ……どうして誰も助けてくれないのか?
か弱い女の子が襲われそうなんですけど?
誰も止めに入らないとかどうなってるんだろうか?
「さっきから黙っていれば……ディス様に言いたい放題」
「あたい、こういう奴は嫌いッスよ」
ポチとタマがイライラしてる。
このままじゃ暴発しかねない。
とりあえず【鑑定】で相手の情報を見てから決めよう。
弱いようならボコボコにしちゃえ。
名 前:レオ
種 族:獣人
レベル:22/100
状 態:通常
筋 力:208
体 力:211
俊 敏:250
魔 力:29
運命力:2
スキル
【火耐性】
称 号
無し
うん、雑魚だわ。
レッドドラゴンの後だと本当に弱く見えるね。
というか虎の獣人なのに名前がレオってギャグかよ。
「タマ、やっておしまい」
「ウッス!」
これはタマの実力を見る絶好の機会。
それに僕が観戦していれば問題の対処もしやすいってわけ。
だからここはタマを身代わりに使う。
期待を込めてタマを見る。
タマは勝つ気マンマンだ。
「なんだぁ? ビビってんのか?」
「タマがお前をボコボコにしたいってさ」
「俺も舐められたもんだな」
「やるのかやらないのかどっちか決めろよ」
「いいぜ。やってやんよ。裏の訓練場で相手してやんぜ」
相手は余裕だぜって顔してる。
でもタマの正体はホワイトドラゴンなんだよね。
舐めてかかると痛い目見るぜ。
「むぅ……」
「どうした?」
ポチが唸ってる。
でも可愛いから全然迫力ないです。
「私があいつを倒したかったです」
「あ、うん」
適当にポチの言葉は流して僕とポチも訓練場へ向かう。
さて、喧嘩を売ってきた虎の獣人の運命や如何に。
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