010

 なんだかんだあったけど僕もポチも無事でなにより。

 それじゃ僕はこれで失礼します。

 なんだか疲れちゃたよ。



「小さき者よ……私の願いを聞き届けてくれてありがとう」



「おん?」



 近くにいたホワイトドラゴンからお礼を言われた。

 敵対的じゃないからいいけどこいつもかなり威圧感半端ない。

 これが威厳ってやつですか?



「あ、気にしないでいいですよ。それじゃ僕はこれで」



 僕の勘が告げている。

 面倒事の匂いがすると。

 だから僕はクールに立ち去るぜ。



「待ってくれ。どうか私の頼みを聞いてほしい」



 やっぱりね。

 こうなるって知ってた。


 無視して帰りたいけどそれが逆鱗に触れちゃったら困る。

 うーん……仕方ないから話だけでも聞いておくか。



「私は致命傷を負っている。もう長くない」



「でしょうね。血がドバドバ流れてるし」



「私には娘がいる。あの子を一人にはしたくないのだ」



「ふーん、親心じゃん」



「だから頼む。私の代わりにあの子の傍で見守ってはくれないか?」



「えぇ……?」



 話が飛躍しすぎでは?

 そんな責任僕には負えませんよ。

 気軽にペットを飼うのとはわけが違いますって。



「どうか頼む。頼れるのはお前しかいないのだ」



「良心に訴えかけるの卑怯じゃない?」



「厚かましいのは重々承知だ。それでも、どうか……」



 預からないといけない空気になってる。

 困ったな……このままNOって言ったら可哀想かもしれない。

 でもドラゴンなんて町で飼えるのかな?

 その辺がよく分かんないけど、とりあえず前向きに検討するってことで。



「手に負えなくなったら野に放すけどそれでもいい?」



「それで構わない。この恩は一生忘れないぞ……」



 一生が終わりそうな時にそれ言う?

 これがドラゴンジョークなんだろうか?


 笑うべきか悩んでいるとホワイトドラゴンは息絶えた。

 僕に子供を託したことで安らかに死んだのだろうか?

 残念だが、僕にはよく分かんない。



「……それで、子供ってどこにいるんだろ?」



 周囲を見回すと岩陰に白い尻尾が見えた。

 近付いてみると小さなホワイトドラゴンがいた。

 こいつが例の子供ですか。



「バレたッス!? 何でッスか!?」



 なんか喋り方が……うん。

 まあ、こういうドラゴンもいるんだな。



「話は聞いてた? お前のママンに託されたんだけど?」



「そうッスね……」



 しょんぼりするホワイトドラゴンの子供。

 どうやらドラゴンにも愛情はある模様。



「じゃ、今日からお前はペット二号ね」



「え? あたいってペットなんッスか?」



「大丈夫。ちゃんと面倒見るから。あ、僕の名前はディス。で、あっちの子がポチ」



「……そうッスか。なら、よろしくお願いするッスよ」



 なんだか納得いかないって顔に書いてる気がする。

 ドラゴンの表情なんて分かんないけど。



「ペットになるなら名前を決めてあげよう」



「どうせなら可愛い名前にしてほしいッスね」



 可愛い名前か。

 まあ、名前が付いたら一生付き纏うものだしね。

 それじゃかっこいい名前を付けてあげよう。



「よし、お前は今日からタマだ。これからよろしくな」



「……それ可愛い名前なんッスか?」



 やっぱりシンプルな名前が一番だよね。

 ってことでホワイトドラゴンの子供の名前はタマに決定。

 タマも喜んでるし問題無し。



《ホワイトドラゴンは真名を取得。ランダムにスキルを取得します》



 ポチの時と一緒でタマもランダムにスキルを手に入れたみたい。

 一体どんなスキルを手に入れたのかな……って眩し!


 タマの方見たらタマが光ってた。

 これは……ポチの時と同じ美少女化か!

 こいつも【人化】のスキルを手に入れたのかよ。

 そんなことってある?



「あたい、新生ッス!」



 光の中から現れたのはポチと同じくらいの歳の少女。

 例に漏れず、全裸で白髪である。


 頭にはドラゴンの角が生えていて、尻にはドラゴンの尻尾がある。

 おっぱいはポチよりでかいか。

 まあ、辛うじてだけど。


 とりあえずタマには【創造】で作った服をプレゼント。

 それから【コピー&ペースト】で【偽装】【隠密】をあげた。

 これでどこからどう見てもタマは普通の女の子だな!

 角や尻尾が生えてるのは愛嬌ってことで。



「それじゃ町に戻るぞ」



 いろいろあったけど、こうして僕達は山から去ったわけだ。

 タマが非常に名残惜しい感じを醸し出してたけどこれは仕方ない。

 僕だっていつまでも山に籠るわけにはいかないんだ。


 ちなみに帰り道で見たタマのステータスはこんな感じ。




 名 前:タマ

 種 族:ホワイトドラゴン

 レベル:1/90

 状 態:通常


 筋 力:468

 体 力:491

 俊 敏:437

 魔 力:487

 運命力:203


 スキル

 【人化】【偽装】【隠密】


 称 号

 無し




 レベルは低いのにこのステータス数値。

 流石ドラゴンである。


 僕やポチよりも強いんじゃない?

 立派に野生で生きていける奴を僕に預ける必要あったの?

 タマの親は過保護が過ぎる。



「町が見えてきました」



「おっそうだね」



「でもなんか慌ただしいッス」



 町に戻るとなにやら騒がしい。

 いつもよりも人の声が多く飛び交っている。

 ここは門番に話を聞いてみるか。



「どうしたんです?」



「フリードを覆う魔力障壁に亀裂が入ったんだ。それで関係者は大騒ぎってわけさ」



「ふーん」 



「原因は、アデュール山からドラゴンのブレス攻撃が飛んできたからだってよ」



「へ、へえ」



「今回の件で冒険者達が近々調査に向かうようだ。まあ、当然だな」



「そうですね」



「ん? どうした? 顔色が悪いようだが?」



「いや、光の当たり具合のせいでしょ。ほら、僕ってフード被ってるし」



「そうか? まあ、大丈夫ならいいんだが」



 なんてこったい。

 まさか僕とドラゴンの死闘の余波がこんなところにまで届いているとは。



「……これって普通に不味いよな」



 冒険者ギルドでは僕とポチはFランク冒険者として登録されてる。

 そんな底辺冒険者がドラゴンをぶっ殺してきたなんて普通じゃありえない。

 だから、もし僕がドラゴン殺しの犯人だってバレたら……追求されるぞこれ。


 追求されたら最悪だ。

 もしかしたらモンスターだって気付かれるかもしれない。

 そうなったら投獄&処刑コースだ。



「……ほとぼりが冷めるまでどこか別の場所へ行くか」



「え? 休まないんッスか?」



「休むのは後だ。今はここから離れよう」



 僕は面倒が嫌いなのだ。

 そういうわけで僕達は足早に町を出た。


 行き先は決めてある。

 図書館で周辺地理については把握済みだからね。



「進路は東。ずっと歩けばロンバーっていう港町に着くはず。そこで船に乗るぞ」



「そこには何があるんですか?」



「大きな海原が待っている」



「何ですかそれ?」



「まあ、でかい水溜まりみたいなもんだよ」



 ポチに海というものを説明しつつ港町へ向かう。

 道中は特に語るようなことも無し。


 強いて言うならポチとタマが喧嘩したってことかな。

 まあ、喧嘩した後はなんか仲良くなってたけど。

 ああいうのって殴り合ってお互いを認め合ったってやつなのかな?

 僕には分かんない。



「はぇ……これが海ですか。臭いですね」



「なんかこの水臭いっスね」



 ポチとタマの海に関する感想を聞きながら無事に港町へ到着。


 港町に着くとそこには大きな船がたくさん浮かんでた。

 ここは大きな港のようだ。


 海に浮かんでるのは帆船の類。

 まあファンタジーな世界なんだし帆船だよねって感じ。

 ポチとタマは初めて見る船に興味ありありであった。


 とりあえずどこかの宿で一泊しよう。

 船のチケットは明日買えばいいや。

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