005

 僕は森から出るために歩いてます。

 ポチは僕の横に並んでる。


 移動中はポチと会話に花を咲かせる……こと出来ず。


 いやー僕って他人と喋るの得意じゃないから。

 というかオオカミと喋るの難しくない?

 考え方とか違うし。


 せめてのスキンシップとしてポチの髪型をツインテールにした。

 これはポチも喜んでいたからグッドスキンシップだったな。

 ポチの好感度もギュンギュン上がったに違いない。


 これで会話も弾めばいいのだけど。

 まあ、時間が解決してくれることに期待です。



「お? 森の外が見えてきた」



 薄暗かった森が徐々に明るくなってきた。

 木の間隔も疎らになってきた。

 もう森の端まで来ちゃったみたいだ。



「さあ、森を出よう! いざ行かん、未知の土地!」



 意気揚々と進み、森の外に足を踏み出す。

 あぁ、久しく見てなかった太陽が目に染みる……って、熱っ!

 この太陽光熱いよー!



「どうしたんですか!?」



 反射的に森に向かって猛ダッシュした僕を心配するポチ。

 あかん、これって奇行じゃん。

 ポチが可哀想なものを見るような目をしてる。



「はあ、はあ……死ぬかと思った」



 日光の照り付ける場所に出た瞬間、燃えるような熱さを感じた。


 まさかと思った僕は腕を見る。

 案の定火傷してた。


 軽い火傷だからすぐに治るとは思う。

 治らなかったら【創造】で傷薬を生み出そう。

 嫁入り前の体に傷なんてあっちゃいけない。


 しかし、なんで燃えたんだ?

 やっぱりヴァンパイアだから?

 そんなお約束なんていらないですよ神様。



「大丈夫ですか? なんだか焼けた肉の匂いがしますけど」



「うーん、ヴァンパイアだから焼けるっぽい」



「じゃあ、どうするんですか?」



「……夜まで待つとか?」



 自分で言っておいてなんだけど、夜まで待つのは悪手。

 暇すぎて心が死にそう。



「あ、それならこうしよう」



 肝心なのは太陽の光に当たらないこと。

 つまり装備の更新で事足りる。

 太陽の光をシャットアウト出来る能力を秘めたかっこいい服を【創造】で生み出すのだ。



「創造――アイテム――」



《フード付きロングコートを取得しました》



《ミニスカワンピースを取得しました》



《ロングブーツを取得しました》



《ロンググローブを取得しました》



《極上ランジェリーを取得しました》



 あれれーおかしいぞー?

 イメージしたのはかっこいい服装だったんだが?

 なんでこんなのが出るの?

 ちょっと担当者出てこい。



「まあ、出ちゃったのは仕方ない。着るか」



 人生諦めも大事だよね。

 ということでスケスケのエグい下着を装着し、その上にワンピースを着る。

 ちなみにこのワンピースには、上品なレース柄が付いてます。



「あ、そうだ。ついでだから髪を切ろう」



 足元まで伸びてた髪を切ってさっぱり。

 ほら、髪が長いとフード被る時に邪魔になっちゃうしね。

 というわけで僕の髪は肩くらいの長さになってます。



「ディス様」



「何か用かな?」



「私も服が欲しいです」



 ロングコートを着たところでポチからのお願いごと。

 なんとポチは服が着たいらしい。

 今まで全裸でいたのになんで今更?



「ディス様とお揃いがいいです」



「そっか。君はそういう奴なんだな」



 ペアルックがいいとか可愛いところあるじゃないか。

 よしそこまで言うなら作ってあげよう。


 で、作ったんだけどポチのはなんか普通の子供用のやつだった。

 なんで僕のはセクシーなやつなの?

 やっぱり担当者出てこい。



「えへへ。これでお揃いですね」



 ……まあ、ポチの笑顔が眩しいからいいか。

 それじゃ再出発といきます。


 今度は森の外に出ても大丈夫だった。

 やっぱり太陽の光に当たらなければどうということはないっぽい。


 森の外は草原でした。

 人の手が入ってない自然って素晴らしいね。


 しばらく進むと大きな道を発見。

 この道を辿れば町へ着くだろう。


 このまま何事も無ければいいんだけど、それはほら……僕って主人公体質だから。

 イベントに自然と絡まれちゃうのよね。



「むむっ。僕の【気配感知】に反応有り――!?」



「どうかしましたか?」



「あ、あの特徴的なシルエットは……!?」



「急にどうしたんですか?」



「ポチ! あれ見て!」



「うん? あれは……ゴブリンですね」



 歩いていると僕とポチは緑の汚い小人の集団に遭遇した。


 僕は知っている。

 あれこそ雑魚オブ雑魚のゴブリンじゃないか。

 ラノベでちゃんと予習している僕に隙は無かった。


 ゴブリンの集団は僕達を見つけると一目散に走ってきた。

 どう考えても襲う気満々じゃないか。

 やっぱりゴブリンは女の子を襲うものなんだな。


 僕に迎撃の用意あり。

 覚悟はすでに完了している僕はゴブリンの集団を迎え撃った。


 で、戦ってみた感想なんですが……意外とゴブリン強い。


 いやね、こいつら連携とか予想以上にしっかりしてるの。

 それにゴブリンの数が多くてさ。

 正直、面倒臭くなっちゃった。

 レベルも全然上がらないしね。


 だから僕達は明日への逃走を始めた。


 まあ、逃げ始めてすぐに馬車の集団に遭遇したからゴブリンは押し付けたけどね。

 ゴブリン程度すぐに護衛の人達が片付けるでしょきっと。



「よし、それじゃ厄介事は押し付けたし、僕達は旅を続けよう」



 遠目に燃えてる馬車を見つつ、僕とポチは旅を再開。

 町へ到着したのは森を出て三日後だった。



「町が見えてきたぞ」



「あれが町なんですか? 壁しか見えませんけど」



「そこはほら、言葉の綾だから」



 到着した町は高い壁に囲まれていた。

 こういうのって城塞都市って言うんだっけ?


 こんな風に防備を固めてるってことは、この辺って戦場になる可能性濃いの?

 うーん……戦争に巻き込まれたら嫌だな。

 僕は平和主義者なんだよ……たぶん。



「ディス様。あそこで人間達が並んでますよ」



「おっそうだね」



 ちょっぴり不安だけど、とりあえず中に入ろう。

 ここが一応目的地だったし。


 そんなわけで僕とポチはお行儀よく列に並んだのだった。



「次の者、前へ」



 でっかい門の前には鎧を着た兵士が何人かいた。

 あれは安月給の門番じゃないか。

 薄給激務で可哀想。



「ん? こんなところに子供が二人?」



 兵士のおっさんが訝しげにこっちを見てくる。


 そりゃそうだ。

 子供二人だけで魔物が蔓延る草原からやってくるなんておかしいもんな。

 これは……失念ですね。



「ディス様……大丈夫でしょうか?」



 ちょっとポチ。

 今、怪しまれてるからそういうこと言わないで。

 ほら相手が警戒するじゃん。

 だから一旦静かにしててお願い。



「身分を証明する物はあるか?」



 兵士のおっさんが胡散臭さそうな感じで見てる。

 悔しい……でもこんなんじゃ感じないからな。



「いえ、ありません」



 ここは正直に答える。

 別に嘘を言う場面でもないし。



「では通行料を払ってもらおう。二人で銀貨一枚だ」



 まさかの金銭要求。

 これには流石の僕も……別に参らない。


 運命は僕に金を握らせた。

 そう、道端に落ちてた財布をちゃっかり手に入れてたのだ。



「はい、どうぞ」



 銀色に光るコインを渡す。

 これで僕とポチは怪しまれつつも門を通過。

 無事に町の中へ入った。



「さて、これからどうしよう考えるか」



 町に来るのが目的で、着いて何をするかは決めてない。

 買い物しようにも所持金が少ない。

 土地勘が無いから観光もできない。

 うーん、見切り発車だったかな。



「この町はなんて名前なんでしょうか?」



「僕は無知故、答えられぬ」



「それなら調べましょうよ」



「ポチ、それ名案」



 分からないなら調べよう。

 昔の人は良い事言った。


 というわけで僕達は町の図書館へ向かうことに。

 図書館なら大抵のことは分かるでしょ。


 道行く人に尋ねて図書館の場所はバッチリ把握してる。

 迷う心配はありません。



「何事もなく図書館に辿り着いてしまった」



「それはいいことなのでは?」



「その通りだよポチ」



 チンピラに絡まれたりすることもなく、僕達は図書館にやってきた。


 入館料に銀貨一枚必要だったのが地味にムカつきますよ。

 なんで本読むのに金がいるんだよ。

 公共施設は無料で開放しろ。



「じゃあ、僕は本を探すからポチは大人しくしててね」



「はい!」



「あ、図書館じゃ大きな声厳禁だから」



「はい」



 ポチはその辺で待機させて、僕は本を探すことに。


 必要なのは地理について書かれた本。

 ついでにこの世界の常識も知りたいけど、わざわざ常識を書いた本なんて無いよねきっと。



「……こいつは不味い」



 本を前にして僕は重大なことに気付く。

 字が読めないのだ。


 言葉は自動で翻訳してくれるのに文字は翻訳してくれない仕様らしい。

 ちょっと神様サービスが悪いよ。



「ポチに読んでもらう? いや、オオカミに人間の文字が読めるわけない」



 ここは勉強して覚えるしかないのか?

 いや、未知の言語の学習とか僕には一生かかっても無理。


 ならどうするか?

 そうだね【創造】の出番だね。



「創造――スキル――」



《解読を取得しました》



 ごっそり魔力を消費した。

 このスキルは【鑑定】に匹敵するくらいのスキルらしい。

 レアスキルなのかな?



「まあ、これで読めるようになった」



 僕は本の背表紙を見ながら目的の本を探す。

 この図書館は蔵書の数が多くて意外と苦労したのは内緒。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る