12/18 Mon
今朝も、夏海はなぜか南校舎の水やりをしていた。北校舎からするのをやめたのか。まぁ、いいか、本人のやり方があるわけだし。
おはよ、と声をかければ、勢いよく夏海が振り返った。水が飛び散り、気まずそうな小さな挨拶がこぼれる。
「なんかあった?」
不思議そうに問えば、夏海はごまかすように笑って水やりを再開する。
「なんでもないよ」
よくわからんけど、気を使わせとるみたい。無理強いはしたくないなと横に並んで、ホースヘッドを取る。
「つめた。えらいね、夏海は」
「え、いいのに。私、やるよ?」
「んー、職場体験?する」
なにそれ、と夏海が笑ってくれたから、今日もいい日だなと思う。どうすれば確実に喜ぶか把握している俺はこずるい手段も選ぶわけで。
「昨日の寝返り、すごかった」
つまり、夏海の弟を話のネタにする。
でしょ?と、瞳が輝いた。太陽も目じゃない。
「ふにゃふにゃで、泣いてばっかりだったのに、不思議だよね」
「見るたんびに大きくなっとる気がする」
「ねぇ、ミルクしか飲んでないのに!」
にこにこと話を続ける夏海は弟がかわいくて仕方がないみたいだ。
うらやましいと思ってしまったが、よくよく考えれば手を出せない関係だ。やっぱ、このままでいい。
考え込んでいると隣からぽつりと言葉が落ちた。
「音無くん、て、クリスマスどうするの?」
俯いた夏海の耳は真っ赤だ。もしかしてと驚いている内に、夏海が慌て始める。
「よ、用事があるならいいの。気にしないで、本当!」
顔が真っ赤だ。穂高の禁止令なんてあってもなくても、触って確かめたいぐらいに。
でも、夏海の方に近い手はホースを握っとったから我慢した。夏海をなだめるよう、できるだけ声が優しくなるよう意識する。
「なんもないよ。夏海と一緒に過ごせるなら過ごしたい」
咲くように花やいだ顔が近くなる。軽く肘に触れた熱を知りたいのに、布が邪魔をした。
「イルミネーションがきれいだったから、どうかなって」
うん、行こうと応えたら、夏海は両手で顔半分を隠して喜んだ。そのかわいさといったら、今まで目に焼き付けた全てを越えとった。
ホース持っとってよかったと思う日が来るなんて――なんか、さみしい。いや、むなしいのか、これは。
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