12/13 Wed
書道部に所属していると言うと意外そうな顔をされる。帰宅部っぽい、と言われることも多い。
俺が筆に触ったのは小学校よりも前だ。颯真の家に行ったら、寺が隣に建っとった。正確に言えば、寺の横に颯真の家が建っとるといった方が正確なんだろう。騒がしい颯真が、正座だけはずっと平気な顔でできるワケだ。
興味本意で寺の本堂を眺めていたら、むつかしいお坊様に手招きされた。今でこそ見慣れたが、あの時は恐ろしくて恐ろしくてたまらんかった――と、思う。あんま、記憶がないけど、たぶん恐かった。
何をさせるかと思ったら、書の手習いだ。
「
「なりませんでしたね」
住職である颯真のじいちゃんの小言にいつも通りに返した。ひと息つこうと筆を置く。
薄く罫線の引かれた和紙には整然と漢字が並んでいた。なかなかの出来だ。学校帰りの夕方となれば、時間が限られとるし、このまま集中力を保たなければ。
俺の決意をよそに、じいちゃんは念仏のようにくどくどと愚痴をこぼす。
「最近になってやる気になったと思えば、何をさせてもだめじゃ。読経もだめ、瞑想もだめ、写経もだめ、だめだめだめだめ」
「じいちゃん、俺はここにおるんじゃけど」
「聞こえるように言っとんじゃ。お前ができたら、わざわざ恵に頼む必要もないじゃろう。ほれ見てみぃ、お前のを。それは字なんか? ただ紙に墨を塗りたくってるだけじゃろう。雑念ばかりのぼんくらめ」
「情け容赦ねぇな」
横に座る颯真の書いた写経を見れば、ひじきがもつれているようだった。……何も言うまい。
やいやいやいやいと行き交う会話を頭から閉め出して、終わったら一万円、終わったら一万円と雑念だらけの頭で書を進めた。
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