12/12 Tue

 オレンジや黄色の花はスプレーマム、というらしい。スプレーは散りばめた、マムは菊のこと。確かに大ぶりな小菊と言われたら、わからなくもないが、どちらかと言えば蒲公英に近いような気がした。

 写真の時は葉や実に見えたものは、緑のカーネーションとピンポンマム。意外と菊づくしだったらしい。

 とにかく一生懸命になおかつ楽しそうにそれでいてちょっと照れ臭そうに説明する夏海がかわいかった。こんなに気遣ってもらっていいのだろうか。

 休憩時間に斜め前の席の夏海を眺めながら昨日のことを噛み締めていると、ちっとも歓迎しとらん客が来た。


「おい、メグ」


 さんざんメッセージを送ってきた颯真そうまだ。

 面倒くさそうなので、聞こえんふりをした。


「おーい、めぐむくーん」


 うるさい。一番端のクラスからわざわざ来ただけはある。


「めーぐーむーくーん」


 くどい。駄々をこねるように俺の椅子を乱暴に揺らす。


「音無くん。恵くんって、音無くんのことだよね」


 夏海がこっそりと声をかけてきた。初めて下の名前を呼ばれるのがこんな感じになるとは想像しとらんかった。

 嬉しい気持ちはあるが、手放しで喜ぶ感じにもならん。この、貧乏くじメーカーめ。

 彼女が見ている手前、ほどほどにしといてやるかと固く結んだ口を開く。


「仕方ない。聞くだけ聞いてやる」

「なん、いつからそんなに風になったん」

「今さら」

「まぁ、ええわ。今日、部活?」

「だったら何」

「はい、労働力ゲットー!」


 あいまいな返事で、部活はないと判断されたらしい。

 やだ、と言いかけた口を閉じて、金はあることに越したことはないと思い直した。無茶ぶり労働とはいえ、タダ働きではない。オーナーはコイツのじいちゃんだけど。

 夏海に聞こえんよう、声をひそめて悪態をつく。


「……どら息子」

「戦力外通告されてんだよ」

「家、継げんの」

「継ぐ気はある」


 斜め前の席の夏海が心配そうに見てきたので、お前の代までか、とは言ってはやらんかった。



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