12/10 Sun

 今日の俺は冴えとる。

 トーストを噛りながら、テレビで映し出された商店街で閃いた。

 別に休日だって、学校じゃなくたって、夏海に会えるじゃないか。実家の花屋を手伝っとるけぇ!


「お兄ちゃん、ジャムつけないの?」


 通りで味もそっけもなかったわけだと思いつつ、いい、と流した。ジャムをぬる時間も惜しい。時計を見れば、九時すぎ、支度を済ませて行って十時半といったところか。忙しそうなら、店の端っこで花を眺めよう。夏海の声を聞くだけで元気をもらえるはずだ。



 サヤに変なの、と見送られつつ、なつみ生花店に着いた。ガラス張りの扉から中を覗いても夏海はおらん。配達か、作業中か、できたら作業中だといいと願いつつ店内に入る。

 すずやかなベルの音に花の束の奥から女性が顔を出した。いらっしゃいませ、と夏海と似た目元を細める。

 きっと、夏海の母親だ。産後二ヶ月入院して、自宅で療養しとると聞いたことがある。最近になって、店に出るようになったんだろう。初対面で気が引けて、会釈して商品を選ぶフリをした。

 前に来たときには流れていなかった、オルゴールのBGM。千円、二千円程度の花束の見本、それから色を揃えた五百円のミニブーケ。母親が戻ってきたことで、店が元の姿に戻ったみたいだ。夏海も頑張っとったけど、その道の人はすごい、と実感する。

 店の奥から、赤ん坊の泣き声が聞こえた。生まれたばかりの弟だろう。大音量の泣き声と慌てた足音に心配になる。

 母親を見やると困ったような笑顔を浮かべ、一言わびて店の奥の扉を開ける。


「ひなたぁ。だいじょーぶー?」

「うーん!」


 夏海の声だ! 少し余裕はなさそうだが、任せられそうな声色だ。

 店のことは考えたが、弟のことは抜けとった。ひと目でも会いたいけど、邪魔にならんうちに帰ろう……。

 やれやれと戻ってきた母親に五百円のブーケの会計を頼む。


「ごめんなさいね、騒がしくって」

「いえ」


 ふふ、と聞こえた声に顔を上げる。見覚えのある、今とても見たいものによく似た顔がそこにあった。


「これ、娘が作ったんですよ。お客さん、お目が高いですね」

「ぇ……あ、はい、ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 優しい笑顔に見送られ、ポインセチアと白い猫じゃらしみたいな花束を抱えて帰ることにした。名前がわからないのは、また明日、聞いてみようと思う。



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