第12話 エイリーンからの依頼

 いつも麻衣と作戦会議に使っているベンチ。そこにエイリーン、麻衣、ルークス、俺の順で座っていた。


「人間嫌いの克服かぁ」

「はい。どうやら、あなた方は雑に扱ってもよさそうなので」


 麻衣を通してエイリーンから頼まれたのは、人間嫌いの克服。人間が嫌いな理由は教えてくれないけど、エイリーンも人間嫌いのまま一生を終えるつもりはないらしい。


 協力を頼まれたのは、俺と麻衣とルークス。嫌いは嫌いでも激しく嫌いってわけじゃない麻衣とルークスで慣れながら、激しく嫌いな俺を最後の関門として設定したい、というのがエイリーンの要望。いつもなら失礼だと憤慨して超パワーに目覚めるところだったけど、仲良しゲージを80にしたい俺にとっては渡りに船。


「麻衣とルークスとは普通に話せるから、嫌悪感を隠せねぇわけじゃねぇんだろ?」

「黙れ」


 どうやら隠せないらしい。


「兄貴と普通に話せるようになったらゴール?」

「そうですね。あとは麻衣さんと一緒に寝る、ルークスさんと一緒にご飯を食べる、これらができればある程度は克服できていると思います」


 俺と話すことと麻衣と一緒に寝ることが同じくらいきついってことか? どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。俺何か悪いことしたか? 心当たりしかねぇぞ。


「なーなー。なんでそんな甲斐のこと嫌ってんだ?」

「エルフは、醜悪な気配を感じ取ることができます」

「へー。醜悪なのか? 甲斐」

「本人に聞くことじゃねぇだろ」


 エイリーンからみたら俺は醜悪なのか。エイリーンに悪いことした心当たりはあっても、俺が醜悪である心当たりはない。考えられるとすれば、最近神様と馴染んでるっていうことくらいだ。


 それじゃね?


 いやでもそれだったとしたらほぼ詰んでるのか? 人間嫌い+醜悪って仲良くできる未来見えねぇんだけど。俺が神様と馴染むのをやめたらいいだけの話かもしんねぇけど、気づいたら馴染んでたから意識的に馴染まないようにするのは難しい。


 それに、あんなんでもあそこにいるのはどこかの世界の神様だ。反抗的な態度をとって殺されるとかも全然あり得る話で、それなら気に入られた方がいい。


「ちなみに、人間の中でもマシって思うのは?」

「同性で醜悪ではない方。麻衣さんがそうですね。あとはルークスさんのように清廉潔白な方でしょうか」

「俺も勇者になればいいのか?」

「お、いいじゃん! 甲斐も向いてると思うぜ! 勇者」

「すぐに裏切って、かつての仲間を皆殺しにした上で、骨を器にしたフルコースを作りそうですね」

「俺にフルコースを作る腕はねぇよ」

「兄貴、そっちじゃない」


 麻衣に指摘されてはっと気づく。もしかして、こんな反応するから醜悪なんじゃないか? 今のはエイリーンの冗談だと思ってたけど、エイリーンは俺のこと醜悪って言ってたし、本気で俺のことを『かつての仲間を皆殺しにした上で、骨を器にしたフルコースを作りそうなやつ』だと思っているかもしれない。それに対してさっきの俺の反応は、仲良しゲージ的にマズいんじゃないか?


 つまり、エイリーンに何を言われようと醜悪じゃない反応をすればいい。見つけたぜ、攻略の糸口!


「それじゃあ、人間嫌い克服第一弾はどうします?」

「そうですね……目を見て話すことからお願いします」

「そういやエイリーンって俺たちと目ぇ合ったことねぇじゃん!」

「すみません。人間の男は、エルフと目を合わせると発情し、理性を失うと思っていますので」

「確かにエイリーンめちゃくちゃ綺麗だもんな」


 仲良しゲージが-525になった。なぜだ……?


「ダメじゃん兄貴。エイリーンさんを褒めたりしちゃ」

「褒めたことを咎められたの初めてなんだけど」

「言いにくいですが、気持ち悪いです」

「随分言いやすそうに聞こえたけど気のせいか?」


 そうか、エイリーンは俺のことが死ぬほど嫌いだから、褒められたらむしろ気分が悪くなる。だとしたらどう言えばよかったんだ? 「エイリーンって自意識過剰なんだな。クソウケるぜ」って言えばよかったのか? そんなこと言ったら余計仲良しゲージがマイナスされる気がするんだけど。


「それじゃあ時々一緒に帰りませんか? 少しずつ慣れていきましょ」

「えぇ、よろしくお願いします」

「俺らは一緒に帰んない方がいいよな?」

「いえ、一緒に帰りましょう。あなたたちの人となりを知ることが、人間嫌い克服の一歩となるかと思いますので。そっちのカスは一人で帰れ」

「もしかして俺のこと?」


 聞けば、力強く頷かれた。


 流石に、それは嫌だ。なぜかって、麻衣とエイリーンとルークスだけが仲良くなって、「別にあいつよくね?」ってなったら仲良しゲージを80にできない。かといって、エイリーンが嫌がっているのに無理やり一緒に帰ったら、仲良しゲージはマイナスされてしまう。


「まーまー。一緒の空間にいるってだけでも克服になるんじゃね? 甲斐からエイリーンに話しかけないってのはどうだ?」

「……それなら、まぁ」


 めちゃくちゃ眉間に皺を寄せながら、心底嫌そうに承諾したエイリーンに内心でガッツポーズ。


 今に見てろ、すぐに仲良しゲージ80にして、仲良しになってやるぜ!

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なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー とりがら @torigara016

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