第11話 仲良しイベント
仲良しゲージは-500まで回復を見せ、エイリーンの攻略は順調。マイナスな時点で重要じゃねぇだろなんていう正論を聞く気なんてあるはずもなく、俺はいつもの場所で麻衣と顔を突き合わせて作戦会議を開いていた。
「仲良しゲージは?」
「-500」
「私は20」
「俺が敢えて変な行動をとることによって麻衣に対して同情させる作戦はうまくいったみたいだな」
「別にいつも通りだったと思うけど……」
俺と同じく……っていうにはマイナスの中でも差があったけど、俺と同じくマイナスになっていた麻衣の仲良しゲージは20まで回復していた。麻衣もちょっとブラコンだから、エイリーンが俺を悪く言うと突っかかるけど、それ以外は気になるところがないどころか、「エイリーンさんかわいいよ!」と家で俺に言ってくるくらいだから、結構いい関係を築けているんだろう。
「この分だとエイリーンの人間嫌いの理由は聞かなくてもよさそうだな」
「私はよさそうだけど、兄貴はだめじゃない?」
「大丈夫だろ。だってよく考えてみろよ。俺-777から-500だぜ? +277じゃん」
「絶対食べたくない嫌いな食べ物を、調理方法によっては食べられるようになったけどどっちにしろ嫌いで食べたくない、みたいな状態じゃない?」
流石俺の妹、わかりやすい。じゃあダメだな俺。やっぱりエイリーンがなんで人間嫌いなのかを探る必要があるか……。
それに関しては、あんまり心配していない。このままうまくいけば、麻衣はエイリーンと仲良しになれるし、そうすれば麻衣がエイリーンから聞き出してくれるって信じてる。
つまり俺は、麻衣のおこぼれを預かろうってわけだ。
「つーわけで、頑張れよ。俺はこれ以上変なことして仲良しゲージ下げないようにしねぇといけないから」
「自覚してるのはいいしそうしてほしいけど、はっきり自分は頑張らないって言われるとムカつく」
不服そうな麻衣からパンチをもらったところで、作戦会議は終了した。こんな風につんけんした態度とっていても、結局やってくれるんだってわかってる。流石俺の妹だぜ。これで俺は楽して仲良しゲージが稼げるってわけだ。ハッハッハッハッハ!!!
想像はできてたけど、やっぱり兄貴は役立たずだった。
兄貴はかなりポジティブでノリで生きている。それは悪いことじゃないし、むしろいいことだと思う。だからこそ、兄貴自身を嫌ってる相手とは頗る相性が悪い。ちゃんと嫌いって態度に出してるのに、ポジティブに変換されるのはかなりのストレスだ。それでいてちょっとクズだから、ちゃんと嫌われる要素があるのもタチが悪い。ルークスさんみたいに嫌われる要素がないなら兄貴の味方になってくれる人は大勢いるだろうけど、嫌われる要素があったら「まぁ、嫌われるのも仕方ない」って思われちゃうから。
「エイリーンさん!」
「麻衣さん」
放課後。「エイリーンと仲良くして俺を楽にさせてくれ」と言って兄貴はルークスさんと只野さんと肩を組んで先に帰った。一人残された私はエイリーンさんを探して、学校を出てしばらく歩いたところに一人でいたエイリーンさんをやっと見つけて小走りで駆け寄ると、エイリーンさんはよく見たらわかる程度に微笑んで迎えてくれた。かわいい。
「一緒に帰ってもいいですか?」
「私を探しにきてくれたあなたに、いいえとは言えません」
仲良くしようとした兄貴に罵詈雑言浴びせてたけど……。でも多分あれは兄貴も悪いから強くは言えない。
それに、兄貴がエイリーンさんにかなり嫌われてるから、私がエイリーンさんに同情してもらって話せているっていうのは否定できない。アレでも役に立ってはいるんだ。
「お兄ちゃ……失礼。アレはいないんですか?」
「ルークスさんと只野さんとどっか行きました」
エイリーンさんは、私のことをブラコンだと思っている節がある。あと一学年しか離れていないのに、必要以上に年下扱いしてくる。だからさっき『お兄ちゃん』って言いかけたんだろうし。家族のこと悪く言われたから反論しただけなのに、なんでそうなるんだろう。
「いつも一緒にいる印象があったので、少し意外です」
「そんなことないですよー?」
「そうですか? 私とどうやって仲良くなろうかと、毎日お話しているじゃないですか」
ギクゥ!! としすぎて「ギクゥ!!」って言いかけた。え、バレてたの? 最悪じゃん。でも仲良しゲージは特に下がっていない。エイリーンさんムズイ。何が原因で仲良しゲージが上下すんの? 普通自分とどうやって仲良くしようかって会議されてるって気分悪くない?
……もしかして、自分と仲良くしてくれようとしてるのが嬉しいとか? それだったら可愛すぎて、男になる魔法を探し出して自分に使って、エイリーンさんに求婚する自信がある。
「えと……すみません。失礼ですよね……」
「いえ。あなたたちは……というよりアレは非常に不快な存在ですが、根っこから完全な悪だとは思っていません。むしろ、善性が強いと思っています。大方、私の人間嫌いを克服してくださろうとしているんでしょう?」
それがわかってるのにあんな暴言吐くんだ……。理性と感情は別物だってわかってるけど、それにしてもアレはないと思う。アレっていうのは兄貴のことじゃなくて、兄貴に対する暴言のこと。
「はい。でも、余計なお世話だって思いません?」
「思います」
「う……」
「が、このままでは問題だと私も理解しています。ですから、その、お願いがあるんです」
……!! これは、仲良しイベント発生の予感!?
「私の人間嫌いの克服に、付き合っていただけませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます