第387話 敵の居場所

 闇魔法使いが増えているという事件で、俺はようやく黒幕を探る手段を手に入れた。とりあえず、まずは試してみないとな。


 敵の魔力を奪い尽くして、それから相手が魔力を求める流れ。邪神やそれに連なる何者かから、魔力が送られるはずだ。それを逆探知して、敵の居所を探る。うまくいけば、一発で黒幕の正体を特定できる。


 ということで、近衛騎士が受ける任務に俺も参加させてもらうことになった。獲物を奪うことにはなるが、仕方ないだろう。


 他の人にも同じ技が使えたのなら、対処は楽になるのだろうが。闇魔法の特性を活かした技だから、ミュスカくらいしか代わりがいないんだよな。そしてミュスカは、近衛騎士ではない。


 必然的に、俺が動くことになってくる。いずれは、通常の手段で対策できるようになってほしいものだ。その辺は、フィリスが新しい魔法を生み出すことに期待しよう。あるいは、ミーアやリーナあたりが戦術でどうにかするか。


 いずれにせよ、俺にできることはない。今の段階では、黒幕の正体に近づくのが限界だ。なら、できる相手に任せるのが当然だろう。俺は俺にできることをやるだけだ。


 近衛騎士たちとともに、俺は現場へと向かっていく。さあ、うまくやりたいものだ。


「さて、行くか。俺は居ないことになるんだよな?」

「そうなりますね。わたくしめ達の手で、手柄を立てたことになります」


 近衛騎士達が受けた任務なのだから、横からかっさらうのは問題だという話だ。まあ、納得しているから構わないのだが。ハンナにカミラ、エリナだからな。他の相手なら、もう少しためらっていたかもしれないが。


 俺としては、そこまで手柄にこだわろうとも思わない。親しい相手が無事に生きられるのなら、それで十分だからな。


「まったく。バカ弟に手柄を譲られるなんて、冗談じゃないわ」

「私達に箔が付けば、結果的にレックスの力になれる。そう悲観したものではない」


 カミラは相変わらずツンケンしているが、愛情表現の形なのだと信じられる。なんだかんだで、俺の手柄を奪うことが嫌なのだろう。大切にされている証だよな。


 エリナはエリナで、俺のことを考えてくれている。やはり、俺は仲間に恵まれている。そう思える。


「別に、バカ弟のためなんかじゃないわよ。うざったいってだけ」

「姉さんの思惑がどうであれ、俺は感謝するつもりだけどな」

「好きにすればいいわ。あたしの考えが変わるわけじゃないんだから」


 そっぽを向きながら言っている。本気で嫌なら、口より先に手が出るタイプだろう。そうでなくても、邪魔な相手には声をかけようとすらしないのがカミラだ。だから、多少口が悪い程度なら受け入れられる。


 なんだかんだで、俺の贈った剣を今でも使ってくれているんだからな。チョーカーも大事にしてくれているし、愛情を疑う理由はない。


「素直ではないものだな。私は、レックスのことを大切にしているぞ。なあ?」

「ふふっ、わたくしめも、大切にしておりますよ。レックス殿は、得難い友人なのですから」


 ふたりとも、優しい目で俺を見てくれている。カミラのような態度も悪くないが、目に見えて大切にされるのも嬉しい。いろいろな親愛表現を味わえるのは、贅沢かもな。


 俺だってみんなを大切に思っている。それも、しっかりと伝えていきたいところだな。言わなければ、伝わらないのだろうから。


「甘ちゃんばっかりよね。ま、いいわ。あんたが失敗しても、あたしが敵を殺すだけよ」

「じゃあ、行ってくるよ。当たり前の勝ちを、当たり前に拾ってくるさ」


 そうして、俺は敵のところに向かう。見えてきた段階で、さっそく魔法を放つ。相手の魔力を奪って自分のものにする、ミュスカの技だ。


魔力奪取ブラックシーフ。さて、お前の魔力はもうないぞ」

「そんな訳がないだろう! これでもくらえ! ……なぜ魔法が出ない!?」


 敵はこちらに向けて手を突き出してくる。だが、何も反応がない。まあ、当たり前だ。魔力を持たない相手が、どうやって魔法を撃つというのか。


 相手は困惑しているようだが、しっかりと力を求めてもらわないとな。だから、今は追撃しない。ただ、口では攻撃するべきだよな。


「自分の魔力も感じ取れないあたり、未熟極まりないな」

「ふざけるな! 力を! もっと力を! おおおっ!」


 目をギラギラさせながら、敵は叫ぶ。そこに、魔力が注がれていくのを感じた。俺は魔力の流れを読み取って、黒幕がどこに居るのかを探っていく。


 場所が分かった段階で、調査はやめて攻撃に移る。闇の魔力でこちらに攻撃されるのは、目に見えているからな。仲間を守るためにも、ここで芽を摘んでおくべきだろう。


「なるほどな。さて、お前は用済みだ。悪いが、消えてもらおう。闇の刃フェイタルブレイド!」

「俺の、ちから……」


 敵は魔力の刃に切り裂かれて、そのまま倒れていく。息が止まったのを確認して、俺は戻っていく。すると、近衛騎士達が迎え入れてくれた。


「終わったわね。さて、誰が黒幕か、分かったのかしら?」

「どうも、王城の地下から反応が出ている。つまり……」


 王城の地下に、黒幕がいる。誰が敵かは、想像がつく気がするな。本来、王城の地下は立入禁止だったはずだ。原作では、邪神の眷属が封印されていた。それで、主人公が倒すんだよな。


 まあ、まだ確信するには早い。他の可能性も、想定しておくべきだろう。地下に侵入した何者かの可能性もある。とにかく、できるだけ早く調査したいところだ。


「王城に敵がいるということですな。ミーア様やリーナ様は大丈夫でしょうか」


 少しだけ不安そうに、ハンナは目をさまよわせている。何かあったら、俺の贈ったアクセサリーを通して反応があるだろう。だから、今は問題ない。


 ただ、敵がどう動くか次第では、これから先に危険になる可能性は否定できない。やはり、一刻も早く解決したいな。


「今のところ、特に動きは感じられないな。少なくとも、今すぐに暴れる気はないらしい」

「とはいえ、即座に対策しなくてはな。レックス、もちろん報告するんだろう?」

「ああ。どう動くにしても、無断では無理だろうからな」

「まったく、大した怠慢ね。王族って言っても、まるで役割を果たせていないじゃないの」


 カミラは冷たい目で言っている。まあ、分かる意見ではある。王城に問題があって、王族が対処できていない。レプラコーン王国の王族は、特別な力を持っている。そこから考えると、まあ役目を果たせているとは言いづらい。


 ただ、邪神の眷属はただの人間に勝てる存在じゃないからな。封印されているだけでも、十分といえば十分ではある。まあ、近いうちに目覚めるだろうから、対処は必須ではあるのだが。


「カミラ殿……。表立って言うのは、避けてくださいね……」

「否定しないあたり、ハンナも言い分に筋があると思っているのか。私も同感ではあるが」

「ミーアやリーナが現状を変えてくれると期待したいところだな。そのためにも、まずは相談だ」

「はい。わたくしめも、両殿下に危険があるのであれば、見過ごせませんから」


 ハンナは強い目をしている。やはり、完全に立ち直ったのが見て取れる。今のハンナなら、しっかりと仕事をこなしてくれるだろう。


「俺も、ミーアやリーナに傷ついてほしくはないな。まったく、大ごとになったものだ」

「ま、いいわ。あたしは敵を切り捨てるだけ。あんたも、妙に考え込まないことね。向いてないんだから」

「分かっているさ。だから、独断では行動しない。ミーアやリーナに、しっかりと相談する。いいよな?」


 そう言うと、みんなは頷いた。さて、どう動けば良いのだろうな。そのあたりも含めて、しっかりと意見を聞いておきたいところだ。

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