第388話 次への策

 闇魔法使いに関する問題について、大きく進展があった。黒幕の居所が分かったというだけでも、大事な情報だからな。


 とはいえ、まだ核心にまではたどり着いていない。ここから、解決に向かっていくべきなんだ。ということで、まずは王女姉妹に報告に向かう。近衛騎士と一緒に、ミーアの私室で話をしていく。


 俺が近衛騎士の任務に参加しているということは隠すらしいから、表向きには話はできない。そうなれば、転移を最大限に活用するのが道理というものだよな。


 通信を送ってから転移した先では、ミーアとリーナが待っていた。温かい笑顔で出迎えられて、帰ってきたんだという感じがする。


「ミーア、リーナ、報告がある。どうにも、王城の地下に黒幕が居るらしいんだ」

「分かったわ! 調べてくれて、ありがとう! 流石はレックス君ね!」


 明るい笑顔で、ミーアは俺の手を取った。こういうところも、太陽みたいに感じるゆえんだ。やはり、元気をもらえる人だよな。


 まっすぐに褒めてくれるから、とても嬉しくなる。だから、きっと人気者の王になれるだろうな。そんな気がしている。


 転じて、リーナは難しそうな顔をしていた。


「ただ、厄介ですね。王城の地下は、王族ですら入れない禁足地なんです」

「確か、邪神の眷属が封印されているんだったよな」


 原作では、実際に邪神の眷属が目覚めるという展開があった。ただ、闇魔法使いが増えるなんて展開は知らない。まあ、俺という存在もあることだし、何かしらの変化があってもおかしくはないのだが。とはいえ、大きい変化でもある。少し、気になるところだ。


 ミーアは大きく目を見開いて、口元に手を当てていた。リーナは面倒くさそうな顔をしている。


「知らなかったわ! どうして、レックス君は知っていたの? なんて、小さな問題よね」

「大問題ですよ……。ただ、いま追求するべきではないというのは、同感です」


 原作知識なんて言って、誰も納得しないだろうからな。それに、俺は前世については墓まで持っていくつもりだ。だから、説明できない。


 ただ、そうなると俺が疑わしいという話になる。ミーアとリーナは、信じようとしてくれているようだが。下手をしたら、俺が黒幕だと疑われてもおかしくないレベルの情報を持っている。そうでなくとも、スパイを潜り込ませているくらいは疑われるだろう。


 そう考えると、あまり人前で原作知識を披露しないようにしないとな。今回は、信頼できる相手だけだから良いが。


「わたくしめ達が入るのも、難しいでしょうか」

「禁足地に入るだけの理由が、作れないのよね。……いえ、厳密にはあるのだけれど」


 うつむきながら、ミーアは難しい顔をしている。察するに、あまりよろしくない案なのだろうな。とはいえ、気になるところだ。何が思いついたのだろうか。


「なによ? 思いついているのなら、聞かせてみなさい。良いか悪いかは、こっちで判断してあげるわ」

「そうだな。こちらでなら、もっと良い案が出せるかもしれない。私なんかは、視点が違うだろう」


 カミラは淡々と、エリナはまっすぐにミーアを見ながら話している。俺としても、ふたりと同じ意見だ。どんな案かも分からないと、何も言えない。ミーアが口にすることをためらうあたり、かなり恐ろしくはあるが。


 なんというか、残酷な案なのかもしれないという懸念がある。とはいえ、聞かないことには始まらないだろう。どうにかして、地下に入る必要はあるのだから。


 ミーアはしばらく目をさまよわせて、それからこちらを向いた。そして、ゆっくりと話し出す。


「言いにくいのだけれど……。レックス君を罪人として扱って、罰として送り込む。そんな手段よ」

「はあ? あんた、本物のバカじゃないの? いくらバカ弟だからって、冤罪をかけられて良いはずないでしょうが」


 とても冷たい声で、カミラはミーアに反論していた。こういうところで、愛情を感じるんだよな。どれほど俺に厳しい言葉を投げかけてきても、根本的には愛してくれていると分かる。だから、カミラを信じられるんだ。


 ただ、まあ意図は分からなくもない。入ったらダメな場所というのを、危険な場所との解釈にするのだろう。言うなれば、生贄みたいなものだな。多くの人々は邪神の眷属など知らないだろうが、邪神の眷属を鎮めるための儀式みたいな話にすることになるはずだ。


 ミーアやリーナが直接侵入すれば、評判に傷がつくだろう。俺の仲間たちにしても、同じだ。だから、それくらいなら俺が泥をかぶるというのは、納得できなくもない。


「ですが、代案がなければ待つしかできないのも事実です。いっそ、本格的に封印が解除されるまで待ちますか?」

「ちっ、あんた達……。ねえ、バカ弟。まさか受けたりしないわよね?」


 カミラは冷たい目をこちらにも向けてきた。ただ、心配してくれているのは伝わる。それでも、代案がないのならやるしかないだろう。実際、俺には他の案は思いつかない。


 とはいえ、ブラック家にも関わる問題だ。俺ひとりで頷くこともできないよな。ブラック家の人間にも、許可を得る必要がある。


「とにかく、俺ひとりでは判断できない。ミルラやジャンと相談して構わないか?」

「もちろんよ! 大変なことを言っているのは、こっちだって分かっているもの」

「別の手段が思いついていれば、即座に否定する程度の案ですからね……」

「ミルラ、ジャン。いま良いか? 相談があってな……。ああ、分かった」


 ふたりに通話すると、話が帰ってきた。細かい条件のもと、認められた。要約すると、ブラック家の手駒を王家に潜り込ませること、ブラック家に対して反発しそうな貴族の情報を王家が流すこと、そして最後に、いずれ俺の名誉を取り戻せとのことだった。


 まあ、妥当なところのように思える。実際、今の条件が飲まれるのなら、メリットは大きいだろう。さて、ミーアとリーナ、いや王家はどういう反応を返すかな。


「それで? ふたりは何を言ってたのよ?」

「いくつかの条件のもとであるならば、受けて良いんだとか。細かい話は、ミーアが直接話してくれ」

「ありがとう、レックス君。もちろん、あなたの名誉は必ず挽回するわ」


 まだ何も話していないのに、ミーアは強く宣言してくれた。やはり、ミーアだって俺を大切にしてくれているのだろう。苦渋の決断だということが、強く伝わってくる。


 なら、その気持ちに答えるのが、俺のやるべきことだよな。さっさと邪神の眷属を倒して、難しい話を終わらせてやろう。


「まったく。バカしかいないんじゃないの? ほんと、やってられないわ」

「わたくしめとしても、あまり受け入れたくはありませんが……」

「知らせる相手を限定するなりなんなり、被害の抑えようはあるだろう。両殿下には、力を尽くしてもらわなければな」


 みんな、それぞれに俺を心配してくれている。だからこそ、周囲の評判なんて気にしなくて良いと思える。俺には、ずっと信じてくれる仲間がいるのだから。まあ、ブラック家に悪影響が出るのなら困るが。ただ、ジャンとミルラが納得するのなら、妥協できる範囲のはずだ。


 俺のやるべきことは、素早く邪神の眷属に対処することだけだ。他のことを考えていても、気がそれるだけだよな。


「もちろんよ。レックス君が嫌われたままなんて、私だって嫌だもの」

「他の案が思いつかないのが、口惜しいところですね……」

「まあ、大丈夫だ。俺に任せてくれ。必ず、邪神の眷属を倒してみせるさ。それで、問題は解決するだろ?」


 そう言うと、ミーアは明るい顔で頷いてくれた。さて、なんとしても、黒幕を倒してやらないとな。

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