第384話 立ち直った先の

 ハンナは俺との戦いで、自分らしさを取り戻せたように見える。やはり、嬉しいものだ。それに何より、安心できる。


 近衛騎士として任務をこなす中で、精彩を欠いた動きを続ける。そんなの、事故一直線としか思えないからな。間違いなく、ハンナの命は危なかった。それが遠ざかっただけでも、大きな意味があるよな。


 もちろん、戦いなのだから危険はどこにでもあるにしろ。ハンナが集中できているかどうかで、結果は変わってくるはずだ。だからこそ、ハンナが前向きになったことは良い結果だと言える。


 俺自身が新しい技を身に着けたこともあるし、かなりの成果を出せたんじゃないだろうか。


 ということで、俺達は次に向けて動くことになる。近衛騎士としての任務も、当面は手伝うことになるだろうな。まあ、しばらくは付き合うつもりだ。闇魔法使いが現れるという事件には、大きな裏があるのだろうから。


 邪神がどの程度関わっているかで、重大度合いは変わってくる。とはいえ、闇魔法使いが量産される時点で、多くの人にとっては危機だと言えるはずだ。そもそも、ただの魔法使いでは闇魔法使いに勝てないのだから。それは、全滅した近衛騎士が証明している。


 やはり、気合いが入るというものだ。必ず解決するべき問題だというのは、考えなくても分かるからな。


「さて、ハンナ。次の任務はどんなものなんだ?」

「相変わらず、闇魔法使いとの戦いですな。今回も、わたくしめに任せていただければと。今度こそ、無様はさらしません」


 そう言いながら、ハンナは拳を握っている。前回と違って、力の入り方が自然だ。変なところに力を込めている様子がない。これなら、まあ大丈夫だろう。


 本当に、ハンナは立ち直った。それが明確に見えてくる。この調子で、今後も順調に進めていきたい。


「ま、良いんじゃない? バカ弟といい勝負ができるのなら、そこらの雑魚には負けないでしょ」

「実戦で運用できる技かどうかも、しっかり試しておきたいところだな。私から見て、偶然の成功ではあった」


 カミラもエリナも、ハンナのことを認めている様子だ。前回は、明らかに不審そうな様子だったからな。普通の顔をしているだけで、評価が分かる。まあ、カミラは相変わらずツンケンしているのだが。


 とはいえ、悪くない関係を築けているようだ。そこも、安心できるところではある。カミラの態度を見ても、エリナもハンナも嫌な顔をしない。なんだかんだで、お互いに認め合っているのだろうな。実際、実力という面では最高峰の三人ではある。


「傭兵の実戦勘というものは、あなどれませんな。わたくしめも、実験したかったのです」


 ハンナは落ち着いた様子で語っている。ということは、前に編み出した技は、まだ完全ではないのだろうな。とりあえず、様子を見たいところだ。


「なら、一応俺も待機しておいた方が良いか。構わないか、ハンナ?」

「もちろんですとも。いざという時には、助けていただきますね」


 穏やかな顔で、そう言う。間違いなく、ハンナは余裕を持てているな。前回は、カミラに精神の乱れを指摘されて、強く反発していた。今回は、見ての通りだ。


 やはり、落ち着いて任務に当たることができそうだ。今のハンナは、信じて良い。きっと、勝ってくれるだろう。


「ふーん。本当に、悪くないわね。身の程というものを、分かっているみたいじゃない」

「恥ずかしい話ではありますが、確かに以前のわたくしめは、わきまえておりませんでした」


 ハンナは頬を書きながら言っていた。本当に恥ずかしいのだろうな。まあ、誰がどう見ても失敗だったからな。反省も後悔もしているはずだ。


 だが、結果的には良かったんだと思う。まず間違いなく、ハンナの成長につながった。それを考えれば、必要な過程だったと言える。


「だが、今は生きて成長できている。だったら、問題ないだろう。私からすれば、生きていれば勝ち。そういうものだ」

「エリナの言う通りだな。さて、長話していないで、そろそろ行こうか」

「ええ。わたくしめの力を、見せて差し上げましょう」


 ということで、今回も現場に向かう。今度の敵は、町外れに住んでいる様子だ。まるで手入れされていない様子で、家主の性格が見えてきそうなところ。


 まあ、相手の性格なんてどうだって良い。俺達の敵になるのなら、打ち破るまで。そう考えられないのなら、やっていけない。少なくとも、今の世界では。


「さて、見えてきたな。どうだ、ハンナ?」

「問題ありません。仮に四重剣エレメンタルバーストが使えなかったところで、やりようはあります」


 実際、カミラやエリナが闇魔法使いを打ち破った時は、俺に対する切り札を隠していた。だから、やり方次第では十分に倒せる相手であるはずだ。


 まあ、どこまで闇魔法を使いこなせているか次第ではあるのだが。とはいえ、一朝一夕で極められるほど魔法は甘くない。空前絶後の才能だとフィリスに言われた俺ですら、何度も失敗を重ねているし、まだ成長の途中なのだから。


「あたしも見ていてあげるわよ。仮にも騎士団長になる人間が、どの程度かをね」

「立場を考えれば、ハンナ以外が騎士団長になるのは難しいだろうからな。私を含めて」

「ええ、よく見ていてください。わたくしめは、もう負けません」


 そう言って、ハンナは剣を片手に突き進んでいく。まっすぐに敵のもとへ向かっていき、俺達も着いていく。相手はこちらの存在に気づいたようで、扉を開けて出てきた。


「さて、行きますよ。四重剣エレメンタルバースト!」


 ハンナの剣に、一気に魔力が収束していく。そしてそのまま、ハンナは敵に剣を叩きつけていく。相手は防御魔法を繰り出したようだが、紙切れのように切り裂いていった。


「なっ……。俺は、闇魔法を……」


 それだけを言い残し、敵は事切れる。ただの一撃で終わってしまった。前回は、ハンナが何をしても通じていなかったのだが。やはり、成長を感じるところだ。


「あっけないものね。やっぱり、闇魔法を持っただけのザコじゃない」

「その闇魔法を持っただけのザコに、かつての近衛騎士は負けたんだ。私達ほど、周囲はうまく対応できないのが実情だろう」


 実際、俺達は相当な上澄みだからな。特に俺なんて、その気になれば万の軍でも滅ぼせそうなくらいなのだから。カミラだって、エリートが集まるアストラ学園で誰も寄せ付けなかった。エリナは伝説の傭兵だ。そしてハンナは、四属性使いの中でも圧倒的な実力を持っている。


 魔法使いの優秀さで国力が決まるような世界で、魔法使いの中でも特別な存在なんだ。だから、簡単に勝てるだけ。


 本当のところは、国難と言っていいレベルの問題なのだろうな。そう考えると、早急に解決しなければ。


 やはり、黒幕に少しでも近づきたいところだな。どうにかして、魔力を通して黒幕を探りたい。


「今回はハンナに花を持たせたが、次は譲ってほしいところだな。敵は、何者かに魔力を植え付けられている」

「誰が黒幕か、探らなければなりませんものな」

「とはいえ、どうやって逆探知するのかは、悩ましいところだ。すでに魔力を植え付けられた後だからな」


 すでに送られた後の魔力からは、流石に逆探知できない。だからこそ、ただ相手の魔力を探るだけでは限界があるんだよな。何か解決策がなければ、根本的な対策は難しい。


「ならば、またフィリスに相談すれば良い。おそらくは、何か良い案を出してくれるだろう」

「ここで考えていても仕方ないのは確かね。とりあえず、帰りましょうよ」

「そうでありますな。今後どうするにしろ、まずは報告ですから」


 そういうことで、俺達はミーアの私室に向かうことにした。それから先は、おそらくフィリスのもとに向かうだろう。さて、本当に解決するための策を、どうにか見つけ出さないとな。

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