第375話 手がかりを探して
闇魔法使いが増えたことに関しては、明らかに何らかの異常がある。だからこそ、原因を探りたいところだ。そのために相談できる相手は、まあフィリスだよな。
フィリスは間違いなく、俺の知る中で最も優れた魔法使いだ。だからこそ、俺には解決できない問題に対しても、有効な案を出してくれるかもしれない。
まあ、フィリスだって闇魔法については十分知っているとは言い難い部分もあるのだろうが。なにせ、フィリス自身が闇魔法を使えないのだから。それでも、圧倒的な知識量は俺では及ばないところだ。
今後どういう方針を取るにしても、まずフィリスの意見を聞く。それは間違いない判断だろう。フィリスでは分からないという事実が明らかになるだけでも、大きな意味がある。
ということで、アストラ学園に居るフィリスの元へと転移した。そこには、ひとりでたたずんでいるフィリスが居た。
こちらを向いたフィリスは、薄い笑みを浮かべる。いつも無表情に近いフィリスだが、こちらには笑顔を見せてくれることが多いな。親しくなれている証のようで、嬉しい限りだ。
「フィリス、ここに居たか。お前に聞きたいことがあってな」
「……歓迎。聞きたいことがあるのなら、何でも聞いて」
当たり前のように受け入れてくれるのは、本当にありがたいことだ。何度も何度も相談しているが、その度に新しい知見が手に入っていたからな。
やはり、フィリスが俺の一番尊敬する魔法使いだよな。きっと、これからも変わらないだろう。
「分かった。ありがとう、フィリス。早速なんだが、最近になって闇魔法使いが妙に増えていてな。原因を探りたいんだ」
「……邪神。それを疑っているということ。レックスの懸念は、正しいと思う」
まあ、そうなるよな。フィリスはあごに手を当てて考えているようだが、すぐに意見は出てこない。フィリスの中でも、確信に至るだけの答えがないのだろう。
とはいえ、フィリスも邪神の影響の可能性が大きいと判断している。なら、邪神への対抗が最有力の方針だろう。それが判断できただけでも、今回会いに来た価値はあると思う。
「やはり、確定的な証拠まではたどり着けないか。いくらフィリスでも、前例のないことではな」
「……同意。私の知識は、あくまで研究のたまもの。闇魔法については、まだ分からないことも多い」
フィリスはあくまで、火、水、風、雷、土の五属性が使えるだけだからな。まあ、エルフという種族の性質上、闇魔法や光魔法、無魔法が使えるようにはならない。だから、エルフでは間違いなく最強なのだが。
自分で使えない魔法を研究することがどれだけ難しいかは、魔法使いのひとりとして、よく分かっているつもりだ。だからこそ、フィリスが俺の魔法に何度もアドバイスできたという事実は大きい。
とはいえ、進展は少ないな。まあ、意見を交わすだけでも、色々と仮説が出てくるだろう。
「まあ、仕方ないよな。急に知識が湧き上がってくることなんてないんだから」
「……否定。おそらく、問題の闇魔法使いの知識は急に湧き上がってきたもの」
早速、有力な情報が出てきた。なるほどな。仮説のひとつとしては、かなり理にかなっていると思う。なにせ、闇魔法に関する体系的な知識は少ない。個人個人が、勝手に研鑽するだけ。そんな魔法だからな。
どこに生まれるかも分からない、とにかく珍しい魔法だからな。それをある程度使いこなせるのなら、相応の働きがあると見るべきだ。
やはり、フィリスに相談してよかった。俺とは違う見解の意見を聞けるだけで、とても考えが進む。
「確かに、なぜか俺の魔法を使っていたりしたな。フィリスも聞いていたのか?」
「……肯定。レックスの情報は、常に集めている。闇魔法については、重要な材料」
「熱心なことだ。だが、その姿勢こそが、フィリスを最強の魔法使い足らしめていたのだろうな」
「……疑問。今では、レックスが最強の魔法使い。私は、ただ敵に恵まれただけ」
むしろ逆なんだよな。俺がただ師匠に恵まれただけだと思う。フィリス以外の人間に魔法を教わったところで、今ほど強力な魔法は生み出せなかっただろう。
メインウェポンであるところの
「そんなことはないぞ。フィリスが居たから、俺は強くなったんだ。俺の強さも、フィリスの出した成果だよ」
「……満足。レックスの師になったことは、私の人生でも最高の変化。だから、力を貸す」
「邪神の件だよな。仮説段階なら、どんなものがある?」
「……推定。眷属の影響。邪神が直接関与。邪神の手のものが拡大している。魔力の分布の変化。そのあたり」
淡々と情報を説明してくる。おそらく、フィリスの挙げた中のどれかが正解だろうな。邪神の眷属は、封印が解放されるかなにかして。直接関与に関しては、言うまでもない。手のものというのは、邪神に乗っ取られた存在だろう。魔力の分布が変わったとすると、邪神本体の動きもある可能性が高い。
総合的には、ほぼ間違いなく邪神の動きが影響している。やはり、大問題に繋がっているようだ。
「まあ、邪神が関わっている可能性は、相当高いよな。俺にも、影響があるのだろうか」
「……複雑。レックスの闇魔法そのものが、邪神と関係がある。直接手出しされる可能性は、否定できない」
邪神によって誘惑された存在は、力を与えられる代わりに、いずれ邪神に存在を乗っ取られる。そうなってしまえば、もはや手遅れだろう。俺に邪神の手が伸びないというのは、楽観的観測がすぎるだろうな。
やはり、早急になにか手を打ちたいところだ。まあ、方針としては単純だな。魔法使いと邪神との繋がりを探る。闇魔法を使えば実行できそうではある。
ただ、邪神が闇魔法の根源であることを考えれば、カウンターも怖いんだよな。とはいえ、何も手を打たなければ敗北は必至だろう。あるいは、ミーアの光魔法にかけてみるか。ジュリアの無属性魔法は、ただ敵を打ち破るだけなら有効ではあるのだが。
「今のところは、力の誘惑というやつを感じたことはない。少なくとも、直接手は伸びていないだろうな」
「……安心。レックスが邪神に奪われることだけは、絶対に避けたい。どんな手段を使っても」
じっと、強い感情のこもった目でこちらを見ている。よほど、大切にされているのだな。そう感じられる。やはり、フィリスが師匠で良かった。実力を抜きにしても、とても尊敬できる存在なのだから。
とはいえ、どんな手段を使ってもと言われると、心配になる部分もある。
「一応言っておくが、それでフィリスが犠牲になったら、何の意味もないんだからな」
「……理解。レックスとこの先一緒にいるためにも、自己犠牲は実行しない」
「なら、安心だな。これからも、フィリスには魔法を教わり続けたいんだから」
「……疑問。私との関係は、魔法だけ?」
小首を傾げながらそう聞かれて、もちろんすぐに首を振った。俺にとってフィリスが大切な存在だというのは、もはや揺らがない。どんな未来が待っていたとしても、尊敬し続けるだろう。
俺の人生を導いてくれる存在として、そして手を取り合う仲間として、何よりも共に生きていたい大切な人として。それを言葉にするのは、大事なことだよな。
「もちろん、違う。俺個人としても、フィリスと過ごす時間は楽しいと感じている。大切な存在だよ。師でなくなったとしてもな」
「……歓喜。私も、同じ気持ち。だから、邪神への対策には、私も全力を尽くす」
俺としては、やはり闇魔法使いに一度当たりたいところだな。そこから情報を集められれば、フィリスの考察も進むだろう。近衛騎士の任務には、できるだけ付き合っていきたい。
さて、絶対に勝たないとな。心配してくれるフィリスのためにも。そう誓いながら、フィリスと目を合わせた。
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