第373話 新しい近衛騎士

 カミラとエリナは、俺に手傷を追わせたということで近衛騎士に任命されることになった。ハンナも含めて、とても信じられる3人だ。だから、きっと王女姉妹の力になってくれるはずだ。


 とはいえ、まだ足りていない部分はあるのだろうが。実力面では何も心配していないが、手数が必要な状況に対応しきれない気もする。


 まあ、近衛騎士は一度全滅したのだから、立て直すのには時間が必要なはずだ。そのスキに王女姉妹に危険が及ばないように、注視が必要だろうな。


 俺としても、できる範囲で支えていきたいところだ。王女姉妹も新しい近衛騎士も、大切な仲間なのだから。


 新しい近衛騎士が任命されるということで、ミーアによって発表の場が用意されることになった。俺も含めた大勢が集められており、豪華な食事も用意されている。


 立食形式のパーティに近く、おそらくは近衛騎士と交流することを狙う人たちのための場でもあるのだろうな。さて、どうなることやら。


 部屋の最奥には、王女姉妹であるミーアとリーナ、そして国王がいる。飾り付けられた席に座っている。最近は、どうにもミーアに仕切らせていることが多いな。おそらくは、今後のために経験を積ませているのだろう。ミーアが次期王だというのは、もう決まったようなものなのだから。


 まずミーアとリーナが立ち上がり、そのままミーアが話し始める。二人の前には、近衛騎士に任命される三人がひざまずいている。


「さあ、新しい近衛騎士の誕生を祝って、ささやかですが宴といたしましょう」

「ハンナさん、カミラさん、エリナさん。不甲斐ない前近衛騎士に代わって、私達を支えてください」


 ミーアは明るい笑顔で、リーナは無表情で、近衛騎士達を見ていた。まさに対極的って感じだな。まあ、役割が分かれる方が、王女姉妹にとっても都合が良いだろう。


「もちろんです、両殿下。わたくしめは、全力を尽くします」

「ま、いいわ。あたしの力を、示すだけよ。バカ弟の友達も、守ってやりましょう」

「拝命した。私の全力をもって、貴殿達を支えよう」


 ハンナは真剣そうに、カミラはつまらなそうに、エリナは堂々と返事をしていた。特にカミラは王族に対する態度とは思えないが、ミーアもリーナも気にした様子はない。それどころか、国王も頷いている。


 そのままミーアは微笑んで、近衛騎士達の肩に順番に手を置いていった。


「ありがとうございます。頼りにしていますね」


 それからしばらく儀式は続き、その次には会食みたいな感じになった。それぞれが食事をつまみつつ、会話をしていく形だな。


 やはり、近衛騎士の周りに人が集まっていた。押すように、誰も彼もが近衛たちに話しかけていく。


「ハンナ殿の才能は素晴らしいです。以前から応援していた甲斐がありましたな」

「ありがとうございます。わたくしめは、両殿下の恩為に尽くすのみです」

「ところで、私の息子なのですが……」

「近衛騎士の任がある以上、家庭に入ることは難しいでしょうね」


 ハンナはにこやかな様子で、相手の言葉をかわしていく。手慣れた様子で、これまでも同じような経験をしていたのだとよく分かる。


「カミラさん、あなたがレックスに勝つと、信じていましたよ」

「あなたごときの目で、何が分かるのかしらね。知ったような口をきけば、あなたの愚かさを喧伝するだけよ」

「いえ、素晴らしい魔法でしたよ! 闇魔法使いですら破るなど!」

「あたしが言った意味、まるで分かっていないようね。ほんと、つまらないやつだわ」


 カミラはずっと冷たい目で、周囲の言葉をバッサリと切っていた。けんもほろろという様子で、誰もまともに会話できていない。


「エリナ殿、あなたのような存在が居るのなら、獣人の待遇にも変化が必要ではありませんか?」

「欲を隠し切る努力というものを、覚えた方が良いな」

「いったい、何の話でしょうか。あなたという素晴らしい存在に、投資したいだけなのですが」

「ならせめて、私に払える額を提示するのだな。できないのなら、その程度の意思だということだ」


 エリナは冷静な顔で、ただ淡々と対応していく。利用しようとする人も見えたが、簡単にあしらっていたな。まあ、獣人として見下されたりして苦労してきたのだろうから、当然の対応かもしれない。


「あの戦いを見てないやつらは呑気なものだよな。化け物の巣窟じゃないか」

「俺なんて、レックスの魔法に手も足も出なかったよ。まともに対応できるだけで、おかしいんだよ……」


 俺と近衛騎士が戦った場に居た人たちは、どうにも近衛騎士を恐れている様子だ。まあ、圧倒的な実力を示していたからな。仕方ない部分はある。


 ただ、先行きの悪さも感じるところではある。怯えられているのだから、妙な形で足を引っ張られかねない。いっそのこと、もっと大きな壁を感じさせるくらいでも良いかもしれない。


 まあ、俺が考えてもどうにもならないことではある。王家や近衛騎士達の対応によって、今後が変わるのだろうな。手出しできないことが多いと、苦しくなってくる。とはいえ、我慢すべきことでもある。難しい問題だ。


 しばらく会食は続き、やがて解散した。それからは、近衛騎士達と集まって、今回の宴について振り返っていた。


「お疲れ様、みんな。面倒そうだったな。手助けできなくて、悪かったよ」

「いえ、レックス殿が声をかけても、こじれただけでしょう。適切な判断でしたよ」

「そうね。八百長を疑われても、馬鹿らしいわ。見る目のないやつは、どこにでも居るもの」

「レックスの対抗馬として担がれるのも、面倒ではあるが。難しいところではあるな」


 先程までと同じような物言いだが、みんな声も表情も穏やかだ。リラックスしてくれているのを感じるな。やはり、心を許されているのだと思える。


 みんなが懸念することは分かっていたから、俺としても遠くで見守っているだけだった。これからは、俺の手の届かないところで動く状況も増えるのだろうな。贈ったアクセサリーがみんなを守ってくれることを祈るしかない。悲しいところだな。


 とはいえ、王女姉妹だって大事な友達だ。それをみんなに任せられるのは、かなり心強いところではある。正直に言って、前の近衛騎士は不甲斐なかったからな。俺の足元にも及ばない程度の実力しか無かった。


 それで王族を守っていたのだから、寒気がする話だよな。本当に、強大な敵が現れなくて良かったとしか言えない。


「面倒をかけて悪いが、できればミーアやリーナの力になってやってくれ」

「もちろんです。わたくしめは、両殿下を支えるために近衛騎士を目指したのですから」

「あんたは、自分の心配をするべきよね。どれだけ面倒事に巻き込まれているのか、数えたらどう?」

「私は、これからも研鑽し続けるだけだ。その結果として、王女たちを助ける機会もあるだろう」


 それぞれに、近衛騎士の任務に対して向き合っているのだろう。俺としても、手伝えることは手伝っていきたい。


 さて、これからの近衛騎士はどうなるだろうか。期待と不安とが、半々くらいあった。

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