第363話 ルース・ベストラ・ホワイトの渇望
ホワイト家の支配を固めるために、レックスさんに手伝ってもらうことにしたわ。もらったアクセサリーを通して、通話をすることで。
まずはレックスさんの周囲に話を通して、条件を固めておいたわ。それから、本人に伝えた。つまり、レックスさんはあたくしの望み通りに行動することになった。
ホワイト家でのレックスさんの立場もあって、彼のメイド達を連れてくることは止めていた。不愉快な目に合わせないために。レックスさんにとっても、あたくしにとっても、都合が良かったはずよ。
「レックスさんがあたくしの部屋で過ごす。なんだか、とても気分が高ぶるわね」
客間を用意すれば、きっとレックスさんに余計なことをしようとする存在がいたでしょうね。結果として敵は終わるのだけれど、避けたい未来ではあった。だからあたくしは、同じ部屋で過ごすことに決めた。
レックスさんと同じベッドで寝ていたら、安らかなような、胸が弾むような、そんな矛盾した感覚があったわ。友達と一緒に夜を過ごすことは最高の瞬間だと、強く実感できたわ。
「未婚の男女がどうこうと語られたら、面倒ではあるけれど。ただ、他の部屋に入れてもね」
おそらくは、レックスさんに危害を加えようとする愚か者がいたでしょう。だからといって、レックスさんに被害が出ることはないでしょうけれど。それでも、不愉快だもの。避けるのは、当然のことだったわ。
とはいえ、別の形で対策したいのも事実ではあったわ。同じ部屋で過ごすことは、悪くない。けれど、いつまでも続けられることではなかったもの。例えば、レックスさんが結婚したりすれば。
だから手段を考えていたわ。レックスさんの寝顔を眺めながら、ゆっくりと。すると、思い浮かぶ手段があったわ。
「そうね。せっかくレックスさんが来たんだもの。監視体制を築けばいいのよ」
レックスさんの闇魔法を使えば、できること。その案が浮かんでからは、どうやって実現するかを考えていたわ。レックスさんのことだから、頼めば引き受けてくれるとは思ったのだけれど。
とはいえ、できる限り対価を払いたいところではあったわ。今の段階では、空手形になりそうだったけれど。結論としては、一連の流れが終わる段階で全部を払う。そう決めたわ。
そしてレックスさんと話をしていくと、あたくしには味方が必要だという流れになったわ。そして、あたくしはホワイト家から人を探して面談をすることになった。そこで気になったのが、ひとり。
「スミア……、及第点は与えてもいいわ。レックスさんには、感謝しないとね」
スミアには、あたくしが大事にするものを理解するだけの知性と計算があった。同時に、汚れ仕事だってこなせる存在。レックスさんに言われなければ、見つけることすらできなかったでしょうね。残りの相手は、どれも外れだったのだけれど。ただ、スミアが手に入ったという事実だけでも、大きかったもの。
そして、レックスさんの手を借りて監視体制を築き上げたわ。スミアも一枚噛んでいたけれど。ホワイト家とアイボリー家の敷地内にレックスさんの魔力を侵食させて、常に状態を把握する。そうできてからは、いくらでも戦術を練ることができたわ。
「ホワイト家の動きも、アイボリー家の動きも、手に取るように分かる。ふふっ、悪くないわ」
レックスさんの力は、圧倒的よね。だからこそ、頼りすぎるのは良くないけれど。依存してしまえば、対等ではないもの。けれど、レックスさん自身が、彼を利用しろと言ったのだから。その責任くらいは、取ってもらわないとね。
いずれは、あたくしの手で支配を完成させる。それまでは、レックスさんの力を借りましょう。結局のところ、成果の出ない誇りに意味などないのですから。
まずは、ホワイト家の中で足場を固める。そうできないことには、未来はないわ。だからこそ、レックスさんの力を全力で活用したわ。ホワイト家の情報も、アイボリー家の情報も、あらゆる手段を使って集めた。
「さて、やはりユミルはカールを利用しているようね。なら、こちらで与える情報を調整して……」
カールはユミルにこちらの情報を漏らしているようだったわ。だったら、やるべきことは単純よね。カールが自分で手に入れたと錯覚できるように、情報を隠したふりをする。それだけで、いくらでも与える情報を操作できた。
もちろん、ユミルだってただの愚か者じゃない。密偵を送り込むくらいのことはしていたわ。ただ、あたくしの築き上げた監視体制では、密偵としての仕事などできはしない。あらゆる密談は、あたくしの耳に入っていたのだから。
そうなってしまえば、ユミルもカールもまとめて料理するだけ。そのために、いくつもの策を用意したわ。
「スミアには、裏切りの演技をしてもらいましょうか。それで本当に裏切るのなら、処断するまで」
カールに都合のいい言葉を投げかけさせて、反乱を誘発する。そして、スミア自身の手によってカールを処断させる。とはいえ、裏切った時にどうするかは、決めていたのだけれど。
そのためにも、あたくしの味方を増やすべきだったわ。だから、友人であるミュスカさんやハンナさんにも手伝ってもらうことにしたわ。一つ貸しという、厄介な取引をしてね。
「ミュスカさんもハンナさんも、優秀なものね。あたくしも、負けていられないわ」
ミュスカさんは的確に人の心を揺さぶっていた。ハンナさんは高い実力を示していた。そして、ふたりともレックスさんに並び立とうと努力を重ねていた。やはり、あたくしの友人にふさわしいと言える存在だったわ。
レックスさんが繋いでくれた関係なのだから、笑えてしまうけれど。今のあたくしの手にあるものは、ほとんどすべてがレックスさんの力によってもたらされたものよね。
だからこそ、計画にも力が入ったのだけれど。レックスさんと対等になる未来を、何度も思い描いていたわ。
「それにしても、レックスさんは……。どんな女にでも良い顔をするんだから……」
ミュスカさんやハンナさんにも、スミアにも。とにかく大事にしようとする姿勢を示すのだから。あたくし達のような存在は、どうしても信頼できない人間に囲まれている。そんな状況で命すらかけて大切にしてくれる相手。もはや毒でしかないもの。
あたくしだって、レックスさんがいない未来なんて想像できない。考えたくもない。だからこそ、全力で対等な関係を目指しているのだもの。きっと、他の女も同じよね。呆れたものよ。
「まあ、いいわ。刺されるようなら、止めてあげるけれど。友達が人気者であることは、喜んでおきましょうか」
あたくしとレックスさんの関係は、絶対に壊れない。それだけは分かっていたもの。だから、余裕を持つことができたわ。もし仮にあたくし達の関係を壊そうとするものが居るのなら。そうね。何があっても地獄に送るだけよね。
だからこそ、目の前の計画に集中することができたわ。予定通りに、カールとユミルは結託して反乱を起こした。そして、あたくし達の手で打ち砕いた。
「ふふっ、うまくいったわね。これで、あたくしの敵は消えて、潜在的な敵も見抜ける」
あたくしの支配を邪魔するものは、もういない。いたとしても、すぐに手出しなどできない。そうなっていたわ。だから、順当に進めるだけで支配を深めていける。
そうなってしまったのだから、あたくしのやるべきことは単純よ。
「後は、レックスさんとあたくしの友情を形にするだけ」
そうして、あたくし達の同盟関係と友情を大勢の前で披露したわ。血判状を同じナイフで作成した時には、背筋が震えたものよ。思わず笑みを浮かべていたのは、見られていたかどうか。
「血判……、ふふ、いいわ。あたくしとレックスさんの血が混ざり合う。嬉しいものね」
あたくしの血が、レックスさんの中にわずかに入った。その事実は、頭から爪先にまで甘い痺れをもたらしてくれたわ。もっともっと味わいたいと、そう思えるような甘い感覚をね。だから、少し面白いことを思いついたわ。
「いっそのこと、あたくし達の血を別の形で混ぜてみるのも、面白いかもしれないわ」
レックスさんの子供を生むなんて、どうかしらね。とっても楽しそうで、唇が歪むのが抑えきれなかったわ。
ねえ、レックスさん。あたくし達はどこまでも混ざり合う。それが、真の友情というものでしょう?
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