第362話 ルース・ベストラ・ホワイトの展望
あたくしは、ホワイト家の当主の座を勝ち取ったわ。レックスさんの命を狙おうとした父を討ち果たすことによって。表向きには、父が反乱に協力していた失態を娘であるあたくしが挽回した。そういう筋書きになるけれど。
これで、レックスさんと同じ当主の座に就くことはできた。ただ、それは一歩を踏み出しただけでしかない。あたくしには、よく理解できていたわ。
「さて、あたくしが当主となったからといって、レックスさんと対等になったわけではなくてよ」
だからこそ、次の一手を考えていたのよ。ただひとりで、誰にも知られないように。あたくしには、敵が多い。父すら殺す人間なのだから、当然よね。
ホワイト家の家臣たちも、あたくしが当主であることを不安がっている。そんなことは、目に見えていたもの。ただ、表に出せる存在はいなかったようだけれど。だから、信頼もできない。強者におもねるだけの存在なんて、簡単に裏切るのだから。
いっそ、あたくしに諫言でもできたならば、まだ評価できたのだけれど。ただ恐れるだけ。ただ不満をこぼすだけ。結局は、つまらない存在ばかりだったわ。
だからといって、全てを根切りにすることなど論外よ。キリがないし、ホワイト家の価値だって落ちるもの。結局のところ、やることはひとつよね。
「少なくとも、ホワイト家の支配を完全なものにするのは前提条件なのよ」
どんな手段であったとしても構わないわ。あたくしに誰も逆らえなくなれば、それで良いのよ。どうせ、大した信念も持っていない存在ばかりなのだもの。
あたくしだって、反対派閥の存在が重要だということは分かっているわ。ただ、明確な意図を持って対案を出せる存在なんて見当たらなかった。それなら、あたくしが絶対的な権限を持つ方がマシ。そう判断せざるを得なかったわ。
決まっているのは、失敗を隠す愚か者の処遇よね。素直に報告できるのなら、まだ許す意味もあるのだけれど。バツを恐れてあたくしの利益を損ねる存在は、消えてもらうだけよ。
ただまっすぐに進んでいるだけでは、レックスさんには追いつけない。だからこそ、迷わないわ。
「闇魔法にただの魔法で勝つのは、現実的ではなくなってしまったわ。だからこそ」
闇魔法にできないことも、存在するわ。だから、あたくしの魔法だって無意味ではない。そうだとしても、魔法で並び立つことは無理だと言って良い。そこからは、目をそらせない。
あたくしは、本気でレックスさんと対等になりたい。だからこそ、現実に向き合う必要があるわ。叶わない夢のために時間を浪費している暇はないわ。
もちろん、魔法の研鑽を続けるのは当然だけれど。力を持っているかどうかで、取れる選択肢は大きく差がつくのだから。妥協なんてできない。
それでも、あたくしの目指すべき道は決まっているの。ホワイト家を最大限に活用することで、レックスさんに並び立つ。それが、あたくしの選んだ道よ。
「あたくしは、ブラック家を超えなくてはいけないの。そうでなくては、何の意味もないわ」
魔法で劣り、権力ですら劣る。そんなの、許せるはずがないのだもの。あたくしは、どんな手を使ってでもレックスさんに勝たなきゃいけないわ。そうでなくては、レックスさんを失ってしまう。
いえ、きっとレックスさんはあたくしから離れないのでしょう。弱い存在を守ろうとして、力を尽くしてくれるのでしょう。だけど、そんな未来はごめんよ。
「ただ助けられるだけの存在なんて、友達じゃなくてよ。そんなの、寄生虫でしかない」
あたくしは、レックスさんに寄生するつもりなんてない。友達として、一緒に高め合っていきたいのだから。レックスさんに、認められたいのだから。
だったら、まずはあたくしの価値を高めるしかないのよ。そうでなければ、道はひとつなのだから。
「あたくしは、レックスさんに何を与えられるの? そんなの、決まっているわ」
魔法だって、少しはあるでしょう。だけど、違うわ。レックスさんに本当に足りないもの。それを与えられてこそ、あたくしは正しく友達だと胸を張れるのよ。
あたくしが持っている手札を考えれば、どう進むかなんて決まっているわよね。
「ホワイト家を支配して、経済を拡大する。そうすることで得た利益を、ブラック家にも渡す」
ホワイト家の持っている一番大きなものは、ミスリルの採掘権。だから、それを利用するのが効率的よね。きっと、ブラック家と取引したならば、お互いにとって利益のある取引になるはずよ。
同時に、ミスリルだけでは足りないもの。あたくしは公爵家の当主。ならば、その権限を利用して商売を広げるだけ。幸い、あたくしはミーア殿下やリーナ殿下とも距離が近い。だからこそ、ホワイト家の泊を利用することができるのよ。
ホワイト家が携わるということは本物の証。そうなるように、情報を操作する。理想の形は見えてきたわ。後は、少しでも現実に落とし込んでいかないとね。
「とはいえ、邪魔者が居るもの。まずは、敵を消さないといけないわ」
足を引っ張られる前に、確実に潰しておかなくてはね。つまらない邪魔をされて時間を取られるなんて、あって良いはずがないのだから。
そうね。まずは、あたくしの敵がどんな末路をさらすのか、しっかりと思い知らせなくてはいけないでしょうね。
「カール、愚かな弟。あたくしは父を殺しているのに、まだ自分は大丈夫だと思っている」
あたくしが殺す気にならないのは、口実がないから。それだけのことを、理解できていないのだもの。口実が生まれたなら死ぬ。そう知っていて、甘い夢想に浸っている余裕なんてないのだから。
本当に、いらないわ。ホワイト家の、いえ、あたくしの汚点そのものよ。レックスさんに知られたら、恥ずかしいほどにね。だけど、都合良くもあるわ。
「そうね。せっかくだから、もっと愚かな夢を見てもらいましょう。ホワイト家の当主の座。それを餌にして」
あたくしがカールを殺すだけの理由を、しっかりと生み出してもらいましょう。そうすれば、ホワイト家の権力はあたくしに一本化されるのだから。担ぎ上げる血族なんて、他に存在しないのだもの。
だから、カールには暴走してもらいましょうか。あたくしの手のひらの上で、ね。
「きっと、カールが頼るのはアイボリー家よね。そして、アイボリー家はホワイト家の弱体化を狙う」
同時に、カールを利用しようとするホワイト家内部の反対勢力にも接触するでしょう。つまり、敵が一同に会するのよ。あたくしを打ち破るためにね。それこそがあたくしの狙いだと、知らぬまま。
「もろともに、踏み潰してあげてよ。あたくしの真価を試す、良い機会よ」
とはいえ、ただ踏み潰すだけでは芸が無いわ。可能なら、利益を最大化したいものよね。あたくしの理想に、少しでも近づくために。どんなことをすれば良いかしらね。
「せっかくだから、レックスさんとの関係を深めたいわ」
そう考えて、案が浮かんだわ。レックスさんの手を借りて、ともに問題を解決する。フェリシアさんやラナさんが使った手よ。あたくしだけがダメなんて、言えないものね?
「なら、そうね。手伝ってもらいましょう。その中で、ブラック家にも利益を。それで良いわよね、レックスさん」
今あげられるものは、名誉だけ。でも、いずれはお互いに発展するための取引をしましょう。ともに助け合うのが友達よ。そう教えてくれたのは、レックスさんだもの。
あたくし達の友情を、あらゆる意味で形にしましょう? そのためなら、何だって捨ててみせるわ。
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