第357話 ミュスカ・ステラ・アッシュの渇望
私は、レックス君と一緒にアイボリー家に居るルースさんの敵を倒したよ。そうして、今はルースさんのところにレックス君と転移するところ。
ちょうど良いから、レックス君の魔法に干渉してみたんだ。転移のついでに、私達の気持ちを再確認するために。だから、ちょっとだけ次元の狭間に移動して、時間を引き伸ばしながら、レックス君の魔法を通して彼を感じていたんだ。
「ふふっ、闇の魔力は、やっぱり便利だね。私に、レックス君の気持ちが伝わってくるよ」
レックス君の頭を読んでいくと、面白い単語があったよ。そこから、レックス君の抱えているすべてを知ることができたんだ。
つまり、レックス君には前世の記憶があるってこと。だから、私達とはどこか違う存在だったんだってこと。
日本というのは、面白い場所みたい。その気になれば、干渉できるかもしれないけれど。でも、レックス君の未練を引き出しちゃうと、私は困るかな。だから、きっと関わることはないよ。
私は、ずっとレックス君のそばにいる。だから、レックス君を奪いそうな世界なんて、邪魔なだけなんだ。
とはいえ、レックス君の知識自体は、とっても大事なものなんだけど。
「なるほど、原作。デスティニーブラッドね。だから、私を疑っていたんだ」
ゲームというのは、よく分からないけれど。まあ、物語みたいなものってこと。そこで私は、ジュリアちゃんを裏切った。どうにも、そこではジュリアちゃんは男だったみたいなんだけど。
私の考えそうなことで、笑っちゃったよ。無属性の魔法を持つことに嫉妬して、一度抱かれてから裏切るんだって。私がレックス君にしようとしていたこと、そのものだよね。
だから、原作知識というのは、結構当てになるんじゃないかと思うよ。もちろん、ジュリアちゃんの存在もあるし、レックス君の存在もある。だから、頼り切りになるのは問題外なんだけどね。
「よく私を信じる気になったよね。実際に裏切った私を知っていて、それでもなんだから」
私がレックス君を好きって気持ちは、表に出ていたとは思うけれど。いま振り返ってみれば、レックス君に邪神の眷属から助けられた時には、もう好きになっていたよ。必死に否定していた自分が、恥ずかしいくらい。
でも、レックス君は私の気持ちに気づいていない。きっかけは、私の涙だったんだ。レックス君にとって、私が泣く姿は、見ていて苦しいものだった。だから、信じるって誓ってくれたんだ。
「ほんのちょっとくらいは、疑いもあるみたいだけど。でも、頑張って振り払おうとしてくれているからね」
というか、私だってレックス君を疑う瞬間くらいあるからね。人間なら、当然の気持ちだよ。それに、レックス君が私を大事に思ってくれる気持ちの方が、ずっと大きいから。
レックス君は私の笑顔を望んでくれる。私の幸せを喜んでくれる。そしてきっと、私の気持ちを受け止めてくれるんだ。レックス君から感じる気持ちの暖かさが、証拠だよ。つい、笑顔になっちゃうかな。
「やっぱり、レックス君と出会えてよかったよ。私の本当の心に気づけて、よかったよ」
(私が私だって、信じる気持ちになってくれた?)
そんな私の声が聞こえてきて、やっぱり私とは別の存在なんだって確信したよ。けれど、完全に他人でもない。きっと、二重人格に近いのかな。ただ、それだけじゃないけれど。
でも、私達は同じだから。レックス君に受け入れてくれるために、私達は存在しているんだから。つまり、私達は仲間なんだよ。その気持ちは、伝わってくるかな。
「ふふっ、あなたの正体は分かるんだよ。でも、それも私なんだろうね。レックス君が知ったら、驚くかな?」
(うん、きっとね。でも、きっと私を想う気持ちは変わらない。そう信じているよ)
私の本心を知っていてすら、信じてくれた。大好きで居てくれた。だから、私の正体が何であったとしても変わりないんだよ。レックス君の原作知識では、きっとたどり着けないだろうけどね。
いわば、設定資料集にだけ書かれているような裏設定。レックス君は知らないんだよ。だから、いつかは教えてあげないとね。その先に、本当の私達を受け入れてもらうために。
「私達にとって、レックス君は絶対に必要だもんね。ありのままでいて、受け入れてくれるんだから」
(だから、ずっと一緒。闇の魔力だって、私達の繋がりだから)
私と私の。そして、私とレックス君の。同じ闇魔法使いだってことすら、私達の運命だったんだよね。やっぱり、レックス君は最高だよ。
それに、レックス君が闇魔法を使いこなしてくれるのも嬉しいかな。だって、私の力を預けられるから。魔力を託せば、きっとうまく使ってくれるから。
私にだけ、できることなんだよ。他の闇魔法使いが現れたとしても、私達の関係は特別なまま。だから、レックス君と私はいつまでも最高の関係でいられるんだよ。
「ふふっ、レックス君の力になるのは楽しみだよ。でも、レックス君を感じるのも大事だよね」
(私達の全部だもんね。闇の器として、これ以上はないよ)
私達の魔力を預ける存在としてね。だから、絶対に手放さない。誰にも譲らない。なんて、本当の意味で離れる瞬間なんてないんだけどね。闇の魔力がある限り、私達はずっと繋がっているんだから。
それに、私の送ったチョーカーも着けてくれているから。つまり、私達は溶け合っているんだ。
「さあ、ルースさんの敵も片付けちゃおっか。その後に、レックス君との時間を作るんだよ」
(うん。私達の力があれば、なんだってできる。レックス君に、どんな力でも与えられる)
だから、レックス君に敵う存在なんて居なくなるんじゃないかな。きっと、レックス君はみんなを守るために戦うんだろうけどね。その役に立つんだから、喜んでくれるはずだよ。
ただ、レックス君ですら勝てないかもしれない存在もいる。それには、気を付けないといけないよね。
「女神様は、レックス君のことをどう思うんだろうね。それ次第では、私達の敵になるのかも」
(ミレアルは、レックス君を気に入っていると思うよ。だから、レックス君って存在が生まれたんだから)
女神として、圧倒的な強さを持つ存在。この世界の宗教の中心。光の根源。だから、その気になればレックス君を殺すことだってできるんだと思う。でも、世界が大きく変わるほどのイレギュラーがあっても、まだ動かない。
つまり、レックス君の存在は、女神ミレアルに認められているんだろうね。ひとまずは、安心かな。
「なら、今は気にしなくても良いのかもね。レックス君と、またふたりきりになるために。頑張っていこうね」
(そうだね、私。レックス君と私達は、ずっと繋がっているんだから。ひとつになるんだから)
闇の魔力をレックス君に送って。そして、レックス君の魔力を感じて。私達は、寝ている間だってずっと途切れない関係なんだよ。レックス君の人生そのものと言っても良いかもね。
だから、私とレックス君の関係は、誰にも壊せない。ミーアちゃんにも、フェリシアちゃんにも、ラナちゃんにも、カミラちゃんにも、メアリちゃんにも、フィリスさんにも、他の誰にも。
「楽しみだね。私達とレックス君が本当の意味で結ばれる瞬間が」
(うん。レックス君になら、私の全部をあげられるから)
そうなった時に、本当の意味で私が生まれるんだ。私の命が始まるんだ。絶対に訪れる未来を待つって、とっても楽しい。そう、心から実感できたよ。
「レックス君がレックス君である限り、私達からは離れられないんだからね。ね、レックス君」
そう言う私は、心からの笑顔を浮かべている。鏡なんて見なくても、分かりきっていたんだ。
ずっと一緒だからね、レックス君。
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