第210話 責任を負う意味
ブラック家にやってきた人は、ジェルドを除いて死んでしまった。もはや、何か疫病神でも憑いているんじゃないかと思えるレベルだ。とはいえ、オカルトに傾倒してしまえば、俺は周囲の人から見捨てられるだろうな。
俺のやるべきことは、現在の状況に対して、できることをこなしていくことだ。そのために必要なことを考えることだ。劇的な改善を望むのではなく、確実に一歩ずつ進んでいくことだ。
結局のところ、俺は焦りすぎていたのだろうな。劇的な改善を望んでしまって、人を採用することを急いだ。だから、失敗した。
本当に必要だったのは、いま俺の味方をしてくれている人の待遇を良くすることだったはずだ。まず隗より始めよに習うとしても、新人である必要はなかったんだ。ジャンやミルラは当然として、アリアやウェスといったメイド達、学校もどきの生徒であるジュリアやシュテル、サラを厚遇するべきだった。
そうして失敗した結果として、余計にジャンやミルラに負担をかけてしまっている。不甲斐ないばかりだ。だが、俺にとって必要なことは分かった。
いま考えたことを実行したところで、問題がすべて解決したりはしない。それでも、確かに前に進めるはずだ。
今後の方針が固まったあたりで、ジャンとミルラがやってきた。ウェスが呼んできてくれたんだ。
「兄さん、ウェスから報告を受けました。申し訳ありません。僕達が採用した人のせいで」
「私からも、謝罪をさせていただきます。この度は、申し訳のしようもなく……」
それを言うのならば、ジャンとミルラに任せきりで、自分で確認しなかった俺にも責任はある。だから、ふたりが悪いとは言えない。まあ、反省するというのは大事なことだ。俺にとっても、ふたりにとっても。
俺はジャンやミルラを信じているという体で丸投げしていた。ジャンとミルラは、それに異を唱えなかった。最大の問題は、相互理解を怠ったことだろう。だから、今後は俺の考えを話していくべきだし、相手の考えを聞くべきなのだろう。
「気にするなとは言えないが、あまり気に病むなよ。今後の活躍で、挽回してくれれば良い」
「ありがとうございます、兄さん。もちろん、そうさせてもらいますね」
「レックス様のご期待に添えるよう、粉骨砕身させていただきます」
俺にだって問題があるのだから、責めることはありえない。それに、俺だって謝罪するべきだろう。とはいえ、いま優先するべきことは、いま抱えている問題にけりをつけることだ。複数の問題を同時に解決しようとすれば、どっちつかずになるだけだろう。
ただ、いずれは腹を割って話し合うべきなのだろうな。それも、そう遠くないうちに。ちょっと、覚悟が必要ではあるが。
「さて、まずは、全員の部屋を調べようか。そこから、何か分かるだろう」
「そうですね。まずは、シモンの部屋からにしましょう」
ということで、部屋の隅々まで調査していく。すると、証拠らしきものを見つけた。
「ふむ、縄か。これで首を絞めたと思うか?」
「少し、待っていてくださいね。死体を確認してきます」
ジャンとミルラが確認してくる間は、どこまで調査を進めるべきかを考えていた。おそらく、100%正しいと言い切れる形で犯人を導き出すのは不可能だろう。そんなこと、前世でも珍しかった。だから、どこで妥協するかが大事になる。
まあ、真犯人が隠れている可能性だけ排除できれば、それでいいか。どうせ、みんな死んでしまったんだから。これ以上の被害者が出ないことしか、求めることはできない。
考えをまとめているうちに、ふたりは帰ってきた。
「どうだった? 答えは分かったか?」
「首の痕と縄の形状が一致することを、確認させていただきました。つまり、シモンが犯人である可能性が高いと判断させていただきます」
「だろうな。そんな証拠をダルトンがでっち上げていたのなら、利用するに決まっているからな」
まさか、でっち上げた証拠を用意しておきながら、それを利用すらしないなんて、ありえないだろう。いや、あの浅慮っぷりなら、おかしくはないのか?
いずれにせよ、ダルトンが真犯人だとして、それはそれで構わない。事件が続きさえしないのなら。どうせ、ダルトンは死んでいるのだからな。
「その通りでございます。では、次に参りましょう」
ということで、グレンの部屋に向かう。同じように、証拠らしきものを見つけた。
「ふむ。血のついた布。これは、証拠となるでしょうか」
「どうだろうな。魔力の痕跡は、確認できるのか?」
「僕にはできませんが、兄さんの魔法を使えば可能だと思います」
「そうか。なら、試してみるか。……これは、ストリガの魔力だな」
なるほどな。魔力を物体に侵食させれば、それによく接していた人も分かるのか。新発見だな。今回の事件は失態と言えるが、それでも得るものはあった。
「でしたら、グレンがストリガを殺した可能性が高いのでしょう。私としては、これ以上の証拠の発見は難しいと判断いたします」
「だろうな。なら、グレンとシモンが犯人ということで、よしとしておくか」
「はい。状況からして、ダルトンに捏造ができたとは思えません」
まあ、普通はそうなんだよな。ダルトンは、普通ではないバカな行動をしていたが。あれでも、表向きの態度は下手なりに取りつくろえていただろうに。どうして、あそこまで愚かになってしまったのだろうか。もう死んだ相手のことを考えても、仕方ないか。
「なら、今後どうするかを考えないとな。まずは、王家に説明に向かいたいところだが」
「でしたら、私が文面を用意させていただきます。おそらくは、大きな罪は問われないでしょうが」
そう期待したいところだが、流石に難しくないか? 死人を出しているのは、明確に失敗なのだから。何らかの罰を与えられても、それが普通だろうに。
「なぜ、そう判断できる? 王家は、使者を殺されているんだぞ?」
「レックス様の価値が、人ひとりの命とは比べるまでもないからでございます」
確かに、否定はできない。俺ひとりで、理論上は数万の人間を殺せるのだから。それに、転移の魔法だって使い勝手が良い。効率だけを判断するのなら、ありえる話だ。
だとしても、俺は特別扱いなどされるべきではないと思う。いや、死刑になりそうなら抵抗くらいはするが。ああ、俺に死刑を言い渡して反抗されたら、大勢の犠牲者が出るものな。
とはいえ、それは俺が人の命を軽んじるきっかけになりかねない。できれば、通常の対応をしてもらいたいところだ。俺が、他者の命を軽々しく天秤にかけないためにも。
「だが、それは……」
「はい。多少の問題行動は、見逃されるということだとも存じます」
そうなんだよな。俺が横暴を振るっても、王家が我慢するという構図ができかねない。王家ですら我慢するのなら、下級貴族や平民はどうなる。そう考えると、俺は、より襟を正すべきなんだ。
「ジャン、お前は、どうするべきだと思う?」
「王家に従う姿勢だけでも、示しておくべきかと」
「ああ、なるほどな。制御不能な兵器だとでも思われたら、終わりだろうからな」
流石に、人類の敵として扱われたくはない。
「そういうことですね。流石は兄さんです。すぐに意図を理解してくれますね」
「では、私とジャン様で準備を進めさせていただきます。レックス様は、ごゆるりと」
今回の件が終わったら、ジャンとミルラに任せきりの構図を見直さないとな。それが、俺にとって必要な責任なのだろう。
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