第208話 必要なこととして

 ストリガもマリクも殺されたとあっては、もう大ごとになるしかない。ということで、俺の立ち回りも大事になってくるだろうな。犯人を見つけ出すにしても、適切な捜査をおこなったという姿勢を示しておかなければ、今後に響くだろう。


 例えば、俺が権力や物理的な力をもってして、誰かに罪を着せたと思われたりする可能性がある。そうならないように、襟を正した行動をするべきだろう。


 となると、最初から犯人を決めつけていた訳ではないと表明しておかないとな。ということで、身内も疑っているという姿勢を見せておくべきだ。


 まったく、事件の解決だけを考えられれば楽なんだがな。今後のことも考えないといけないというのは、大変だ。


 ということで、話は聞こえないなりにも、人目がある状況で証拠集めをしていく。まずは、アリアとウェスからだ。


「アリア、ウェス、お前達は、マリクが殺された日、何をしていた? 勘違いしないでほしいが、お前達を疑っている訳じゃない」


 こういうフォローも、できれば他に相手が居ない時が理想ではある。ただ、今の状況で誰かと密会すると、絶対に疑われるからな。実現は難しいだろう。だから、妥協点といったところか。


「分かっています。建前として、確認が必要なんですよね。その時間は、フェリシアさんの相手をしていましたね」

「わたしもですっ。ですから、確かめてもらえればっ」


 なるほどな。それなら、アリバイとしては成立するか。現実の犯罪なら、もっと細かく捜査するのだろう。とはいえ、そこまでの技量も経験もないからな。素人なりに、整合性を重視する程度が限界だ。そこは、どうしようもないな。


「そうか。なら、問題なさそうだな。悪かったな、急に変なことを聞いて」

「いえ、お気になさらず。貴族となれば、本心を隠す必要も出てくるでしょうから」

「そうなんですか? なら、言いたいことは、こっそり言ってくださいねっ」

「ふたりとも、ありがとう。一応、フェリシアにも確認してくるよ」


 ということで、フェリシアの元へと向かう。そこでも、人目がある状況をつくる。こういう細かいことが、後々に役立つと信じて。もしかしたら、徒労で終わる可能性もあるが。それでも、大した手間ではない備えなら、しておいた方が得だろう。


「フェリシア、お前は、マリクが殺された日、何をしていた?」


 はいやいいえで答えられない質問をすることは、とても大事だ。確認したという立ち回りに説得力が出る。本当に建前だけで捜査したのではないという証になるはずだ。


「わたくしを、疑っているんですの? ……なんて、冗談ですわよ。アリアさんとウェスさんに、もてなされていましたわ」


 うん。なら、3人は疑わなくて済みそうだ。他の人に説明する時にも、矛盾は出ないだろう。というより、いざという時に3人をかばえる材料が出たというべきかな。


 とにかく、良い情報を得られた。この調子なら、これから先も大丈夫だろう。まあ、真犯人に危害が加えられないように、気を抜くことはできないが。一応、皆に贈ったアクセサリーで、常に異常がないか確認している。そうしていれば、最悪の事態は避けられるはずだ。


「そうか。証言が一致するし、これは信じて大丈夫だろうな」

「わたくし達が口裏を合わせた可能性は、想像しませんの?」


 そう言われてしまえば、困ってしまうのだが。とはいえ、本心では疑っていないからな。最低限、ちゃんと疑っていたという証を残せれば良い。そういう捜査でしかない。


 貴族としてなら、信じているという顔をして疑うのが大事なのだろうな。だが、いまの俺はそこまで徹底できない。おそらくは、未熟なのだろう。


「そこまでしてマリクを殺すメリットは、お前達には無いだろう」

「確かに、そうですわね。あの程度の小物、いつでも殺せますもの」


 人を殺すことが当たり前に選択肢に入っているあたり、恐ろしい話だ。とはいえ、今でも殺していないのだろうから、信頼できるというものだ。表だけ立派なことを言って行動が伴わない人間より、よほど。


「相変わらず、物騒なことだ。だが、お前らしいよ」

「レックスさんこそ、疑われておりませんの?」

「さてな。お前達に疑われないのなら、何の問題もないよ」

「わたくしを、よく信頼しているのですね。ふふっ、良い気分ですわ」


 俺からの信頼が伝わっているのなら、十分だ。フェリシアの方だって、俺に対して好意的なのは伝わるからな。お互いに信じ合っている証拠だろう。なら、これから先も続くようにしないとな。


「じゃあな。話ができて良かったよ」

「では、また。今度は、楽しい話といたしましょう」


 ということで、次は家族の方へと向かう。誰から会おうか考えていたら、メアリとカミラ、母が集まっていた。つまり、俺が居ないところでも仲良くできているのだろう。少し、家族関係は心配だったからな。安心できるのは、ありがたいことだ。


「メアリ、姉さんに、母さんも。最近は、よく集まっているのか?」

「うん。お兄様のためにも、協力しないといけないから」

「面倒なんだけどね。ま、仕方ないことよ」

「わたくし達は、皆レックスちゃんを愛していますもの」


 愛していると言われると、むずがゆくもあるが。まあ、事実だとは思う。メアリは言わずもがな、カミラはひねくれた愛情を感じるし、母だって愛してくれているのは確かだ。少々歪んでいるとは思うが。


 それと、もうひとつ分かったことがある。最近はよく集まっているということは、おそらくはマリクが殺された瞬間にも集まっていたということ。それなら、目撃者もそれなりに居るはずだ。なら、これ以上は確認するまでもないか。


「そうか、嬉しいよ。3人が仲良くしているのなら、何よりだ」

「レックスちゃんは、大変そうですわね。わたくしも、なにか手伝いましょうか?」


 そういう姿勢を示してくれるのは、ありがたい。


「自分の安全を優先してくれ。俺が狙われたところで、どうとでもできるからな」

「あんた、気を使い過ぎなのよ。あたし達だって、ただの間抜けじゃないわ」

「お兄様の役に立てるのなら、うれしいから。だから、何でも言って?」


 積極的に行動してほしくはないが、気持ちを無下にもしたくない。その中間を考えていると、悪くない案が思いついた。これなら、大きな危険はないはずだ。というか、容疑者の力量からして、よほど気を抜かなければ安全ではあるのだろうが。


 ただ、どうしても心配になってしまう部分はある。なにせ、人が死んでいる訳だからな。もし親しい人が被害者ならと考えてしまうのは、仕方のないことだ。


 まあ、だからといって、1から10まで世話をすれば、俺の居ない時に危険が増すだけだ。飼い猫が野生で生きていけなくなるように。いいバランスを、考えないとな。


「なら、相手から話しかけられた時に、情報を抜いてくれないか?」

「それくらいでしたら、お手の物ですわ。任せてくださいな、レックスちゃん」

「うーん、メアリ、上手にできるかな?」

「まったく、面倒な頼みをされたものね。ま、付き合ってやるわ」


 3人の力で、少しでも状況が良くなってくれると助かる。とはいえ、無理はしないでほしいものだ。それもこれも、俺が未熟なばかりではある。


 もっと、成長しないとな。そう思える瞬間だった。

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