第207話 手がかりを求めて
なんでも、マリクが死んだとのこと。ストリガの時も問題だったが、今回はより大きな問題だ。なにせ、王家から派遣された人員が死んでいるのだから。最悪の場合、敵対行動だと捉えられかねない。
ストリガが死んだところで、言ってしまえばシモンが敵になるだけだ。だから、そこまで大きなデメリットはなかった。いや、俺が謀殺したと疑われたら面倒なのはあるが。
ただ、王家と敵対することになれば、ミーアやリーナとの関係にも影響が出るだろう。それだけは避けたい。
それにしても、笑えてしまう。人が死んでいるのに、俺の頭にあるのは計算ばかり。それも、大切な相手との関係が壊れないかだけを気にしている。なんだかんだで、俺もブラック家の血筋ということか。
まあ、まずは現状を確認しないとな。そこが分からないと、これから先への対応も考えられない。
「ジャン、ミルラ、詳しく状況を説明してくれ」
「そうですね。亡くなったのはマリクです。死因は、絞死のようですね」
なるほど、首を絞められて。そうなると、魔法でなくても実現できそうだ。背後から襲いかかって、魔法を唱える隙を与えずに殺す。寝込みを襲って、何もさせずに殺す。まあ、色々とやりようはある。
この世界の捜査技術では、死亡推定時刻までは割り出せないのかもしれない。そうだとすると、手口を割り出すのは難しいかもな。というのも、夜か朝かで取れる手段は大きく変わってくるから。人目のあるなし、マリク自身の意識の有無。それ以外にも、あるだろう。
いずれにせよ、今回は魔法なしでも殺せたという可能性が高いな。
「つまり、魔法を使ったものではないと?」
「はい。魔力の痕跡は、確認できませんでした」
「なら、容疑者が増えたことになるな」
前回は実行不可能だった、シモンやミルラといった人間も、容疑者になる訳だ。とはいえ、ミルラに調査を任せないというのは、真実から遠のくだけの選択だろう。
この世界だと、警察に当たる機関は貴族が管理しているからな。良くも悪くも、俺の裁量で好き勝手に調査できる。
「そうでございますね。前回と今回が同一犯とは限りません。もちろん、同じ犯人の可能性もございます」
「つまり、より厄介な状態になった訳だ」
「そうなりますね。また、人を集めますか?」
とりあえず、軽く質問をするだけでも、分かることはあるだろう。俺に分からないとしても、ジャンやミルラなら情報を拾えるはずだ。そう考えたら、一度は話しておいた方が良いだろうな。
「一応、そうするか。ジャン、ミルラ、手配を頼む」
ということで、今回の容疑者達が集められた。厳密には、カミラやメアリ、アリアにウェスなんかも容疑者ではあるんだが。今は呼び出していない。この判断は、どう評価されるだろうな。まあ、大切な人の被害を防げれば、それで良いのだが。
「レックス、お前が殺したんだろう! ストリガも、マリクも! このクズが!」
シモンはつばを飛ばしながら叫んでいる。どうも、怪しい。犯人が誰かに罪を着せようとするのは、定番の言動だと思うからな。まあ、今の段階で判断するべきことではない。しっかりと、情報を集めよう。
「ふむ。前回と態度が違うんだな。前は自分が当主になると言っていたものだが」
「うるさい! 何もかも、お前が無能だからだろう!」
まともな反論は出てこない、と。本気で疑わしいが、立て続けに人が死んで混乱している可能性も否定できない。まあ、息子であるストリガが死んでも、当主がどうこうと言っていた人間であるのも事実ではあるが。
「ジャン、ミルラ、どう見る? 今回は、シモンも容疑者である訳だが」
「疑わしいのは事実ですが、現状では物証がありませんからね」
「ただ、アリバイは立証されていません。容疑を否定するものではございませんね」
まあ、そうだよな。確証はどこにもない。疑わしいというだけだ。だから困るんだよな。うっかり冤罪をかけてしまえば、大問題だ。いや、もみ消そうと思えばもみ消せる権力を持っているのだが。だからこそ、俺は慎重になるべきなんだよな。人の人生を、捻じ曲げないために。
とはいえ、事件が迷宮入りするのも問題だ。その中間の、絶妙なラインを探さなくてはならない。俺は素人だというのに、困ったものだ。
「何を疑うというのだ! レックスに付けられた首輪のせいで、魔法も使えぬというのに!」
「もちろん、僕はレックス様を疑っていませんよ。むしろ……」
ダルトンは、ちらりとグレンを見る。さて、どういう動きだろうな。グレンを疑っているのか、あるいは罪を着せようと企んでいるのか。いずれにせよ、犯人でないとしても信用できる相手ではない。
「ふん、面白くなってきたじゃないか。今度は、誰が死ぬんだろうな?」
前回は退屈そうにしていたが、今回は違う。さて、なぜだろうな。それにしても、人が死んでいるのに気にしない人間ばかりだな。本当に、嫌になりそうだ。
「グレン、口を慎め。自分が疑われていると、理解できているのか?」
「好きに疑えばいいさ。どうせ、何も出てきやしない」
「僕に任せていただければ、必ず犯人を明らかにしましょう」
ダルトンに任せるというのは、俺の中ではありえない。犯人だとすれば、証拠を消そうとするだろう。犯人でないとしても、妙な捜査をする気しかしない。
兎にも角にも、ダルトン個人が信じられないのだから、その言葉も信用できない。
「ダルトン、お前はまず、自分の無罪を証明した方が良いんじゃないか?」
「僕が犯人であるなど、滅相もない。僕は、レックス様の忠実なしもべですよ」
「レックス様。当方にも状況を説明していただけますか?」
ジェルドは冷静だな。前回も落ち着いていた。人が死んでいることを考えれば、少し怖くはある。とはいえ、この世界は基本的に命が軽いからな。ひとりやふたり死ぬ程度のことは、よくあることなのかもしれない。
まあ、説明は必要だろうな。ただ、証拠隠滅に繋がりそうな情報は避けるべきだろうが。とはいえ、ほとんど何も分かっていないんだよな。
「と言ってもな。マリクが絞殺された。それ以上のことは、何もない」
「僕から説明すると、縄のようなもので絞められていたようです。つまり、計画的犯行である可能性が高いですね」
「前回の事件は、魔力を全身に叩きつけられてのもの。つまり、突発的犯行であると判断できそうですね」
ああ、その視点は無かった。やはり、優秀なようだ。まあ、捜査を撹乱しようとしている可能性だって否定できない。ミーアの送ってくれた人員だから、できれば信じたいが。
「つまり、ジェルド様は同一犯の可能性は低いと見ているのですね」
「はい。心象として疑わしい人間には、あたりがついています」
「それをここで口にしないのは、なぜだ?」
「レックス様の判断を歪めるのも、問題でしょうから。ジャン様とミルラ様には、共有しておきますよ」
さて、どちらだろうな。ジャンとミルラを落とせば俺も落ちるという判断なのか。本当に言葉通りの配慮なのか。疑うのは良くないと分かっていても、つい疑ってしまう。
「そうか。ジャン、ミルラ、気を抜くなよ。お前達が狙われる可能性もあるんだからな」
「はい、分かっています。ですが、対策も講じていますよ」
「心配いただき、感謝の至りです。無論、レックス様に心配はおかけしません」
さて、すぐに解決してほしいものだが。実際は、どうなることやら。
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