第112話 メアリ・エリミナ・ブラックの喜悦
メアリは、お兄様が大好き。だから、ずっと一緒に居たい。そう思っていたの。だけど、分かっていたの。お兄様にも、自分の人生があるってことは。大きな何かを、抱えているってことは。
だから、お兄様がアストラ学園に行くのも、我慢するつもりだったの。離れ離れになることも、耐えるつもりだったの。たったの1年だけ。そう思えば、待つのが楽しくなるはずって、信じながら。
でも、無理だったの。メアリにとって、お兄様がどんな存在か。メアリにすら、分かっていなかったから。
大好きだったの。信じられたの。幸せだったの。それを感じられない時間が、どれほど苦しいか。お兄様が居なくなって、初めて分かったの。
「お兄様が居ないと、何も楽しくない……」
お兄様にもらった杖とチョーカー。それから、お兄様を感じて、お兄様を思い返していたの。それだけが、メアリの楽しみだったの。でも、だけど、お兄様はそばに居ない。そう思い知らされる時間でもあったの。
メアリは、お兄様に撫でてほしかった。笑いかけてほしかった。抱きしめてほしかった。いっぱい褒めてほしかった。
けれど、それは叶うことはない。お兄様は遠くにいるから。同じ年じゃないことを、恨んだりもしたの。どうしてお父様とお母様は、お兄様と双子に生んでくれなかったのかって。
寂しくて、悲しくて、胸が張り裂けそうだったの。あと何日でお兄様が返ってくるのかを数えて、多すぎて泣きそうにもなったの。
「でも、メアリはお兄様の役に立つんだもの! 魔法は、がんばらないと!」
せっかく、お兄様に魔力をもらったんだから。
「お兄様の部屋、落ち着くの。お兄様を、たくさん感じていられる……」
たまたま、足が向いた。その瞬間、お兄様の魔力と、においと、いろんなものを感じて、頭がいっぱいになったの。もう、ここから出たくないってくらい。
そんな瞬間だったの、お兄様が、メアリの前に現れたのは。とっても、幸せな気持ちになれたの。少し話をして、すぐに離れていっちゃったんだけど。
でも、嬉しくて、楽しくて、胸の中に、とても暖かいものがあったの。お兄様は、メアリのことを忘れていなかったんだって。ちょっとだけ、怖かったから。メアリより好きなものを見つけて、離れていっちゃうんじゃないかって。
「やった、お兄様が帰ってきてくれた! だったら、今度こそ、メアリに魔力を注ぎ込んでもらうんだ!」
もう、我慢なんて、できそうになかったの。お兄様がメアリの中にないと、おかしくなってしまいそうだったの。
だから、おねだりしたの。お兄様は、当たり前みたいに魔力をくれたの。それが、とっても幸せだったの。
「お兄様の魔力、あったかい……。メアリのぜんぶに、お兄様を感じる……素敵なの……」
お兄様が離れていっちゃってからも、ずっと魔力の感覚に集中していたの。お兄様のことを、一秒だって忘れなくて済むように。メアリの心と体に、お兄様を刻み込むために。
「なんだか、お腹がきゅーってするの。お兄様、なにかしたのかな?」
お兄様を感じているだけなのに、お腹の奥が熱くなるような気がしたの。ちょっと、息が荒くなる感覚もあったの。頭のぜんぶがお兄様で満たされて、ポカポカする。なんでかは、分からなかったけれど。
「幸せだから、何でも良いの。これからは、ずっとお兄様とひとつね!」
メアリの中に、ずっとお兄様が居る。そんなの、素敵なんて言葉じゃ足りないの。大好きなお兄様をずっと感じていられて、身も心もお兄様に染めてもらう。そんなに幸せなこと、他には無いんだから。
これから先、お兄様が遠くに行っちゃっても、きっと大丈夫。そう信じるよ。また、必ず会えるんだから。その間、ずっとお兄様がメアリの中にあるんだから。
「お兄様は、メアリの魔法もほめてくれたの。だったら、もっと強くなるの! お兄様をビックリさせちゃうくらい!」
そうすれば、またほめてくれるよね? お兄様、とっても優しいもん。それに、お兄様の敵は、みんなみんな、やっつけちゃうんだから!
メアリの力は、お兄様を助けるためにあるんだから。そして、お兄様の敵を殺すためにあるんだから。
「きっと、お兄様は、お父様が嫌い。そんな気がするの。でも、メアリも同じなんだ」
だから、お兄様がお父様の敵になったとしても、メアリの気持ちは変わらないの。うん、お父様を殺したいのなら、手伝っちゃうんだから!
メアリは、お兄様に力をもらった。優しくしてもらった。愛してもらった。だから、その分を返すの。恩返しのためじゃなくて、メアリがやりたいことだから。
「お兄様の居場所が、メアリの居場所。だから、お兄様。離れちゃ嫌だからね?」
メアリの望みは、お兄様がずっとそばに居ること。それだけなの。強い魔法も、たくさんの食事も、お兄様が居ないのなら、何の意味もないんだから。
「メアリは、お兄様だけ居ればいいの。お父様も、お母様も、いらないわ」
だから、メアリは何でもするんだ。お兄様のそばに居るためなら。痛くても、苦しくても、お兄様が一緒なら、きっとへっちゃら!
お兄様の居ない時は、料理だって美味しくないし、遊びも楽しくない。だから、お兄様と居れば、ご飯も美味しいし、何をしても楽しいはず!
「だから、お兄様がブラック家から出ていくのなら、ついていくもん」
血がつながっているだけの人よりも、お兄様はずっと大事。仮に血がつながっていなくても、お兄様とメアリは一緒だもん。お兄様は、ずっとお兄様なんだ!
「うんっ、メアリはお兄様のもの。お兄様は、メアリのもの。そうだよね?」
お兄様が欲しいものは、ぜんぶあげる。だから、お兄様の魔力も笑顔も、ぜんぶほしいの。それだけあれば、他の何もいらないんだから。
「お兄様の魔力と、メアリの魔力、混ぜちゃえばどうなるかな? お兄様とメアリが、混ざっちゃうかな?」
きっと、とっても素敵なこと。お兄様とメアリがひとつになるのは。溶け合って、温かさも魔力も分け合って。そうすれば、ふたりとも幸せだよね?
「またお兄様と会えるの、楽しみ! 今度は、もっと混ざり合うんだから!」
お兄様と、もっとくっついて、もっと染まりあって、ぜんぶぜんぶ、ひとつになるの!
ねえ、待っていてね。お兄様は、メアリが幸せにしてあげるからね?
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