第111話 大切な約束
昼ご飯は食べたが、まだ時間はある。ということで、できるだけ家族との時間を作りたい。約束もあるから、まずはメアリからだな。そこでの残り時間次第で、他の人を考えることになるだろう。
できれば、最低でもジャンの様子は見ておきたい。少なくとも、メアリとジャンは俺の味方でいてくれるだろうからな。だから、優先順位は高いんだ。
まあ、どれもこれも、メアリとの時間を過ごしてからだ。目の前の相手を大切にできないなら、同じ時間を過ごす意味がないだろう。
「メアリ、会いに来たぞ。あまり時間は取れないが、めいっぱい仲良くしようじゃないか」
「もちろんだよ、お兄様! ふたりの時間は、何よりも大切にするの」
満面の笑みといった感じで、こちらまで嬉しくなる。やはり、メアリは可愛いな。こんな子が、原作では悪役だったのだから、分からないものだ。
メアリの存在のおかげで、希望が持てる。原作では敵だったとしても、手を取り合えるかもしれないと。ミュスカとも、いずれは仲良くできるかもしれないと。
俺としても、メアリとの時間は大切にしたいな。心穏やかになれるのは、間違いないから。
「ありがとう、メアリ。俺を大好きで居てくれて。もちろん、俺もメアリが大好きだ」
「だって、お兄様は私のそばに居てくれるから! 絶対、ずっと大好きなの」
メアリが悪に落ちない限り、絶対に味方でいる。妙な方向に進みそうになったら、全力で手を引っ張るのが、俺の役目だ。というか、今の状況から考えて、メアリが悪い子になるのなら、俺のせいだろう。だったら、見捨てることはできないよな。
「俺も、ずっと大好きだ。約束するよ」
「そんなお兄様に、見せたいものがあるの。ちょっと、外に来て」
とても自信あり気なので、俺としても楽しみだ。そう思いながら、ついていく。まあ、外に出るってことは、魔法か何かだろうとは思うが。
武術の可能性も、まあ、なくはない。ただ、性格的に、あんまり考えられないな。どちらかというと、おとなしいタイプの子だから。
ということで広い場所に出ると、メアリは贈った杖を構える。これは、魔法で間違いないだろう。というか、杖を愛用してくれているのだな。それが分かっただけでも、とても嬉しい。
「見ててね、お兄様。
メアリの使った技は、かつて見せてくれた竜巻を、さらに強化したものという感じだ。岩が竜巻によってまき散らされ、同時に雷と炎も吹き荒れている。巻き込まれたら、大抵の存在はボロボロにされそうだ。というか、生きていられるやつの方が少ないだろう。
俺の周囲でも、先手を打たずに対処できる人は少ないんじゃなかろうか。撃たれたら終わりになる姿が、容易に想像できる。
岩が素早く飛んでいて、炎と雷も浴びるのだから、まあ当然か。恐ろしい才能だ。すでに、五属性を持つものとして十分な力がある気がする。
とはいえ、もっと成長の余地はあるだろうが。メアリは、まだ幼いと言って良いのだから。
「すごいじゃないか、メアリ。もう、5つの属性を使いこなしているんだな」
「お兄様にもらった力だもん。当たり前だよ」
本気で平然とした顔をしているから、メアリとしては当然のことなのだろう。だが、間違いなく努力を重ねていたはずだ。そのことに、俺の存在が大きな影響を与えている。胸が暖かくなるな。
「そんなに使いこなしてくれるのなら、姉さんとフェリシアに頼み込んだ甲斐があるな」
「2人のおかげなのは分かるけど、メアリの前で他の女の人の話をしちゃダメ!」
ふくれっ面をしていて可愛らしいが、確かな嫉妬も感じる。まあ、当たり前のことだよな。メアリにとって親しい相手は、数少ない。
フェリシアやジュリア達のことを考えても、今は会えない相手なのだから。だったら、俺に執着するのは普通だろう。その感情を大切にしてやるのは、当然の義務だ。
「ああ、済まなかったな、メアリ。お前のそばでは、お前だけを考えているよ」
「それでいいの。お兄様は、メアリのお兄様なんだから」
可愛らしい独占欲だな。メアリの年齢を考えれば、自然なことではあるが。自分に優しくしてくれる兄を奪われたくない。なんとも微笑ましいじゃないか。
とはいえ、幼い感情だからと雑に扱うのは問題外だ。メアリにとっては、俺は数少ない味方なのだから。裏切るのはありえない。
「ああ、そうだな。俺にとっても、たったひとりの妹だよ」
「メアリはね。お兄様だけ居てくれれば、それでいいの」
メアリの世界は、狭いのだろうな。ブラック家の環境を考えれば、おかしくはないが。この子もアストラ学園に通うのだろうから、その中で、世界が広がってほしいものだ。
俺がメアリに願うことは、幸せになってほしいということ。だから、俺に何かあれば不幸になってしまうのなら、問題だ。メアリの幸福が、たくさんのもので満たされたものであるようにと、そう願うばかりだ。
「だが、俺には学園が……。ずっと一緒に居るのは、難しいな。申し訳ないが」
「うん、分かってるの。だから、提案があるの。ね、お兄様?」
「メアリのお願いなら、大抵は聞くぞ」
それこそ、人を殺してほしいのレベルじゃない限り。俺がコストを払えば良いことなら、それこそ何でも聞いてやりたいくらいだ。間違いなく、大切な妹なのだから。
「簡単なことなの。お兄様の魔力を、メアリに注ぎ込んでほしいの」
「ああ、分かった。それくらいなら、問題ない」
「じゃあ、お願い。お兄様と離れても、ずっと感じていられるように」
俺が離れて、やはり寂しかったのだろうな。だからこそ、しっかりと叶えてやりたい。一応、メアリの魔法使用に関わらない部分になら、いくら注ぎ込んでも問題ない。フィリスとともに、検証した。
だから、全力でメアリに魔力を送ってやろう。きっと、喜んでくれるはずだ。
「行くぞ。……これで終わりだ。どうだ?」
「うん、すごい! メアリの全身、奥の奥まで、お兄様でいっぱいなの!」
輝くような笑顔を見せてくれて、とても良い気分だ。多少疲れはしたが、そんなの大した問題じゃないな。というか、ヘトヘトになるくらいなら、なんてことない。メアリが喜んでくれるのなら。
「それは良かった。これで、寂しくはないか?」
「少しは寂しいかも。でも、これならきっと、大丈夫なの」
素直な感情を形にしてくれるのは、ありがたい。メアリには、あまり我慢しないでほしいからな。というか、また会いに来るべきだろうな。メアリだって、喜んでくれるはずだ。
俺だって、メアリに会えたら嬉しいからな。大切な妹として、大きな情を抱いているのは間違いないから。
「俺も、メアリと会えないと寂しいよ。でも、また会いに来るからな」
「約束だよ、お兄様。破ったら、ひどいんだから」
なんて、ひどいと言っても、可愛らしいものだろうな。だからといって、約束を破るつもりはないが。メアリを悲しませるのは、罪深い行動だと言って良い。俺を慕ってくれる、可愛い妹なのだから。
「ああ、約束だ。メアリは大切な妹なんだから、俺だって会いたいんだ」
「メアリもお兄様も学園から卒業したら、ずっと一緒にいようね」
「もちろんだ。メアリが望む限り、ずっと一緒だ」
もしかしたら、学園で新しい出会いをして、俺を望まなくなるのかもしれない。それでも、幸せで居てくれるのなら、十分だ。望んでくれる限りは、離れる気もないが。学園で手に入れたものは多いが、メアリと離れてしまうのだけは悲しい。改めて、実感できるな。
「こっちも、約束だからね。お兄様との時間、楽しみなの」
「俺も、楽しみだよ。メアリと一緒なら、どんな場所でも幸せだろうな」
「メアリも、同じ気持ちだよ。ねえ、お兄様。他の誰が敵になっても、メアリだけは味方だからね?」
「ありがとう。俺も、いつまでもお前の味方だ」
俺を信じてくれるメアリを、俺も信じる。それが、きっと2人にとって良い未来をつかむきっかけになるはずだ。
いつか、ブラック家が敵になるとしても。メアリだけは守ってみせる。言葉にはできないが、約束するよ。
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