第107話 信頼の意味
アイクの計画は打ち砕けたので、後はみんなを守りに戻るだけだ。それを達成できて、初めて安心できる。
「ミルラ、ミュスカ、急いで戻るぞ!」
「かしこまりました!」
「もちろんだよ、レックス君!」
魔力を振り絞り、全力で駆け抜けていく。とはいえ、ミルラもミュスカもいるからな。そこまで無茶はできない。俺ひとりなら、体の負担を度外視して走って、魔法で傷を癒やせば良かったのだが。
頑張ってたどり着くと、みんなが集まっていた。特に怪我を追っている人はいない様子で、安心する。
というか、敵はどうなったのだろうか。いくらなんでも、キラーウルフは厳しいと思うのだが。終盤の敵なんだから。
「あ、レックス君! こっちは終わったわよ! もう、そんなに急いで! 心配してくれるのは嬉しいけれど、私達が負けると思っていたの?」
まさか、勝ったのか? 1体や2体という感じの報告ではなかったのに? ああ、そうか。これが、信頼していないということか。みんなには、終盤の敵にも問題なく勝てる実力があった。それなのに、俺が助けてやらなければと考えていた。
それは、とがめられるはずだ。カミラが俺を馬鹿だというのも、当然だよな。
「仮にも、私達は光魔法使いと
「バカ弟なんだから、あたし達を弱い人間だと思っていたのでしょうよ。ほんと、バカなんだから」
本当に、返す言葉もない。完全に、俺が悪いとしか言いようがない。俺の手助けなど無くても、みんなは強い敵を倒せるようになっていた。あるいは、もとからだったのかもしれない。
どちらにせよ、ずいぶんと失礼な話だよな。実力に関しては、正当に評価していなかったのだから。弱くて情けなくて、守ってやるべき存在だと考えていた。そう言われても、反論できない。
それは、頼っても良いと言われるはずだ。俺がぜんぶ解決しなくても、大丈夫だったのだから。俺は抱え込みすぎていた。間違いのない事実だ。
うん、そうか。信じても良いんだな。みんななら、それなりの脅威くらい、自分の手で乗り越えられると。
「まったくですわね。レックスさん、あなたほど強くはありませんが、わたくしも強いんですのよ?」
フェリシアも、みんなも、ちゃんと強い。それは理解できた。これからは、ちゃんと正しく実力を見ていかないとな。俺のサポートが必要ないラインを、しっかりと見極めないと。
これまでは、俺より弱いということしか考えていなかった。ずいぶん甘いよな。反省すべきことだ。
「レックス様のお役に立つために、僕達みんな頑張ったんだから! ちゃんと、力になれるんだよ!」
「あたし達だって、ちゃんと強くなりましたからね。みんなで、訓練を積み重ねて」
「別に、何でも良い。レックス様、褒めて。それで、ぜんぶ許す」
許されないといけないような事をした。その通りだ。みんなの努力も、実力も、何も見ていなかったのだから。俺がひとりで全部解決すべきなんて、おかしいものな。
「あたくし達は、レックスさんより弱くてよ。それでも、強くなるわ。あなたにも、負けないくらいね」
「同感でありますな。近衛騎士を目指すものとして、たとえレックス殿が相手であろうと、守るべきものを守るのが、わたくしめの使命なのですから」
「ねえ、レックス君。私達を頼ってくれて、良いんだよ。同じ荷物を抱えたって、潰れたりしない。それは、証明できたはずじゃないかい?」
うん、本当にな。俺にできないことも、手伝ってもらう。そうしても、きっと大丈夫なんだ。少なくとも、戦闘面での実力は、確かなもの。みんなは、それを証明したんだ。
だから、これからは、相談することも大切だよな。アイクの件だって、おかしなことを計画していそうだという事実は、共有しても良かったはずだ。いま思えば、失敗が多い。
「みんな大丈夫そうで、良かったね、レックス君。私は、結局助けられちゃったけど。それじゃ、ダメだよね」
「いえ、ミュスカさんのおかげで、私は素早く仕掛けを解除できましたので。感謝いたします」
「よく分かった。お前達にも、プライドがある。それに、実力もな。俺ほどではないにしろ」
本当は、頭を下げたいのだが。流石に、レックスが平民に頭を下げるのは、まずい。少なくとも今は、他の人の目もあるのだから。申し訳ないな。ちゃんと謝るのが、人として正しい道だろうに。
「当然よ! みんな、あなたの友達なんだから! お互い助け合ってこそ、友達でしょ?」
「そうですね。これまでずっと、助けられ続けていました。でも、私達だって、レックスさんを助けます」
一方的に助けるだけの関係は、友達じゃない。それは、否定できない事実だ。片方だけが相手を支えていれば、依存でしかない。俺は、みんなと友達になりたかったはずなのにな。最初の一歩目で、間違えていた訳か。
「うん! レックス様に恩返しするって、みんなで決めたんだからね!」
「あたし達は、生きる理由を貰いましたからね。その分は、しっかり返しますよ」
「ジュリアとラナ様の言う通りです。私達は、レックス様のために生きているんですよ」
「同感。私達を褒めてくれれば、それで良い」
うん。みんなの気持ちを無視するのは、正しい道じゃない。本当に危険な目に合いそうなら、止める。でも、そうじゃない範囲なら、素直に助けてもらう。それが、ジュリア達の気持ちに報いることのはずだ。そうだよな。
「わたくしにも、譲れないものはありますわ。それは、自分の足で立つことですわ」
「そうね。バカ弟は分かってないかもしれないけど、おんぶにだっこなんて、冗談じゃないのよ」
「あたくしは、レックスさんと対等になる。それが、目標だわ」
そうだな。俺が一方的に上から見るのは、対等じゃない。そして、友達としてふさわしいとも言えない。みんなには、教わることばかりだな。ひとりで、何でもやろうとしすぎていた。それが、俺の抱える最大の問題だったのだろう。
「貴殿がわたくしめ達を守りたいと思うように、わたくしめ達も貴殿を守りたいのです」
「そうだよ。レックス君。今こそ、頼ることを覚える時じゃないかい?」
当たり前の感情だよな。俺を大切に思ってくれる気持ちは、きっと嘘じゃない。だったら、相手だって同じ考えを持っていても、おかしくない。俺だけが誰かを守りたいだなんて、そんな訳がないのだから。
うん。頼るのも、大切なことだ。俺を想う気持ちを、否定しないためにも。そんな簡単なことに気づくのに、遠回りをしすぎてしまったな。
「ああ。少しくらいは、お前達に任せてやるさ。少なくとも、弱くはないのだから」
今は、とても晴れやかな気持ちだ。胸を張って、みんなの友達だと言えるように頑張っていく。その決意は、きっと壊れないはず。そうだよな。
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