3章 アストラ学園にて

第73話 入学に向けて

 クロノが計画した事件からしばらく経って、俺達はアストラ学園に入学するための試験を受けることになった。一応、門戸は広く開かれているんだよな。誰でも受けられると言えば語弊があるが、試験会場にたどり着けるだけの余裕があれば、受験自体はできる。


 とはいえ、ただ受けられるだけで、入学はとても狭き門だ。当たり前だよな。俺の住む国、レプラコーン王国で最高峰の学園なのだから。前世で言えば、国立大学よりもよほど大変かもしれない。まあ、俺は受かるだろうが。フィリスにだって、落ちる方がおかしいと言われているし。


 俺の運営していた学校もどきから、フィリスが合格水準に達したと判断したものを連れてきている。後は、フェリシアも一緒に居るな。それに、ラナも。


 まあ、俺と同学年の仲が良い相手は、みんな受けると言っても過言ではない。学校もどきの生徒も、ジュリアやシュテルは合格できるだろうと送り出された。


「レックス様、みんなで一緒にアストラ学園に合格できるといいね!」

「あたしも、強くなったと思います。今なら、十分に合格できるはずです」

「わたくしにとっては、容易い試験ですわね。レックスさんは、間違っても不合格なんて考えていない様子ですが。自信満々なことですわ」

「私も、レックス様のお役に立てるように頑張ります」

「レックス様、私も頑張る。あの時の失敗は、今回で取り戻すから」


 いつものメンバーの他に、クロノの事件の時に食事をよそっていた子も一緒に居る。あれからとても努力していて、別人くらいに強くなった。それに、以前は敬語だったが、だいぶ打ち解けることに成功したと思う。


 何にせよ、ここにいる全員に受かってもらいたいものだ。そうすれば、アストラ学園でも、信頼できる相手が増えることになるのだから。


「兎にも角にも、試験に全力を尽くすことだ。合格しないことには、何も始まらないからな」


 ということで、会場に向かう。大勢の人が居るが、俺達は人の少ない方に案内された。貴族だと、こういう時に特別な待遇を受けられるのだ。合格水準が歪められることはないらしいが。


 ついでに、学校もどきの生徒も一緒に連れてきた。フィリスを通して紹介状を書いてもらったので、その成果だな。使える権力は、持っていて損はないものだ。


 主に貴族専用の部屋に案内されて、試験の準備をしていく。王女姉妹が居ることが確認できて、目が合うと、こっちに手を振られた。やはり、知り合いと一緒だと落ち着くな。


 お互いに合格して、同じ学び舎で過ごしたいものだ。まさか、王女姉妹の実力で落ちることはあるまいが。


「ミーア様、こちらの水晶に魔力を注いでください」

「分かったわ! 行くわよ!」

「流石は王女殿下でございます。まさか、魔力値が500を超えるとは」


 確か、『デスティニーブラッド』だと、魔力値が100で合格ラインだったんだよな。それでも、例年より豊作で基準が高くなったと伝えられていたはずだ。物語でよくある、主人公の世代が黄金世代だというやつだな。


 水晶はいくつも用意されており、俺達は分かれて、それぞれに列に並んでいく。俺が後の方になりそうだな。ちょっと、失敗してしまった。まあ良いか。他の人の様子が確認できると思えば良い。


「こっちは300超え、400超えもいます! 大変なことですよ!」

「順調なようだな。狙った通り、合格者は増やせそうだな」


 俺の知り合いはみんな合格水準を超えているようで、一安心といったところだ。他の人も受けているが、結果が好ましくない人間だって居るみたいだな。


「たった40なんて、何かの間違いに決まっている! もう1度測定させろ!」

「お引き取りを。この水晶はフィリス様も監修したもの。あなたの実力が足りないだけです」

「それなら、思い知らせてやる! ……がはっ!」

「アストラ学園の教師は、合格者に魔法を教えるんですよ? その程度の力で、どうにかできるとでも?」


 自分の測定結果が不満で、教師に八つ当たりしようとした感じか? あるいは、実力で認めさせようとしたのか? どちらにせよ、愚かなことだ。管理できない、強い力を持った人間がどんな扱いを受けるかなんて、想像するまでもないだろうに。


「さて、俺の番だな。ここに、魔力を注げば良いんだな?」

「魔力値、600、700、まだ増えて……! 測定不能!? そんな事、初めてですよ!?」

「フィリス様ですら、ちゃんと測定できたのに……」


 なんか、周囲からは化け物を見るような目を向けられている気がする。主に、知り合いではない教師と受験生から。


 とはいえ、知り合いからは尊敬というか、頼もしいものというか、とにかくポジティブな感情が見えるのだが。まあ、他人なんてどうでもいいか。どうせ、受験生のほとんどは、今日で二度と会わなくなるのだろうから。


「レックス様、本当に凄いんだね。前から強いとは思っていたけど」

「当たり前よ。レックス様なのよ? 他の人に測れる程度の存在じゃないわ」

「あたしも強くなったと思いましたが、まだまだ遠いですね」

「これで、わたくしを強いと言うんですもの。皮肉か何かですわよ?」

「俺が世界で一番優れているなんて、当たり前なんだよ。その基準で他人と比べるのか?」

「レックス様、すごい。私達、誰も勝てない」


 とりあえず、知り合いには受け入れられている。フェリシアの言葉も、親愛の表現だろうし。本音だとしたら、ちょっとまずいが。皮肉だと思われているのなら、問題だと言うしかない。


 まあ、みんなを守れる力だと思えば、悪い気分でもないな。認めてくれる人が居るという事実は、やはり、ありがたい。


「私より目立っているわね……。ま、レックス君なら、強いのは当然よね!」

「姉さん、これで王族の威厳がどうとか言われたらどうするんですか? 面倒で仕方ないですよ……」


 王女姉妹も、あまり気にしていない様子だからな。この調子なら、学園でも仲良くやっていけるはずだ。それに、原作で起きる事件を考えれば、強くて損はないはずだ。


「あれが、闇属性……。あたくしも、負けていられないわ」

「ミーア殿下のお気に入り……。近衛騎士を目指す上で、避けては通れないでしょうか」

「同じ闇魔法でも、あそこまで差があるんだね。ちょっと、悔しいな」

「あれが、レックス・ダリア・ブラックか。俺は、勝てねぇ……」


 他と違うような反応をした方を見ると、見覚えのある顔をしている人が多くいた。原作キャラも、この場にいるらしい。原作でも上澄みだった人間なのだし、合格は間違いないはずだ。


 とりあえず、今は顔を知られただけ。だが、できるだけ良い関係を築いていきたいものだ。原作の事件を乗り越えるためにも、協力者は多い方が良い。


 新しい出会いが待っているだろうし、困難も待ち受けているだろう。それでも、みんなと生きる未来をつかみ取ってみせる。今日の試験は、そのための一歩だ。


 合格した上で、もっと強くなっていかないとな。油断も慢心も禁物だ。原作でも、多くの強敵がいたのだから。


 とはいえ、これから先の学園生活が楽しみだ。王女姉妹との時間も、原作キャラとの出会いも。いろいろと、頑張っていこう。

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