第74話 努力の証
アストラ学園の試験も終わり、結果を待ちながら、色々な準備をしていた。俺は合格するという前提で動いている。落ちていたら赤っ恥だな。とはいえ、備えるべきことは、とても多いからな。学園が中心となって、様々な事件が起こる。その中には、世界の危機だってあるんだ。である以上、準備をしないなんて論外だからな。
ということで、生徒以外にも人を学園に送るために準備をしたり、道具を用意したり、鍛錬を続けたり、思いつくことを、できることから試している。
今の感じだと、フィリスとエリナは学園に送り込めそうだな。俺の意志を察して動いてくれる相手だから、とても頼りになる。実力面でも、人格面でも。
「レックス様、手紙が届いております。包みから察するに、アストラ学園の試験の結果でしょう」
「ご主人さまなら、絶対に合格していますよねっ。おめでとうございますっ」
ということで、金の印が押された手紙を渡された。念のために、学園に入学したことがある父さんと母さんに確認することにした。偽物である可能性も、想定したほうが良いだろうからな。
「父さん、母さん、アストラ学園から手紙が届いたみたいだけど、これ、本物に見える?」
「間違いないだろう。その印を偽造したら、大罪だからな。結果が届いたか。お前なら、合格しているだろうな」
「レックスちゃんは、とても強いものね。不合格にするようなら、学園の方がおかしいくらいですわよ」
ということで、中身を確認していく。すると、読み始めた段階で、気になることができた。
「ふむ、ジュリア達の結果も、俺のところに届いているのか。なら、みんなと一緒に見た方がいいかな」
まあ、俺の家で管理している相手だし、試験にもブラック家を通して手続きをした。そうなると、おかしいことではないのか。『デスティニーブラッド』だと、入学式が物語の始まりだからな。合格したらどういう手続きをするのかの話はなかった。
原作で、ジュリアはどんな感じで受験したのだろう。無属性に目覚めたことがきっかけで、受験することになったのは知っているが。
まあ、知らなかったところで、大きな影響はないか。いま気にするべきことは、誰が合格しているか。それだけだよな。
ということで、学校もどきの方に向かって、みんなで集まる。さて、結果はどうなっているか。緊張してきたな。まあ、俺が落ちるなんて事はありえないだろうが。それでも、他の子の様子だって気になるからな。
「お前達、アストラ学園の試験の結果が届いたぞ。お前達の成果を、確認させてもらう」
「あたしの分も、あなたのところに届いているんですね。居場所を考えれば、当然ですけど」
「レックス様、早く見ようよ! どんな結果か、楽しみだね!」
「あなたに貰った恩を返すために、合格していたいですね」
「レックス様、合格していたら褒めて」
ラナの言うことは、本当に気になる話だ。インディゴ家に結果が送られても良いだろうにな。まあ、一緒に合格発表を見られると思えば、悪いことではないが。
ジュリアは、かなり余裕だよな。楽しみなんてセリフは、自信がないと言えないだろうからな。まあ、頼りになると思えば良い。
シュテルとサラの反応は、まあ普通だろう。結構、落ち着いているとは思うが。前世での受験の時、結果を待つ時間はドキドキしたなんてものじゃなかったんだよな。
まあ、それは良い。準備ができている様子なので、結果を見ていく。
「合格者は、俺、ラナ、ジュリア、シュテル、サラ。受けた人間は、全員だな。お前達、よくやった」
「レックス様にもらった恩を考えれば、あたしが落ちる訳にはいきませんからね」
「というか、離れ離れになるのは嫌だよ! せっかく仲良くなれたのに!」
「私も同感ね。レックス様のお側で、支えたい気持ちがあるもの」
「レックス様のために頑張った。撫でてくれて良い」
「念のために言っておくが、入学が終わりじゃないんだからな? ちゃんと備えておけよ」
というか、事件が起こることは間違いないからな。この子たちが落第するくらいなら、別に構わない。ただ、事件でなにか傷を負ったり、犠牲になるようなことは許せない。だから、気を抜かないでほしいものだ。
未来で何が起こるのか、言葉にできないのがもどかしい。なぜ知っているのかを説明できないし、当たる保証もない。言葉にしたところで、意味はないに近いんだよな。それなら、何も言わなくてもいいのか?
できることなら、危険が待っているかもしれないことを、言葉にしておきたいのだが。難しいものだ。原作の知識なんて言い回し、理解させるのも無理だろうし、言ったところで妄想だと思われて終わりだろう。
まあ、今は合格した人を褒めるのが大事だろう。いくらブラック家でも、努力を認める言葉くらいは、問題ないはずだ。
「分かってる。でも、撫でてもらう権利はあるはず」
「わ、私も、お嫌でなければ……」
「あたしは、さっきの言葉だけで十分ですよ」
「ラナ様、控えめアピールなんてしちゃって! 僕だって、撫でてもらわなくても十分だよ」
「私が強欲みたいな物言いには、断固抗議する」
「レックス様が相手なら、色々されたいのも仕方ないと思います……」
「撫でるくらいなら、強欲とは思わないがな。むしろ、安いものじゃないか?」
というか、もっと多く要求されても、問題ないと思っている。間違いなく、とてつもない努力を重ねてきた子たちだからな。それに報いるのも、大切なことなんじゃなかろうか。
まあ、俺の言葉を受けて、ラナはちょっと不満そうにしているのだが。何か、言葉の選択を失敗してしまったのだろうか。
「乙女の純情を安いものと言うのは、あたしとしてはちょっと……」
「撫でてくれるのなら、それでいい。レックス様の口が悪いのは、いつものこと」
「というか、恩が多すぎて、返せるのか心配ですよ。ジュリアも、私も。妾のこと、考えておいてくださいね」
「妻もいないうちから妾の話って、気が早くないかな? 今のうちは、学園でお役に立たないとね」
「うん、私も、頑張って役に立つ。だから、今は撫でて」
「私も、お願いします……」
「仕方ない奴らだ。ほら、頭を出せ」
ということで、サラとシュテルを撫でていく。
サラは、普段はキャスケット帽を被っているのだが、今回は自分から外した。まあ、撫でるのなら、邪魔だよな。サラの茶髪は、ちょっと指の通りが悪い。小さくて細いから、栄養が足りていないんだろうな。今はちゃんと食べているから、かつての栄養が足りない時期に、成長できない体になってしまったのだろうか。
まあ、撫でていることには満足している様子だから、そこは良いのだが。目を細めて、心地よさそうにしている。
シュテルは、ウェーブのかかった髪だから、なんというか、ふわふわした感じだ。こっちは、落ち着いた気分に見えるな。安心していそうというか。
2人とも、かなり気に入ってくれたみたいで、手が離れた時には名残惜しそうにしていた。まあ、喜んでくれるのなら、ありがたい話だ。あまり、表立って礼を言えない立場だからな。好意を形にできる何かがあれば、ちょうど良い。
「レックス様ってば、素直じゃないね」
「この人にも、立場があるんですよ。あたしには、分かる気がします」
なんというか、見透かされているような感じもする。とはいえ、本心が通じているのなら、助かる。父や周囲の貴族に気づかれたら、問題なのだが。信頼できる相手なら、むしろ知られた方が良いからな。
学園では、どのような態度をとるべきか。今から、しっかりと考えておかないとな。
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