第61話 わずかな不安

 ジュリアが無属性魔法に目覚めたので、それを成長させていきたいところだ。原作でも重要な魔法だった無属性魔法は、俺にとっての切り札になるはずだからな。


 だからこそ、ジュリアとの関係は大事にしたい。こうして思えば、学校もどきを開けたことは幸運だったな。それがあったから、いま彼女と仲良くできているのだから。別の道を選んでいたら、敵対していた可能性もある。


 とりあえずは、目の前の無属性魔法を強化することだな。そのためには、誰かのアドバイスも欲しい。そのための適任は、俺の知り合いには一人しかいない。


 なので、フィリスの元へと向かう。彼女はすぐにこちらを向いて、薄く笑った。最近は、感情を表に出すことも増えたよな。仲を深められている証だろう。今後を考える上で、とても大事なことだ。


 フィリスは、原作でも最強格の存在だからな。大抵のプレイスタイルでは、王女姉妹よりも強くなりがちだ。限界まで鍛えたら、光属性使いのミーアには負けるのだが。


 いわゆる、救済キャラ的立ち位置だな。ぶっ壊れ一歩手前まで行っていた。


「フィリス、無属性魔法に興味はあるか?」

「……微妙。今は、レックスの闇魔法を見る方が楽しい」

「いや、俺の抱えている生徒に無属性に目覚めた人が居てな。一緒に見に行かないか?」

「……それなら。レックスが一緒なら、悪くない」


 珍しい魔法が見たくて、俺のもとに来たのだろうに。それでも、無属性魔法よりも俺に興味を持っている。ありがたい話のような、困ってしまうような。少なくとも、仲良くできてはいるのだろうが。


 ということで、2人でジュリアの元へと向かう。いつも通りに訓練しているジュリアを見つけると、こちらに駆け寄ってくる。


 相変わらず、ジュリアはよく懐いてくれているな。なんというか、大型犬みたいな可愛らしさがある。攻撃されたら厄介なところも含めて、かなり似ているんじゃないだろうか。


「ジュリア、フィリスは知っているよな。今日は、こいつにお前の魔法を見てもらう」

「前にも魔法を見てもらったよね。凄い人なの?」

「フィリス・アクエリアスは知っているか? この世界でも有数の魔法使いなんだが」

「えっ、あの? 僕でも知っているんだけど」


 田舎出身だから、知らない可能性も想定していた。だが、流石に知っていたか。まあ、伝説級の存在だからな。いくつも、物語が残っている。例えば、国を滅ぼす竜を退治したとか、軍勢に攻め入られて、逆に全てを葬ったとか。


 多くの人が憧れて、影すら踏めない魔法使い。原作でも、対抗できる存在は少なかった。メアリやフェリシア、カミラでは勝てないと描写されていたな。まあ、彼女達は原作よりも強くなりそうではあるが。


 圧倒的な力を持っているのがフィリスであるというのは、変わらない。おそらく、彼女に勝てる存在は両手で足りる。


「それが、このフィリスだ」

「……よろしく。レックスのついでだけど、あなたの魔法を見る」

「レックス様、フィリス様にまで認められてるんだ。凄いなあ」

「お前だって、十分な才能があるはずだ。まずは、色々と検証していこう」


 とりあえず、ジュリアに様々な形で魔法を使わせる。小さくまとめさせたり、大きくさせたり。収束はどこまでできるのか試したり、逆にどれだけ薄くできるのか確かめたり。


 どんな形にできるのか、作りやすい形はあるのか。他の魔力とぶつければどうなるのか。フィリス自身も実験に参加していた。


「……結論。魔力の形を変えてぶつけるだけ。それ以外はできない。ただ、同じ量の魔力を込めれば、私の魔法より威力は高い」

「単純だが、だからこそ強い魔法だな。ジュリア、その力で、俺の役に立ってもらうぞ」

「もちろんだよ。この力は、レックス様とシュテルのためにあるんだから」


 幼馴染であるシュテルと同列に扱ってもらえるとは、ありがたいことだ。相当、仲良くできているよな。だからこそ、戦わせる未来が申し訳なくもなる。


 俺がただひとりで全部を解決できたならば、何も悩まなくて済んだのだが。とはいえ、俺ひとりの手で何もかもをこなそうなんて、傲慢が過ぎる。人間には限界がある。その事実は受け入れるべきだ。


「……有用。レックスにもできないことも、できる可能性はある。良くも悪くも、ただ強いだけの力」

「ああ、そうだな。俺やフィリスの魔法ほど、応用の幅は広くないだろう。ジュリア、お前はお前の最強をぶつけるしかできない」

「うん、分かっているよ。僕の魔法は、あくまで敵と戦うためのものだって」


 確かに、戦い以外の選択肢は少なそうだよな。後は、重機代わりに使うというのも思いつくが。それだって、結構過酷だろうからな。大切な相手にやらせたいことではない。


 それに、必要のない戦いに挑んでしまわないかが心配だ。仮に勝てたとしても、戦いは苦しいものだ。できるだけ、体験させたくはない。俺は、戦いのつらさをよく分かっている。だからこそ、親しい誰かには味わわせたくない。


 人を殺す感覚も、武器を向けられる恐怖も、知らなくて済むのなら、そっちの方が幸福なんだ。


「くだらない蛮勇で、みっともない姿を見せないことだな」

「もちろんだよ、レックス様。あなたのお役に立てないのなら、意味がないんだから」

「そうだな。せっかくだから、俺と魔力をぶつけあってみるか? あるいは、俺の魔法に対抗してみるか?」

「頑張るよ、レックス様!」

「……期待。どんな結果になるのか、興味深い」


 ということで、俺とジュリアで魔法をぶつけあったり、相手の魔法を受け止めたりしていた。結果としては、今の俺とジュリアなら、百回やって百回とも俺が勝つだろうという感覚だ。


「ふむ、俺の魔法なら、ジュリアの魔法に侵食できるんだな。これなら、戦えば俺が勝つな」

「流石だよ、レックス様! とっても強いんだね! 分かってはいたけれど、もっと実感できたよ」

「……感心。無属性魔法は、闇属性に対して相性が良いはずなのに」


 それからもしばらくはジュリアの魔法を検証していたが、少しだけ不安が襲ってきた。俺がジュリアに簡単に勝てるのなら、原作での敵もジュリアに勝てるんじゃないだろうか。


 少なくとも、無属性魔法は、闇魔法に有利を取れる魔法だったはず。その効果を感じられないから。


 ジュリアやフィリスと別れてからは、今後どうするかで頭がいっぱいだった。


「俺の魔法でジュリアに対抗できるのなら、今後の敵に、ジュリアは勝てるのか?」


 もし、ジュリアが負けてしまったら。良くない未来が訪れる。それだけじゃない。ジュリア自身が犠牲になってしまう可能性もある。そんなこと、許せない。


「原因が分からないと、厄介だな。俺も、もっと強くなる必要がありそうだ。ただの闇魔法使いなら、俺でも対抗できるだろう」


 なぜ、ジュリアの魔法に俺の魔力が侵食できるのか。それを知りたい。フィリスで分からないものを、俺が理解できるかは怪しいが。


 もし、何か変なことが起きているのなら、その対策が必要だ。解決できないのならば、俺がどうにかするしかない。ジュリアの魔力か、あるいは原作の敵を。


 ジュリアが味方になったから安心だと思っていたが、今後も厳しい未来が待っているのかもしれない。そんな気がした。

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